♯賢き美姫
「やれやれ、実に良い料亭じゃあないか」
上位の武家が如何にもきそうな高級感漂う、昔ながらの日本家屋を見た目麗しく改築したような屋敷に通され、太一もとい雪雛はふむと頷きながら周りを見た。服部は部下と共に主を呼びに行くといって場所を離れた。先に酒でもやってくれとの事で差し出された白身の刺身と清酒を飲んでいる。
「(タイに近い味だな、そういえば東の国の食材はなかなか手に入らないとかいっていたし、マルコキアスさんに話してみるか)」
清酒の方はすっきりとした辛口にほどよく酔えるような品物だ。
「(毒は入ってはないか、まあすぐ解毒はできるが、なかなか良い品物だな、姫様)」
「気にいっていただけたようですね」
凛とした美しさの黒髪の美しい少女が艶やかな紅い着物と共に現れた。
「ああ、実にうまい、最高だ」
「……本来の名をお呼びしても?それとも雪雛様とお呼びしても?」
「どちらでも、姫様にはばれるだろう?その瞳、魔眼だろ?」
「……さすがは世界一と目される人物の一人、見破りますか」
にこりと微笑み自らの黒眼を太一に向ける。
「ですが偽名でこちらにきたのならば雪雛様とお呼びします、噂で聞くよりも粗雑な口調もしているようですし」
「そうさね、こちらでは風来坊の若武者とでもしとこうか、姫様は護衛はいらないんで?
」
「貴方に護衛を連れてきてもすぐに倒されるわね」
「ふふ、喰えない姫さんだ」
「さてと雪雛様、貴方の推察から聞こうかしら?」
「いきなりだな」
「いきなりね」
「そうさな」
太一は自身の考えを述べる事にした。徳永家は特殊な力を持ちてこのエドを治めてきた異能者集団である。故にその特性上、外の国とのかかわりを極端に制限している。だがそれも先代によって開国という状態で終わる事になる。それというのも本来ならばこの地を巡る大地の力……地球でいうならば龍脈ともいう力を操り戦乱の地に安寧を齎した巫女の力を宿した将軍。本来ならば男子には宿らない力。その強大な力は三人の娘達にも宿っている。恐らくこの百合姫は中立派、姉二人と戦わずにどうにか内と外を治めたいと願っている、そして上二人は鎖国派と開国派とわかれているはずだ。前情報から推測するならば。
「姉君一人は鎖国をもって自国の文化と更なる発展を希望している、まあ裏には利益を狙う輩もいそうではあるが、もう一人の姉君は開国し文明開化をしようとしている、こちらは新たな風を吹き込もうとしている家臣団が裏にいるようだが」
「……私はどちらも心情がわかりますので、出来るならば無血で終わらせたくおもいます、姉二人は頭もよいですが、裏にいる重鎮達のほうが頭は上です、自国の繁栄だけならいいのですが」
「ふむ、で、どうしたい、姫様?」
その言葉ににこりと微笑むと
「一度国を滅びるまで傾けたらよろしいかと」
「その心は?」
「利益を齎さない国に愛国心ない人間はついてきますでしょうか?」
「よろしい、では楽しい商談をしようか」
「ええ、よろしくおねがいしますわ」
姫と若武者は笑う。




