兄と彼女
いろいろと引っかかる描写もあるかもしれませんが、スルーしていただけるとありがたいです。
私の兄と、子どもたちの話をさせていだきたいと思います。
もしかしたら、知っている方もいらっしゃるかもしれませんね。
聞いていただいた後に、私の願いも、聞いてください。
あぁ、申し遅れました。
私は、ネア・レリーシャ。
兄は、キル・レリーシャ。
このトルーア王国を知っている人ならば、レリーシャ家を知らない人はいないのではないでしょうか?
王家と最も近しい血筋の大貴族ですから。
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レリーシャ家には、私と兄しか子供がいませんでした。
兄は、聡明で、剣も強く、容姿端麗の好青年でした。
兄は、レリーシャ家の次期当主として周りから期待されていたし、そんな兄が私には誇らしかった。
優しい兄と、恵まれた環境。
私は、この幸せが永久に続くと信じていました。
この国の末の姫が、兄と婚約すると言い出すまでは。
姫が、兄の容姿に一目惚れし、国王に頼み込んだのです。
末の姫を溺愛されていた国王は、兄と姫を婚約させました。
私の両親を含め、周りの者たちは兄と姫の婚約を祝福しました。
これで、レリーシャ家はさらなる繁栄を手にすることができる、と。
兄を狙っていた令嬢たちも、姫の可憐さ、兄と並んだときにとてもお似合いだったので大人しく諦めました。
でも、私はお似合いだとは思いませんでした。
兄の顔は、絶望に彩られていましたから。
兄は、幼い頃から大切にしていた一人の女性がいましたから。
トルーア王国の人間の髪は、大体が黒、茶色、金髪です。目は自分の髪の色。
けれど、兄の大切な彼女の髪は、真っ白です。
目は、燃えるような赤でした。
どこの世界にも、差別というものは存在します。
彼女は、その髪と目のせいで、差別の対象者になっていました。
私は、生まれたときから兄の隣に彼女がいたので、そういう感覚はなかったのです。
むしろ、人とは違う彼女を美しいと思っていました。
兄に笑いかける彼女は、本当に美しかった。
けれど、私たちの両親は違います。
由緒正しきレリーシャ家の次期当主として、差別の対象者になっているような彼女といるのはふさわしくない、と兄に常に言っていました。
いつも優しい兄は、そのたび見たこともないような顔で両親に反論します。
彼女と共に生きていく。そのためならば、レリーシャ家などどうでもよい、と。
父は怒り狂い、母はヒステリックに泣け叫びました。
私は、兄がいなくなるのは寂しいけれど、兄と彼女が幸せになれるならばそうすればいいと思っていました。
けれど、強制的に姫と婚約させられてしまった兄。
公に発表される前に、私は彼女と話をしました。
「兄は、姫との婚約なんて望んでなかった。」
「兄が愛しているのは貴女だけだ。」
「きっと聡明な兄の事だ、きっと何とかしてくれる、貴女はそれを待って。」
優しい兄に報いることができるよう、彼女に必死になって訴えました。
「いつか、こうなる気はしていた。」
「私の髪と目の色では、認められることはないだろう。」
「彼は、私を愛していると言ってくれる。」
「私にも、彼だけだ。」
「理解してくれるのは、貴女だけだ。」
「ありがとう。」
彼女は、悲しそうにほほ笑んでそう言いました。
私には、泣くことしかできませんでした。
優しい兄と彼女を守ることができない。
それなのに、彼女は私にありがとう、と言うのです。
その晩、兄に呼ばれました。
「彼女に、いろいろ言ってくれてありがとう。」
「僕は、姫と婚約する気はない。」
「僕には彼女だけなんだよ。」
「ネアには、迷惑をかけるね、すまない。」
「ありがとう。」
また泣いてしまった私の頭を撫でながら、兄は優しく笑っていました。
考えました。どうすれば兄と彼女の幸せな未来を手に入れることができるのか。
でも、兄のように聡明ではない私には考えつきませんでした。
そして、姫と兄の婚約が正式に発表される日の朝。
眠るように死んでいる兄と彼女が見つかりました。
手を握りしめていました。
怒り狂ったのは、父と国王でした。
「レリーシャ家の恥だ。」
「姫の心を傷つけた。」
「どうしてくれるんだ、この馬鹿者。」
「それもこれも全て、この女のせいだ!」
全て、彼女のせいになりました。
彼女のせいになったおかげで、レリーシャ家をお咎めはありませんでした。
優しい兄は、彼女とともに消えました。
美しかった彼女は、兄とともに消えました。