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crown crime  作者: 深嶌総一郎
the2day
7/10

第六話 ―交差―

お暇のつぶしにでもどうぞ!

 夕日が完全に沈み、数時間。街が闇に呑まれるのを拒否し、人口の星たちが煌めき始める。月や、星の光が大地を照らし、どこぞへと(いざな)う。

 求め、たどり着いた先に何があるのか。闇はどんな物より人を思慮深くする。使い魔も例外ではない。

 街灯が照らす、六島橋の向こうに、背景に溶け込んでしまいそうに静かで凄まじい闘志を秘めた男物の和服を着た、武士が正座していた。

 ルシェル自身が索敵して強い魔力が感じた場所にいた。あの身なり、あれは見違える余地もなく、使い魔。


 傍らには太刀が異様な存在感を放っていた。

「来ると思っていた……拙者の名前は(せき)(りゅう)。お主の名前を聞かせていただこうか」

 夕龍は目を開くと、そこには白銀の鎧。金色の髪、そして得物の鋭く殺人的な光を放っている(つるぎ)を持った細身の女性が立ってた。

「私の名前はルシェル。これから貴方を斬る名前だ。覚えていただこう」

 橋の端と端で二人の使い魔が燃え盛るような敵意をぶつけ合っている。


 月の明かりが、雲にかかり消えたその瞬間。


 両者が弾けたように駆け出す。

 一気に加速していき、先手を打ったのはルシェル。水平に一撃を加えるが、鞘に納めたままの太刀に受け止められてしまう。

 力をいなし、鞘尻で反撃する。顔面を容赦なく襲うはずだったが、ルシェルの前髪を(かす)めた。再度攻撃可能となった剣で振り上げる。

 それを後方へ飛ぶことによって躱す。

 ――逃がさない。更に加速し、鋭い一撃を肩を目掛けて斬る。しかし、その動きを見切られたかのようにもう一度躱す。

 戦闘が一時的に止まる。出方を伺うルシェルだったが、思考がまとまる前に仕掛けられた。夕龍は鞘から素早く刀を抜き、突く。辛うじて受け止めることに成功するが力の乗せた一撃で体勢が崩れる。その隙を逃さず、一旦太刀を引き、小さく振る。

 その攻撃は重く、速い。

 連続した剣戟がルシェルの体を斬るため突進してくる。だが、これでやられるルシェルではない。すべての攻撃を防いでみせた。

 一撃も当たっていない。


 夕龍は堪らず距離を置いた。

「ふぅ……油断できない奴だ」

 そう呟く夕龍。その双眼からは闘志は失せていなかった。すぐに戦いは再開されるだろう。

「貴方も油断できませんね。気を抜けばこちらがやられる」

 均衡した力がひしめき合う。そして、再度橋の中央で剣と刀が交差する。 

「ハアァァァァ!!」

 今度も両者同時に駆け出す。美しく火花が散り行く。夕龍が水平に斬りかかればルシェルが簡単に止め、反撃する。お互いにこの戦いを楽しんでいるように見える。

 反撃の剣が夕龍の頬を掠めるが、致命傷には至らない。このまま押し切りたいルシェルだが、そうも簡単に物事が運ぶわけがなかった。恐ろしい雰囲気を纏いながら、ルシェルの喉元に伸びる刀。夕龍はあと一押しができない。


 夕龍の喉元にもルシェル同様に剣を突きつけられていた。

 

