運命は螺旋の如く
運命は螺旋の如く。
白い……白い空間だ。
太一は無表情な表情でその何もない空間を見る。
確か自分は所長に頼まれた案件でDVの問題を解決しようと……。
「……ああ、刺されたんだった」
普段ならばいなすのであるが丁度その依頼者の女性の小さな子供が後ろにいるのを見て咄嗟にその子供を庇い包丁で刺されたのだ。加害者のDVをする夫の方はなんらかの違法な薬に手を出していたような気もするし、それはともかく後からかけつけた所長と事務所の連中に警察は呼ばれ無事依頼者達は保護されたが、何分自分は失血量が多かったようで死ぬとはわかりきってはいたがいざ死ぬとなると少し困るものがある。
別に問題ある事はさしてしてはいないが、家族である父と母は早くに亡くしたし……、一人身であるから気楽ではある。探偵という生業も一人身の気軽さと何か人助けをしてみたいという気持ちでしたようなものだった。
同僚達とは実に仲が良く死んでしまった自分を護れなかったのを苦にするだろうなと思い、少しため息をつく。あの強面の所長は特に……。
「いやいや君みたいな善人何世紀ぶりに見ただろうか、いや最近も見たな」
白い空間にパチパチと拍手の音がする。
自分は後ろを振り向くと丸眼鏡をかけた長身の美女がいた。
容姿として最上位に位置するだろう、身長としては自分よりも10センチほど低く、胸元の露出は眼をそむけるほどの巨乳。スタイルはどこぞのモデルといっても差し支えはない。髪の色はプラチナブロンドで眼は紅い。アルビノというものかもしれない。白衣を羽織った中華風なドレス。とてもバランスが悪いようには思えるがそのアンバランスさが彼女の魅力を引き出している。
どこか幼いような表情に猫目の整った顔立ち……唇はふっくらとしている……。はて自分はこの女性をどこかでみたような気がする。
「……相変わらずね、太一兄ちゃんは」
目の前の見知ったはずの女性の肩を竦める仕草を見て自分は驚きの声をあげる。そうこの女性は知っている。いや自分の高校時分……仲の良かった妹分……神藤リンネだ……!!確かに髪の色や紅い眼は産まれつきのものと言っていたが………。
このコロコロ笑う妖艶な仕草も近隣の男子校の男子を熱狂させた事も記憶に新しい……そして一番懐いていた父方の祖父雪村雪人と共に消えたはず……。
「ほんとに兄ちゃんはいつも誰かを助けてるね」
リンネはクスクス笑いながら自分の前に立つ。
「………実は神様でしたっていったらびっくりする?」
「………現実だからな」
「兄ちゃんは相変わらず無表情だなあ」
これでも感情は出るようになったほうなのだが………いつもの黒いスーツに血痕がない所を見るとどうやら魂というものにもなっているらしい。自分はいくつかの質問を頭の中でまとめると質問をする事にした。
「リンネ……君は何の神だ?」
「創造神の一角だね、ほら地球にもそういうお話あるでしょ?私は世界の創造を司る神」
なるほど、確かに昨今の小説の中にそのような描写の作品も数多くはあるが……まさか自分の妹分がそのような神とは恐れ入る。
「……人間として生きていたのは?」
「創造神もちゃんと魂の事も勉強しないといけないからね」
リンネの言葉にたしかに生命に関わる以上は神としての責任も果たさなければならないのであるのなら必要な行動なのだろう。自分としては可愛らしい妹分が随分と豊満に育った事に驚きを隠せないでいた。昔の彼女はそれはもう―――。
「……兄ちゃん……もう絶壁ではないのだよ」
「……心を読むのは当たり前か」
「……私以外の女神にいったら殴られるわよ」
「自分もリンネ以外には言わないがな……妹とじゃれあうくらいいいだろう?」
「……兄ちゃんのたまの笑顔は反則だ」
リンネは顔を紅くしながらため息をつく。
「……まあ兄ちゃんが鈍いのは今にはじまった事じゃないし」
リンネはため息をつくと同時に自分も首をかしげる。
「……神様に惚れられるってよっぽどなんだけどなあ」
「小声でよく聞こえない」
「いいの!!」
リンネは眼鏡をきゅっとかけなおすと。
「…まあそれが兄ちゃんだからね、兄ちゃん、貴方は生涯をかけて多くの魂や迷える誰かを救い続けました」
自分としては大した事はしてないと思うのだが……。
「兄ちゃんが救った数は24年の生涯で200万人……もう普通に奇跡です……よって多くの神々から[祝福されし者]の称号を差し上げます!!」
「……なんだその称号は」
「色んな救いの中で無心に見返りもなくただひたすらに誰かを護り通した人間に与えられる第一級の聖なる称号なのです!神様の色々な加護が貰えます!!」
リンネはびしり!と指をさすと自分はふむと頷いた。
「それはありがたいことだな、神様達には感謝せねば」
「……兄ちゃんは相変わらず無欲ね」
リンネは苦笑しつつパンと手を叩くと
「それで本題ね……、兄ちゃんにはこれから転生してもらいます」
「ふむ、そういう流れではあるな」
「兄ちゃんもう少し喜ぼうよ」
「喜んでいるよ」
この妹分は自分のこれ以上のないくらいの喜びを見せている顔に何を言うのだろうか。
「まあ兄ちゃんはそれでこそだもんね……じゃ次に転生する世界の説明は………直接頭にいれちゃうからいいや……後……私の能力に…その世界最強の魔力と身体能力」
「……不穏な事いってないか?」
「いってなーいいってない、兄ちゃんは今度こそ自分の人生楽しんでよ、次の世界はきっと楽しいよ……生死も関わる世界だけどね……でも……兄ちゃんなら人助けしちゃうだろうね」
自分を愛おしそうに見ながらリンネは笑う。
「貴方がいたから私は少しの間普通の女の子でいられたの、だからね、仕事が一段落したらまた会いにいくから」
そのまま唇を重ねられる、ねっとりとした甘い感触に暖かい何かが流れ込んでくる。
「いつまでも子供じゃないから……またね、じいちゃんもあっちにいるからスチームパンクっぽい街で色んな事してるよ」
「……じいさんが?」
その言葉と共に自分は消えた。
「……兄ちゃんすごいね……私以上の力を目覚めさせちゃった……たまにいるんだよね……魂に神聖と魔性を混ぜ込んである魂」
リンネは唇をいじりながら意味深な事を言いながら兄と慕っていた人間に微笑みを浮かべた。