雪村太一探偵社
さて、先日も話した通り……太一は本業としての探偵を再開していた。調査依頼は様々ではあるが浮気調査からギルドの代行やら大小問わずに引き受けていた。ギルドでの評価も高くギルドでの直接の依頼と探偵社としての依頼の相乗効果により、生活は元より様々な人脈を作る事が出来た。故に雪村太一という人物は表でも裏でも名を知られる男となった。勿論それは彼一人だけの功績でもない。
「……ボス、案件終りました」
黒スーツの似合うスキンヘッドの奥二重の男。高身長であり拳には無数の斬り傷[呪拳の斬左]呪拳というカウンターを主体とする倍返しを主体とする魔法拳の使い手斬左が太一に声をかける。
「ありがとうございます、斬左さん、こちらの依頼は早急に対処する案件でしたので、殲滅系は疲れましたしょう」
「いえ、あっしは拳闘っていっても邪道のもんですから………仕事あるなら使ってくだされば幸いでさあ」
にこりとスキンヘッドの男が言う。
「そうっすよー、うちらはボスに拾われてようやく全うに暮らせてるんすから」
若い女の声が響くと同時に自宅兼事務所の扉が開くと手首に外れた手枷をつけた黒スーツの黒いサングラスをつけた短髪のブラウンの髪をしたまだ幼さの残る美少女が入ってきた。[人斬りラムザ]かつて亡国の騎士であった少女騎士の一人で特殊な双剣術を操り多くの敵を葬ってきた。だが仕える国が無くなると同時に彼女は超級の戦犯へと様変わり賞金をかけられ数多の敵を葬りさっていたが………ある時を境に太一に仕える事になる。
「そうでござるな、拙僧達は太一殿に救われた身……労いは過ぎた事である」
黒い僧服を着た髪を剃りあげた大柄男も微笑みながら後ろから現れる。太一よりも大きい背に巨大な数珠[無頼僧]の通り名で知られる仏を冠する国よりきた風来の僧………名はシレン、彼もまた国から追われた僧の一人で太一に拾われた一人でもある。一人一人が世界に名だたる凶悪犯の肩書をのせているが、太一の金銭に寄る恩赦により自由の身となり、現在はこの探偵社の社員でもある。何故このようになったかは後日話すが、三人ともが太一をボスとして尊敬をしており、懐刀としての手腕を発揮している。
「……社員の君達に労いは雇用する側としては当然の事だ、それを踏まえてボーナスも考えている」
その言葉に三人はどよめくが太一はにこりと制すると、いつもの無表情から苦笑へと移行する。何故ならばその名前は誰もが知っているトリックスターと名高い悪徳の都………ゼロを統治する組織の統括者……ロキ=クレイモア……陽気な褐色の頭に王冠をのせたゴシックロリータを着た妙齢の女性。彼女は我儘にして単身にて国を落とす策士の女王とも呼ばれる不敵な女性。かつて何の法も産まなかったゼロの地に恐怖と戒律を作った人物の一人、左腕と右腕にはシスターズという女性二人がおり、彼女の持つ戦力は目に見えず国を内側から破壊するほどの力を持つ。裏世界では厄種として見られているほどの女性である。二つ名は[混沌]……彼女はカオスを望み遊び全てを壊してはまた秩序を作る。
「……彼女は可愛い人だが、少し自由すぎるからね」
「……ボスだけですよ、そんな風に言うのは」
「……で、何の依頼なんすかー?」
「……拙僧、ロキ殿は少し恐ろしく思うのであります」
「そういってくれるなよ、友人なのだから」
太一はにこりと書類を皆に渡すと
「……わが社に優秀な社員を見つくろってくれたようだね」
「「「この刑務所、死罪確定の凶悪種ばかりいるとこじゃないですか」」」
社員の発言が重なると同時に太一はにこりとまた微笑み返した。その刑務所の名前はカトラス刑務所。海賊の使う刀をモチーフにした絶海孤島に浮かぶ、世界を滅ぼしかねない変異種や上位種等が収容される狂気の刑務所である。
「……まあいいんじゃないかな?」
太一はあっけらかんと笑う。




