黒龍の憂鬱(後日談)
「…なんでまた貴女が」
眠たげな眼をこすり目の前の女性……ラグナに声をかける。アギエルが居を構えているのは、主である雪人の店の二階。従業員用の数部屋の一角である。机とベットしかない部屋からのそりと黒い髪をあげながらふうと艶めいた声を出す。
「…聞いてないのか? 私はこちらの大学院の方に進学する事になったわけだ、まあ先日のお礼もまだであるからな」
「…国を崩壊させた本人に礼も何もないだろう」
アギエルは目の前の私服のラグナに声をかける。今日は薄手のシャツに暖かなコートどこか大人びた雰囲気のラグナはにこりと微笑む。
「国は科学者の方々に寄付したよ、最早国としての機能は損なっていたからね、生き残った国民はこちらの国へと住まわせて頂いた、私は最後の翡翠国の王族というわけだ、そもそも王族の肩書自体好きではなかったから、一人の女性として学べるのは嬉しい」
「…」
「それに貴方にとても興味がある」
「…やれやれ、とんだお嬢さんもいたものだ、今日は休みだ、仕事もない、よろしければ珈琲でも淹れよう」
「それは嬉しい、是非とも話をしようではないか」
アギエルの言葉にラグナは静かに微笑んだ。
 




