黒龍の憂鬱(中編)
目の前の黒衣の男に九龍に住む男達は圧倒されていた。彼らは所謂無国籍の男達で記録に残らない存在しないはずの男達、この街の暗部を知りつくし依頼さえあれば全ての悪行を行う人間達。そして能力も誰もがこの魔都を生き抜くに値すると信じていたが……。
「……化け物だ……」
目の前の男はそれすらも圧倒する。それぞれの魔術を片手で払いのけ得物を素手で破壊する。そして何事もなかったかのように前進する。そうまるで死神だ。
「……やれやれ、まだ幼い少年に大層な事だな、まあ辿ればわかる」
そう言うと同時に男達の意識は途切れ、鉄人に声をかけると同時にアギエルは転移した。
「……美しいな、君は」
「非常に無様なやり方だがな………そちらは」
紅い軍服にサーベルを腰に携えた銀髪の美しい女性に声かける。美しい翡翠色に白磁の肌、唇の紅はどこか妖艶さを醸し出す。また胸と腰のラインは普通の男であれば惹かれることだろう、そして軍服につけられた紅い翡翠の紋章。
「……翡翠国の姫君がこの魔都に何用だ?」
「それは七天龍……闇のアギエルがわざわざヒトとしてこの場所に来る事よりも重要かな?」
「ああ、それによって主の美味い飯が喰いっぱぐれないでいい」
凛とした翡翠国と呼ばれる国の姫はアギエルにくすりと笑う。
「……私の国は魔導兵器に長じた魔法大国だ、兼ねてより多くの術式を開発してきた、そして父を狂わせる兵器が産まれた」
「……通称エーテルタイプか、魂の強制抽出の方式はもう開発されていると聞く」
「……聡いな、さすが七天龍の内もっとも奔放なだけはある」
「……姫君、貴方の使い魔は俺と同族であろう? 光のラクシャーナ………」
「……わかるかね、同じ混沌から産まれし七匹の至高たる龍、彼女は君達を兄と慕っているね、私の名前はラグナ=翡翠、父上の愚行を止めに来た、なんなら私の意識をみてもかまわない」
「……わざわざ辿らせたなら、意味もないでしょう、それよりラクシャーナは?」
「使いを済ませてるよ」
アギエルは脳裏に浮かぶ妹を思い浮かべながら少しだけ眉間に皺を寄せた。
「アギエル兄ちゃんに会える! きゃほおおおおお!!!」
目の前の研究者然とした男達を思い切り殴りながらハンチングにデニムジーンズと半袖の白いシャツにファーブーツを履いた可愛らしい白金の髪の少女は飛び上がる。
「ラグナちゃんには燃やしていいっていわれたし、ある程度はブッ消していいと言われてるもんねえー」
そういうと口に小規模な光の渦を発生する。
「ガー(ドラゴンブレス)」
やる気のない発声と共にその場所は光に包まれた。