「お主のような達人に逢えて嬉しいぞ!」

「ええ、私も同感です」

「お主の剣か、拙者の刀か、どちらが最強か雌雄を決しおうぞ!」

 口角を上げて不敵に笑う夕龍。

 それを見て危機感を覚えるルシェル。先手を打たれる前にこちらから斬ると考えて、『加速』能力を使う。

 一瞬で目の前から消え、夕龍の背後に回る。

 ――このまま斬る。

 斬りつけるが、夕龍に見事に剣を弾く。見切られていると感じた時には遅かった。痛烈な肘が彼女の腹に直撃している。数メートル吹き飛び、激しい痛みですぐには立てない。


 転んだ隙を逃さず、刀を振り下ろす。ルシェルはそれを意地で躱す。

「くっ……!」

 徐々に押されていく、後退を余儀なくされ、近くの住宅街に逃げ込んだ。

 防戦だけでは勝てはしない。もう一度加速能力を駆使する。

 見切られているなら、背後に回り込む。これすら見切られているのも解っている。刀で反撃されるが、切ったルシェルは残像。

 ――ならばどこに? 夕龍は背後を警戒した。だが、彼女は更に加速し、正面から一閃。意外な攻撃に夕龍は反応が遅れ、回避行動をとるが胸を浅くだが斬られ、血が噴き出す。

「ハッ!!」

 連撃を襲う。攻勢が逆転し、夕龍が防戦一方になる。後方へ飛び、またしても距離を取った。


「こしゃくな……」

 踏み込み一気に距離を詰める。


 それがいけなかった。

 ルシェルは気付いていなかったのだ。こんなにも静寂の中で剣を響かせているのに、まったく住民の気配がないことを。


 ――爆発。

 その轟々しい音と破壊力、そして爆風でルシェルを吹き飛ばす。

 目の前は爆発で赤く彩られているというのに、ルシェルの頭の中は真っ白だった。 

 その不安を取り払うように、体勢を整えて、煙の奥にいる夕龍目掛けて加速能力を発動させ突っ込む。


「うん。計算通りだ」

 煙の中を駆け抜けた先には夕龍がいたが、後ろにも誰かいた。

 ルシェルが丁度マンホールを踏むと、マンホールの蓋が下水に押され、飛び上がる。足元をすくわれ勢いが挫かれて、一度距離を取るという選択肢しかルシェルにはなかった。

「くそ!」

 思い通りにいかない。もどかしさを覚えつつも呼吸を落ち着かせる。

「水の操作は難しいんだよ」 

「すまぬ。()()殿……」

 夕龍が資格者に対し、頭を下げる。

 資格者の名前は(さえ)()美子。ポニーテールで髪を止めていて、スカートを履いている。幼い顔立ちだが、体つきは実に女性らしい。使い魔は夕龍。

「もう本気だしていいよ。夕龍」

「御意」


 夕龍は駆け出し、ルシェルにその凶悪な太刀を斬りつける。

 ルシェルは見切り、躱す。そしてすぐさま反撃に移る。

 隙のできた右腕を狙って、一撃を繰り出す。しかし、夕龍は体を半回転させ、斬撃の脅威から華麗に逃れた。その勢いを利用して刀を振り下ろす。額が掠れ、僅かばかりに血が噴き出る。仕留めきれないと感じた夕龍は左足の蹴りを鎧の上から食らわせる。

 痛みこそは少ないものの、密着状態から強制的に離れる。

 もう一度、体勢を整えて左足で踏む込み、加速能力を使用する。残像が現れるほどに加速したルシェルを捉えるのは容易ではない。

 そう――それがただの使い魔だったら勝負は決していたのかもしれない。


 またしても見切られ、受け止められた。ルシェルは敗北感と、屈辱感で支配されていた。

「くそ……何故だ。何故届かん」 

 さらにルシェルの心を挫くような出来事が突きつけられる。 

 額の傷が治っていないのだ。いつもなら一瞬で治るはずなのに、この時だけは治っていない。

「傷は浅いようだが、それでは目が潰れるぞ?」

「ご忠告ありがとう……しかし、敵に情けをかけるのはいただけないな」

「それが武士道というものだ。騎士道にはないのか?」

「あぁ、騎士道には敵は倒せるうちに倒せという教えはあるがな」

 

 鍔迫り合いしながら、言葉を交わす。

「悪いが勝たせていただく」

 鍔迫り合いを止め、夕龍は血で見えなくなった左目の死角を斬る。しかし、これでやられるルシェルではなかった。研ぎ澄まされた感覚と直感で避けた。


「影の太刀……」

 刀が通り過ぎたはずだが、その軌道を何かがなぞるように通った。

「うぐぅぅ!?」

 ルシェルの左腕が斬れた。鮮血が飛び散る。久しぶりに自分の血がこんなに大量に噴き出たのを見た。

 ――痛い。

 鋭い痛みで、それ以外の思考を止めていた。


 美子には勝てる自信がある。 

 夕龍とこの使い魔は相性がいいと感じた。一日目の戦闘に参加せずに、様子見させただけはある。

 夕龍の武器は()()()。斬った相手の魔力を断つことができる。魔力で傷の回復をしているルシェルには天敵と言える。

 次に見切りの目。加速能力を使おうが、これさえあれば動きは見切れる。

 極め付きは影の太刀。これは仕掛けが解っていたとしても反応できない絶対不可避の技。好きなタイミングで一度斬った刀の軌道をなぞるように見えない刃が通るのだ。


「ハァァァァ!」

 ルシェルは何とか片手と体で防いでいるが、長くは防げないだろう。

 剣と刀が弾ける。ルシェルは民家の窓にぶつかってしまった。侵入してしまった民家のテーブルの上で、天井を無気力な目で見つめている。


「うん。王手だ」

 美子の手には安いライターと市販で売っているロケット花火を持っている。そして、火をつけ、ルシェルに放つ。

 

