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とある異世界にて狩人は笑う  作者: 作者不明
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黒龍の憂鬱(前篇)



その日、長い人生の中で一番の憂鬱なのかもしれないとアギエルは思った。その日はいつもの如く自分の主の突飛な発言だった。




「おう、アギエル、ちっとあっこ言ってきてくれ、九龍(クーロン)に」




「……\…いきなり何を言うんだ、主」



九龍とは東大陸に広がる魔都の事である。差別もなければあらゆる貧困もないが……、それと同時に悪や正義などの肩書の通用しない……いかれた都でもある。どの国からも干渉は受けないと同時に、あらゆる犯罪者や凶悪な人種が住んでいると言われる。




「まあ、いいべよ、お前なら人化しても、遅れはとらねえべ、てっちゃんがやばいらしい……行ってやんな、俺は嫁さん見ないといけねえからよ」



「……ならば仕方がない……鉄人さんは友人であるからな、主の」



菅根鉄人すがねてつひと純粋な和人の一人で、九龍のもっとも闇深き下層部に居を構える情報屋の一人、アギエルも一度会った事はあるが、どこか飄々とした白髪の老人でどこか主とも気が合いそうなひょろながい作務衣の男だった。




だが左腕には属性文字を表す特殊な紋様、虹色に近い色で施されてい刺青は全属性の証、和人特有の刺青術、自分の魂の力と世界の魔素、通称マナと呼ばれる魔法エネルギーを己を媒体にして放つ特殊な術の使い手でもある。



基本的に器の適合性もあるので紋様の色を刻み合わせ様々な紋様を産み出すのがこの術式特有のものなのだが、鉄人老人の術を行使するための器は今世最大級のものともいわれているので、正直な話、厄介な事は間違いないのだ。



「あっちゃんあたりに九龍の情報更新も頼まれてるからたのまあ、帰ってきたらできたばかりのどぶろく空けておめえの好きなもんこさえるからよお」



「……承知した」






アギエルはこの日、その判断をした事を少しだけ後悔した。






魔都九龍

多くの種族と多くの猥雑な物が蔓延る無秩序な街。鉄骨聳えるビル群がこの世界の暗黒さと不可思議な明るさを象徴している。





「……さてリン・メイファといったか? 鉄人老人に会いに来たのだがこれはどういう状況かな?」



「……私も聞きたいネ、鉄人爺ちゃんの事ハ」



後ろの居るチャイナドレスを着た御団子頭の黒髪の少女と背中合わせに黒いコートを着たアギエルはため息をつき、周りの黒いスーツの男達を見る。



「……どうせあの人の事だ、厄介なネタとやらを掴んだのだろう」



自分の主と友人になる人種は大概厄介な人種であることをアギエルは知っている。そしてこの鉄人老人と知り合いのリン・メイファという少女も………。




「……ふむ、半龍人か」



「何でわかるネ!」



「……魂の色くらい隠せ」



「……お兄さん何者?」




「さてな」




アギエルは足元に転がる鉄パイプを持ちあげると、ふむと頷く。



「……まあ人化した俺には丁度いいだろう、リン、君の事情は後で聞く、俺も主に使いをされたのでな……とりあえずは俺の用を済ませてからだ」



「わかたネ」




黒いスーツの男達が襲いかかると同時に一閃。




「覚えておくといい、技術は伴えば名刀にも負けん、まあ打撃だから死にはしないがな」



主からは余程の事がない限りは死を伴う攻撃は禁止されている、闇の龍は基本、殺傷を好むものではあるが、アギエルはその中でも人間寄りの考え方を持つ龍種であるのでどちらかというと人間社会に交わる龍人としての立場が近かった。龍もヒトと交わる事もあるが生来のヒトの気質を持つ龍人とは違い、自分が愛した人間や認めた人間でない限りは交わる事はしない、ましてや始祖龍に次ぐ古の龍であるアギエルは珍しい龍といえよう。故に主と見定めた男の条約は護る。





「……だが気絶させては聞くも聞けないか」




「それにはおよばんぞーい」



聞き覚えのある老人の声が聞こえ、下駄の音が鳴り響く。



「鉄人さん」



「久々じゃの、アギエル君、リンも悪いのう」



いつもの白髪の老人の傍らには5つくらいの幼子が抱えられている、黒髪黒眼、どうやら和国の出身の少年らしい、そこでアギエルは幼子の魂の質に聞く。




「……鉄人さん、その子……[魂蔵たまぐら]持ちか」




「アギエル君にならわかるか、まあ場所を変えよう」




鉄人に言われ鉄人の住居へとあがる。男の住居にしては清潔感あふれる物の少ない部屋だった。本棚と客用の机に寝る用のベットがみっつほど、質素な生活をこころがけているようだ。




「さて、リンは名乗ったんじゃな、まあ弟子じゃ、彼女はそれと養女でもあるから娘でもあるの、この坊主も孫といった所だ、ヤクモという」



幼子はぺこりと頭を下げるとリンの後ろに隠れる、鉄人の言う話というのはこういう事だ。鉄人の扱う刺青の術は正しくは紋様術と言い………魂の質と魔力の質で威力の決まるといっていい代物だ、最盛期の時代は数カ国を一人で圧倒できるほどの能力を秘めた秘術。現時点でその最高レベルの能力を有してるのは鉄人だけといってもいい。弟子であるリンからは通常より強いレベルの力しか感じられなかったが……。




「……ヤクモを見たらわかるだろう? この子はいずれ私を越える、そして魂の有用性はお前さんの方がわかるだろう?」



アギエルは魂の有用性について、深く頷く、魂とはいわば高密度のエネルギーとしてもとれ、近年非人道的な国々ではその魂をエーテルという魔力に変換して大規模な魔術兵器として用いられるぐらいだ。魂一つにして最上級一つ分のエネルギーが生産される、魔力が枯渇すると魔術師は魂を削り術を行使する。それを人工的に兵器の回路に繋ぎ無理矢理起こさせるのだ。通常の人間ならば確実に死ぬ。だが魂蔵たまくらというのはいわば無限の魂を内在した稀有な人間で、不老ではないが不死であるという極めて異質な魂の持主である。故に無限に力を注ぎこめる存在として、裏社会から目をつけられやすい、魂の純度は若い方がいいとされる。そしてここは魔都九龍―――。




「例にも漏れずにヤクモ君を狙いにきたか」



「ここじゃ個人情報なんざ紙きれ一つで買えるからの」



「……まあまた外の奴らを黙らせてからですね」



そういうとアギエルは外へと向かった。


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