♯姉と弟
少しずつ太一の秘密が明かされていきます
本来ならば地球にて産まれるはずだった二つの魂があった。それはとても特別な魂。一つはあらゆる可能性を内包し救世の力を宿す聖魔の魂。もう一つはあらゆる可能性を内包し破壊を宿す絶対悪すらも越える魔なる魂。
聖魔の魂は地球で産まれ、魔なる魂は地球では産まれず異世界へと転生を果たす、本来ならば封印されるはずの魂は地球では死という形で脅威に感じた神達により偽装されるも、とある魔神の意識によって魔なる魂はシムナークへと誘われる。
かつてその世界を創ったとされる堕ちた創世神シムナークによって、肉体を滅ぼされていたとしてもシムナークの意識は世界の中に生きており、その魔なる魂は、シムナークの娘である、大魔王アンジェリカ=ドラゴへと預けられた。
堕ちた創世神の娘らしく悪逆非道の道を生きる娘であったがその魔なる魂を子として迎える事により母としての母性に目覚め、娘としての名……エル=ドラゴと名付ける。悪逆非道の道を行くも同胞のためにはその強大な魔力と大いなる父の加護の力と共にその身で多くの敵を屠り、多くの仲間に慕われる大魔王の娘となったエル=ドラゴもまた母であるアンジェリカの部下や仲間達も愛されるようになる。
そして母から大いなる力を継承し、全てを破壊する反英雄としてこの世界を破壊の力で統一する一歩を踏み出す事になる。
そして彼女は異世界への転移すらも可能し幾多の魔王を従え[紅き魔女]の異名を持つ事になる。
そして長い年月をかけ本来ならば双子として産まれるはずだった弟にまみえる事になる。
雪村太一……その名と声と容姿は知っている、何故ならば地球で生きていた時代もなんらかの形でかは知らないが夢の中で知っていた。現実味のないけれど確かな存在として、太一もまた地球でいたときよりも不思議な夢を見ていた。自分に良く似た残虐な美しい女の存在を、魂が心が半身だと叫ぶ夢を。
エル=ドラゴは思った。近い未来にきっとこの[弟]はこの世界に来る。
雪村太一は思った。近い未来にきっとこの[姉]と出会う事になる。
エル=ドラゴは直感していた、この[弟]は愛すべき家族の覇道を止める力を持つと
雪村太一は直感していた。この[姉]を止めるのは俺にしかできないと。
「だから私は私の全てを持って貴方を蹂躙して全てをもらう事にするの、可愛い弟」
「はじめましてで実に素晴らしい誘惑だが、あいにく近親相姦は趣味ではないな」
「……ほんと、姉弟の初対面にしては物騒だこと」
エルと太一のやりとりを見ながらクロエはため息をつく。
視認しただけでも一万回の斬撃を放ち、それを避けながら三万回の銃撃を撃つ、それを避けながら六万回のカウンター、そして大陸を消失させるレベルでの古代魔法数万発を無効。
いくら停止世界だとはいえ、太一が無効しなければこの世界すらも消失させるレベルでの先の見えない戦い。
「……まったく俺の姉上は息すらあがらないとは……」
「あら、可愛い弟も同じじゃなくて?」
二人はクスクス笑う。
「んで、邪神を創りだしたの姉貴の母親だろ?」
「あら、わかる?そうねえ、お爺さんの力を与えた魔法生物のほうがいいかしら、可愛いわよ?えぐいけど」
「それは可愛いとはいわない」
はじめて会ったわりには息の合う会話をする太一とエル。
「……やめやめ、折角会ったんだ、珈琲でものんでけよ」
「あら、弟は優しいわね、そうね、はじめましてでこれはないわね」
「……こんだけしといてすごいわね」
クロエは苦笑する。




