貴方へ
この作品はシリーズ「或る夫婦」内の「若人へ」の続編となっています。
先にそちらをお読み頂けると幸いです。
「若人へ」
拝読させて頂きました。
金曜日の夜。貴方は凜様と飲まれていたのですね。随分とご機嫌でお帰りでしたこと。
まぁ、それは良いでしょう。私がちゃんとした同窓会に行っていた日、貴方は子供の面倒を見てくれていたわけですから。自分の小遣いで飲みに行く分には何も申し上げません。
ただ、貴方にお伝えしたいことがいくつかあり、ペンを取らせて頂きました。小説など書いたこともない私ですので、この様なお手紙の形となりますが、最後までお読み下さい。
◇◇◇◇◇◇◇◇
結婚前の貴方はとても優しく、こんな丸顔のぽっちゃりとした私の事も可愛いと言ってくれました。そんな貴方の優しさに惚れて、結婚を決めたのは事実でございます。
しかし、私は知っていました。貴方は私だけではなく、女性みんなに優しいということ。携帯のアドレスにはまだたくさんの女性の名前が残っていること。
それは私はとても不安にさせました。少しずつアドレスは減っているようでしたが、恐らく昔の彼女であろう「野江」という名前はいつまでも消えませんでした。
連絡はとっていないようでしたが、用心深い貴方のことです。着信やメールの履歴も消去しているかもしれません。そんな懸念が私の心にトゲのようにいつまでも残っていました。
子供が産まれることになり、仕事を辞めることになったとき、私は決心しました。貴方から自由なお金という翼を奪ってしまおうと。
家計は昼食込み月二万小遣い制にしようという提案に、当初反発こそしましたが、普段は大人しい私の気迫に、予想通り貴方は首を縦に振りましたね。面倒くさいことが嫌いな貴方ならきっと受け入れると確信していました。そして、貴方の希望だった三万円は絶対に聞き入れませんでした。
貴方はその時はあまり深く考えていなかったのかもしれません。しかし、頭の良い貴方ならもうお分かりでしょう?この二万円というラインが重要だったのです。
効果はてきめんでした。
貴方は寄り道もせず、真っ直ぐ家に帰るようになり、子供の面倒をみてくれるようになりました。
それでも休日に遊びにいくお金が足りないようで、次は節約のためにお弁当を作り初めましたね。最近は子供のためのお弁当も作って下さってとても感謝しています。
そして、次の段階で、貴方は私にとってはゴミでしかなかった乗らないバイク、バイク雑誌、レコード、そして気持ちの悪いフィギュアをオークションで売り始めましたね。
私たちの家がみるみるうちに片付いていくのは嬉しく思いました。
でも良かったでしょ?どうせ飾っておくだけなんだから。
「野江」さんともようやく切れたようですね。私がアドレスを消したのは知っていましたか?気づかなかったでしょ?
最近では休みの日も一人で出掛けることもなく、ずっと子供と遊んでくれていますね。貯金の無い貴方には私たちに付いてくるしかないのでしょう。
でも、立派なイクメンぶり、発揮できてますよ。
もうそろそろ気づきましたか?貴方が帰ってくるのは丸顔の私のところだけなんです。いい加減馬鹿な夢から目覚めたら如何でしょう。いい歳して何が「若いチャンネー」ですか。そろそろ頭も薄くなって、お腹も出てきているくせに。
そうだ。押入れの中にあるイヤラシイDVDも早く売って頂けませんか。深夜に起きてコソコソ見ているスマホにブックマークしてあるX-videoでしたっけ?あれで十分でしょ?
そのお金で美味しいランチ食べにいきましょ。この前隣の奥さんと一緒に行ったところとっても美味しかったんですよ。また行きたいなぁ。
ねえ、いいでしょ?
あ・な・た
この話がフィクションかノンフィクションかは皆様のご想像にお任せします。
私は2人とも良い友人だと思っておりますのでもうこれ以上は申し上げられません。