マーク少年の受難。
孫が彼氏を連れてやってくる。雪人にとってそれは衝撃であった。短いながらも祖父と慕い背中まで流してくれる可愛いニーナが彼氏を連れてくるという。勿論祖父として歓迎せねばならないが………。
「……どうする?ニーナが彼氏を連れてくるってよ」
自宅兼孤児院で屈強な己の部下でもあるギルドメンバーへと声をかける。このメンバーは人間もいるが……中には古の魔族や魔人……果ては闘いに身を投じた天使やら獣人やら元魔王やら闘神やら果ては何の種族かわからない者までいる。それも雪村雪人という人間に惹かれたからこそこの場にいる。このギルドの全兵力を投入すれば恐らくは全世界を手中に出来ないまでも世界の半分は征服できる事だろう。
その人ならざる者達はそれぞれお嬢が!と叫んでいる。ニーナは気立てが良く他種族に対しても偏見せずに良くしてくれているのでギルドメンバーからも皆の妹として可愛がられている。そう一騎当千の力を持つ人外達までもがニーナという妹を慕う馬鹿兄なのである。勿論その弟達も同じように可愛がる馬鹿兄でもある。
「……世界を手中に収めるつもりかね」
公務を終えて遊びにきていたマルコキアスがたまたま帰ってきた太一に問う。
「……ニーナの彼氏の話になったらこうなりましたよ」
「太一君は気にしないのかね」
「ノヴァさんあたりにはシスコン言われてますが……まあ妹が彼氏を作るくらいはしょうがないかと……ニーナは気遣いをしすぎです……兄としては寛容にはなりますよ」
「まあそれが大人だね」
大人げない自分の友人を見ながら太一の淹れてくれた珈琲を飲む。
「……マ、マーク=リヴァイアサンです」
目の前の茶髪にオールバックにした穏やかそうな少年とニーナが太一の目の前に座る。後ろには神話にも出てきたとされる魔人が居たり、最近まで天界を破壊しかけた神がいたり………最早人外魔境を擁しているが。
「……雪村雪人です……孫がお世話になっております」
気圧されるような威圧感を感じる。マーク少年がこれが世界最強の一角とされる老人の雰囲気だと改めて感じた。マーク少年は菓子職人の家系に生まれ雪人が提唱した学校教育のテスト生としてこの国の高校に入学した一年生の男子である。高校では主に攻撃系や治癒系の中級魔法を習いギルドの初級クラスまでの実力を養う。だが彼は高校の方では治癒系の魔法を専門教科として学び未だに少ない医者として菓子職人の傍ら人々を笑顔にするという事を目指している。ニーナと付き合いだしたのも御菓子作り繋がりで仲良くなったノヴァとの関連でたまたま出会ったニーナと意気投合。手も繋がないようなピュアな交際を続けているのだがマーク少年は律義にもきちんと挨拶せねばならないと交際二か月になるこの日に菓子折りを持ってニーナの祖父に挨拶にきたのだ。
だが誤算だったのは。
「……(普通なら卒倒するであろう人種がいるとは思わなかった)」
マーク少年の血に彼の高名な悪魔の血が混ざっていなければ倒れていただろう。ちなみにその高名な悪魔はマーク少年の祖母で雪人とは酒飲み仲間である。地球でいうところの嫉妬を司るなかなかメジャーな悪魔であるがこちらでは最上位の魔人の一角であるらしい。ある日人間の男の菓子に魅了されそのまま猛アタックをして家庭を築いたある意味女性らしい女性だ。
「……(こいつには……裏がねえし……気遣いもできる、だが16の娘に彼氏はまだはええ……しかもこいつ名前通り……あいつの孫だし)」
肝臓に何か仕込んでるんじゃねえかってくらい若々しい女友達の顔を思い浮かべる。奴はどちらかというと悪ふざけの過ぎる人種ではあるが目の前の孫は恐らく人畜無害の祖父の血を色濃く受け継いだんだろう、孫が好きになった男だ認めてやりたいが……。
「……交際は認めてやる」
「……本当ですか!」
マークとニーナが嬉しそうに微笑む。
「だがニーナと付き合う以上は……最強の一角にならねえとなあ」
雪人はにいと笑うと部下達を立たせてマークを両脇からがっちりと掴ませる。
「なあに……こいつらは世界に名だたる魔人やら神やらそこらへんだ、そんで俺も教官になってやる、さあいこうぜピリオドの向こうへ……」
「マーク!!!がんばって!!」
「ニーナ!!ちょっとちょ!!!!」
「……君の家族と付き合うには試練が多彩にあるようだね」
「……まあ死にそうなら助けますよ」
マルコキアスと太一は静かに言葉を放った。