 魔導士は何もないところから火は出せない。水も雷も出せはしない。だが、火、風、水の中に魔力は存在する。人口の火ですら魔力は存在する。魔導士はその魔力を使役し、強大にし、操る。

 冴賀美子の得意魔法は火。

 ルシェルに当たった花火は小さく爆発した。美子は魔力を使役し、巨大な爆発にした。あっという間に家は火に包まれる。


 ――勝てない。体も動かない。傷も治らない。最後は火に焼かれるなんて、滑稽だ。

 周りは燃えている。白銀の美しい鎧は焦げ付き、顔には軽度の火傷をおっている。目にはもう燃えるような闘志はなかった。

「どうしたルシェル……一人で立てないか?」

 男の声だ。ルシェル自身、聞き覚えがある。

 ――あぁ、貴方ですか……王よ。私を嘲笑いに来たのですか? それとも迎えに来たのですか?

「いや、俺は一言、言いに来ただけだ」

 ――?

「お前は俺を殺したんだ。呪いがかかっているからってあんな雑魚にやられたんじゃ、最上騎士の名が穢れるぜ」

 ――そうでしたね。

「私はこんなところで死ねない!!」

 男は炎が見せた幻影かもしれない。

 だが、ルシェルには確信があった。本当に王が来たのだと。

 あの男は私が最も愛し、私が殺した男なのだから。


 炎がうねる。炎の魔力がルシェルに力を与えているかのようだった。少しもしない間に、炎は激しく爆発し、消えた。 

 

「「!?」」

 夕龍と美子は驚愕した。あの火はあと小一時間消える予定はなかったのだ。しかし、五分もしないうちに爆発し、鎮火した。

 家から、誰かが出てくる。

「あれは……!?」


 その一歩は大地を焦がし、その剣のひと振りは大気を焼き切る。

 ルシェルの美しい鎧は、赤い炎のような刺繍が描かれており、その双眼には燃え盛る烈火の如き闘志を宿らせていた。

「貴様か……私の邪魔をするのは!」


 凄まじい殺気。

 ――殺される。二人は同時に体にその感覚を叩き込まれた。

「隠れていろ。美子殿」

 いつもより真剣な表情の夕龍に美子は黙って頷く。

「再び、参るッ!」

 夕龍の渾身の一撃をルシェルは片手で軽々と受け止めた。そして夕龍は気付いた。傷が完治していることに。

「この……程度か」

「なに!?」 

 左の拳で殴られた。そうわかるのに、肉体は時間がかかった。

 夕龍は近くの電柱にぶつかり、血を吐く。体勢を戻そうとルシェルの方を向くが、ルシェルはいない。

 ――加速能力。

「燃え尽きろ」 

 彼女は横から、炎を纏った剣で夕龍を襲う。

「くっ!」


 なんとか躱し、距離をとる。そう何度も何度も逃がして堪るか。とルシェルは思い、夕龍を逃がさなかった。

 剣から飛んできたのは巨大な炎弾。その炎弾は夕龍の身を捉えかけたが、彼は身を翻し損傷は右足だけにとどまった。

「夕龍、ここは引こう!」

 美子が叫ぶ。夕龍は渋々承諾した。

「だから、逃がすかって言ってるだろ!」

 口調や、戦い方が荒くなり、戦闘能力が飛躍的に上がっている。

「ハァァァァァァァァァ!!」

 ルシェルの振り上げた剣から、炎の渦が出現する。それをそのまま美子と夕龍に振り下ろす。

 紅蓮の劫火がすべてを焼いていく。

 だが、そこには誰もいない。


「……逃げられたか……」

 目の前が暗くなり、仰向けに倒れこんだ。どうやら血を流しすぎたようだ。

「ルシェル! ルシェル!」

 誰かが彼女の声を呼んでいるが、ルシェルは反応することができなかった。

 そして、意識が途切れた――。

誤字脱字や感想がありましたら教えてくださると幸いです。

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