第五話 ―警戒―
お暇のつぶしにでもどうぞ!
夕日が水平線へと消えていく。太陽は今にも力尽きそうで、後ろには元気な月が出番を伺っている。途中雨が降ったが、晴れて綺麗な夕日が見えていた。
奏は車を走らせている。助手席には黒いスーツ姿のルシェルが流れるの景色を眺めて、時間を潰している。
二人にはどこか目的地があるみたいだ。
しかし、車内の沈黙は耳に痛かった。会話が続かない。奏は沈黙が嫌いなのだが、話すのは大の苦手である。
――そう言えば。と見かねたルシェルが会話を切り出す。
「貴方と景迥には特別な事情があるようですが、失礼だとは思いますが、教えては頂けないでしょうか?」
その質問の後、暫くまた沈黙が襲う。
「分かったわ。貴方が知りたいこと、ある程度教えてあげるわ」
信号で停まり、ルシェルが質問を投げかける。
「貴方と景迥には同じ魔力が流れているのですが、これはどういうことですか?」
深呼吸しながら、奏が語り始める。
「景迥は……魔導士ではないの」
「!?」
ルシェルは思いもよらない回答で言葉を失った。今まで現界できて、他の使い魔と対等に戦えていたのは景迥のおかげだと思ていたのに。その景迥が魔導士ではなく、ただの人間だったなんて自分で訊いておきながらにわかには信じられない。
「ではどうやって、私を呼び出したのですか? 魔導士でないなら無理なはずです」
「それは私の魔力を景迥と共有しているからよ。それであなたを呼び出した」
ルシェルは納得していた。これならば魔力を持たない景迥でも使い魔を召喚できる。
「後はもう、ないかしら?」
「二つほど訊きたいことがあります。貴方のことや、景迥のことを教えてください」
奏はこくりと頷く。まずは自分のことを語り始めた。
「私は孤児で、景迥に拾われた……学校ではこの異常な魔力所蔵量で疎まれて、怖がられて、酷いいじめを小さいころから受けていたわ。そんな私を絶望から救ってくれたのは景迥なのよ」
「そうでしたか……嫌なことを聞いてしまいました……申し訳ありません」
「いいのよ……事実だし、もう終わったことだから」
――必要なのは過去ではなく未来。奏は景迥にそう教わった。だから過去のことはまったく気にしていない。一番嬉しかったのはいじめが終わったことではなく。
景迥に出会えたこと。
「貴方は景迥のことを好意的に見ているんですね」
「ええ……私の人生を変えてくれた人だから」
ルシェルの鋭い眼が奏の頬が赤くなっているのに気が付く。
「でも……景迥のことは、私もあまり知らないの」
「そうですか……」
車は町全体を見渡せる丘に来ていた。
「いい日ですね」
と車を降り、ルシェルが金色の美しい髪をかき上げながら、そう言った。
「そうね……でも私たちは今から人殺しを始めるのよ」
奏も車から降りる。
「わかっています」
目を瞑り、呼吸を整えて静かにこう言った。
「索敵を始めます」
黄昏時が終わりを告げる。それは激しい戦いの始まり。
短いですが、誤字脱字がありましたら教えてくださると幸いです。