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とある異世界にて狩人は笑う  作者: 作者不明
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ノヴァと雪人

美食家のウラノス元帥が蕎麦にはまりだしたのを知ってか連日のように客が押し寄せるようになり、弟子の職人も何人か雇い、目分量で決めてた材料もしっかりとした産地のものに変えたらそれがまた効果覿面で美味さが変わったと更に客層が増えた。我儘な友人のためにこさえたサイドメニューも豊富になりすぎて蕎麦以外にも目的とする客も増えたくらいだ。和洋折衷もはなはだしいが、まあ元より飲食で喰っていくという目的があったのだからよいだろう。



酒も妥協せず安く美味いのを出しているという評判もあり酒飲みも山ほど来ている。雪人の蕎麦屋がきっかけで限りなく地球の酒に近いのも増えたというのも理由だろう。そんなある日。





「雪人じいちゃんこれ」



「あん、なんだ?」



自宅のベランダでこっちの世界でも喫煙者は肩身せめえなおいと思いながらも煙草を吸っていた雪人はニーナにとある券を渡された。それは東国の所謂倭国と呼ばれる国の良く効くとされる温泉宿の招待券だった。



「……ああ、商店街の」



「そ、一等あてたの、たまには息抜きにいってきなよ、お弟子さんに任せてさ」



「まあ確かに」



新しく雇った弟子達は皆が有能ですぐ技術を吸収した生来の料理人でない雪人よりも成長が早いくらいだ。まあ片手間で料理人レベルの料理を作る雪人が異常なのだが……。まあ店を任せても問題ないだろうと判断をし、孫娘の好意を無下にする事もせずに行くことにきめた。





「……ノヴァさんにもあげてなかったか?」



「私は恋のキューピットなのよ、太一兄さん」




ニーナの思惑にやれやれと肩をすくめながら太一は弟達にねだられたカスタードプリンの調理に戻った。






「連れがいるからと来てみりゃあんたかい、ノヴァ、何も枯れた爺相手に面白くもねえだろ」



「やれやれ、こんな美女がいるのに眉一つ動かさない雪人さんもイケズな人ね」




カポーンとししおとしの音と共に混浴温泉につかるのは美しい紅い肌の美女と鍛え抜かれ傷だらけの登り龍の刺青をした老人。連れというのは火炎の魔人にして元魔王ノヴァだった。



「若い娘さんがイケズなんて言うんじゃあるめえよ………、しかし良い湯だなあ」


「この温泉古傷にも効くそうよ」




「そいつぁいいな」







「年齢的には同じだが………種族的な部分での話だ、魔人は基本長寿であるし、じいさんは恐らく寿命は人間種における最も長寿になる和人に分類されるだろう」



「それなら太一兄さんもじゃない?」



「自分はどうかな………混ざっているしな」



不老不死の可能性があることを隠しながら自宅で太一とニーナはお互いに話している。




「ノヴァさんは老齢の方が好きなんだって」



「……確かにうちのじいさんは見た目だけみれば相当な男前にはなるか」



太一は頷きながら珈琲を飲む。まあ前から祖父に対しての態度は些か違うようには感じていたし、年齢差としては人間に換算すれば40ほどの差がある。人間の男は85までは現役というし子も作れるだろう。寧ろ祖父ならば可能だと確信はしている。元々祖母はどうしようもないあばずれとのことで早急に縁を切ったと聞いている。ならば老齢とはいえ恋をするのもありだろうし、ノヴァはもう姉という母というか祖母というか寧ろ我が家に居なくてはならない人であるという認識を持っている。それはニーナも同じようでそのために渡したと言えるのだろう。太一はその思惑に気づきながらも何も言う事はせずに妹の企んだ楽しい笑みを見ながら普段はあまり浮かべない微笑を浮かべるのであった。





「どこも温泉まんじゅうはうまいもんだねえ」



温泉街の繁華街を浴衣を着ながらゆらりと歩く雪人とノヴァ………美女と老人の不思議な組み合わせに客の視線は集中しているが別に気にもせずにのんびりと二人は歩く。




「いいねえ……風情だねえ」



「うん」



近くの茶屋で団子を食べながら楽しげに雪人は酒を飲む、先ほどからおとなしいノヴァに眼をくれると頭をわしゃわしゃとして問いかける。



「おめえさんはどうしたんだい、今日はおかしい様子だねえ」



「……そりゃ想い人と一緒にいたら黙るに決まってる」




雪人も薄々と気づいていたが余り気にしないようにはしていた。若い娘がこんな老齢の爺相手に美しく生きれる時間を浪費するのもそれは無情なものとそう考えていた故にだ。だがこちらの様子を見ると年齢なんてものを気にするのも厭わないとするのは当たり前のようで………なれば問いを返さねばなるまい。



「……なんでこんな爺様に惚れたか知らんが………いくら長生き出来る人種だとしても俺はお前より早くに死ぬぞ」



あいにくと長寿とやらは貰っても不老なんてものは貰わなかった。正直不老長寿なんてもんは若いもんならまだしも年枯れて隠居に片足を踏み込むような奴には必要ないと考えたが故に。



「……あたしは雪人さんがいい」



「……なら残りの人生捧げるしかあるめえな」




にこりと微笑むとノヴァにも酒を注ぐと雪人はそのまま口づけをした。





後日




「……お前は若い娘を嫁にもらい子までもうけるつもりか」



「生涯現役は男の夢だろお?」



マルコキアスに婚姻届を突き付けた雪人はにやりと笑った。


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