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crown crime  作者: 深嶌総一郎
the2day
4/10

第三話 ー超越ー

お暇のつぶしにでもどうぞ!

 その男は(なげ)いた。

 その男は誰よりも神を愛していた。男は神に言った。--どうしてワタシの妻が犠牲にならなければならない? そして男は神に仕える身でありながら、自らを神に成ろうと願った。しかしそれは決して楽な道のりではない。

 己のために人を殺し、騙す。

 許されない行為と知りながら、男は戦いに身を投じた。

「貴様の願いを答えろ」

 --あぁ、始まる。

 男は自然と涙を流していた。

「ワタシの名前は、トキヤ・セビクト。願いは神に成ることだ……」


 (ふし)()(れん)一郎(いちろう)は気付いてしまった。人は動いているから人なのだと。動いていなければただの肉塊だと言うことを。憎しみは通り過ぎれば、無関心になることも彼は学んだ。やはり人は残酷であることも学んだ。

「やぁ、元気かい? (かじ)()。意識ははっきりしてるみたいだね」

「伏見!! なにしやがったんだ!」

 怒号を飛ばす。

 ーー叫ぶことしかできない奴は嫌いなんだ。煉一郎は内心ため息をしながら、梶木の首を絞める。

「うるさい。黙れ……」

 冷酷な声色でそう言い放った。


「そうだ……良い物を見せてあげるよ」

 倉庫の仕切られたカーテンを開けるとそこには地獄絵図のような景色が広がっていた。

 そこには梶木のクラスメイトが無残な姿がある。全員煉一郎をいじめていたメンバーだ。

「梶木は、笹村(ささむら)のこと好きなんだよな?」

 鎖に繋がれている笹村の姿があった。ただ、五体満足ではない。足はなく、右腕も白骨化している。生きているのが不思議なくらいだ。

「笹村は可愛いよな。くそビッチだけど……俺の好みじゃないし」

 煉一郎は笹村の腹を殴る。笹村は声も上げることもできない。いや、声を上げる力すらもう残っていない。

「やめろ!!」

「……」 

 

 煉一郎には確かに梶木の声は聞こえていた。

「サイカ」

「なんでしょうか? 煉一郎様」

 影からサイカがぬるりと出でくる。

「あいつにアレをやってやれよ」

「了解しました」

 梶木には何が行われているかがわからなかったが、逆にそれが恐怖心を湧き上げた。

「ほら、やるよ」

 煉一郎は梶木に対して何かを投げた。


「え……」 


 投げたのは笹村の生首。

 生気もなく、虚ろな瞳には梶木自身の顔が写っている。彼女は笑いもしなければ、泣きもしない。もう、人ではない。

「うわぁあっぁっぁぁぁぁあぁ!?」

 訳が分からなくなった梶木は吐いた。

「気持ち悪いな……サイカ。殺していいよ」

 サイカは形状変化させた鎖で、梶木の頭を切り裂いた。

「さぁ……、次は誰にしよう?」

 

 煉一郎の次の標的は、木場。クラス内の優等生を拉致監禁していた。 

「なんだよ……これ」

 鎖で縛られているのはいつものことだが、今度は右手だけを前に出している。そして煉一郎の手には、ナイフが握られていた。

「さて質問だ。これから俺は何をするでしょう?」

「そんなの知るかよ! いいからこの鎖を外してくれ!」

 彼もまた、煉一郎をいじめていた。優等生には優等生なりの悩みがあって、それを自分にぶつけていたのだろうと彼自身そう考えていた。

「正解は、自分の体で味わっていけよ!」

 ぐさりと右手にナイフを突き刺す。

「うぎぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 手の甲にナイフが刺さっているのを見て、木場は喉がはち切れんばかりに叫ぶ。そのナイフを抜く。血が溢れ出る。

 

「次はこれだ」

 木場の人差し指にナイフを当てる。じわじわとナイフを動かしていく。皮膚が裂け、肉も断たれ、骨を削れる。

「あぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁ!?」

 動かす速度を徐々に上げていく。言葉にできない痛みが木場を襲う。

「痛いよな? 痛いに決まってる」

 一度ナイフを動かすのを止め、振り上げ、勢いよく振り下ろす。

 指がぼとりと落ちた。

 鮮血がこの上なく噴き出る。

「よく叫ぶな……」

 煉一郎は何度も何度も右手を刺し続ける。やがて、木場は叫ぶのを止めた。

「うん。飽きた。いいや、殺そ」

 今回はサイカを使わずにナイフで喉を引き裂いた。

「んじゃ、次はあの子だ」


 煉一郎は次に、クラスの委員長を拉致した。

「やぁ、委員長。元気?」

 委員長こと里元(さともと)は大和撫子と言っても過言ではない。才色兼備の煉一郎が好意を寄せている唯一の人物でもある。

 里元はベットに縛られていて、身動きが取れない。

 視界の正面には不敵な笑みを浮かべながら、闇に溶け込むように立っている煉一郎がいた。

「伏見くん?」

 状況が飲み込めないのは解るが、里元は落ち着いていた。

「えーと……、これはどういう状況?」 

 戸惑いの表情は隠しきれない。手足も動かせず、見える景色は闇と煉一郎。

「言っとく、俺は委員長を殺す気はないから」

「?」

 里元はさらに状況が飲み込めなくなった。


「それだと、今まで人を殺した口ぶりになるよ?」

「そうだよ……俺は人をもう十五人は殺した」  

「笑えない冗談だよ……」

 里元は視線をずらす。

「冗談だと思う? 委員長」

 こくりと頷く。里元は信じられる訳がなかった。だが、彼女の考えと裏腹に煉一郎が言っていることは冗談ではなく、真実だ。

 争奪戦が始まって二日だが、もう十五人を殺した。これはニュースにもなっていて、犯人は殺人鬼だとキャスターに言われた。

 腹は立たない。怒りもしない。しかし、殺人鬼という表現は間違っていると思う。もらった痛みを返しているだけだ。

「俺さ、委員長のこと結構好きなんだよね……」

 そう言って里元に跨る。そして、首を絞める。

「死なない程度に遊ぼうよ。委員長」


 伏見煉一郎の復讐は終わらない。


 (つき)()(こう)()は黒華家の別荘のベットで目を覚ます。

 --身体が痛い。

「……」

 光夜は昨日の戦闘を思い出す。

 不慣れな戦闘。そして本物の使い魔の一撃。すべて段違いだ。しかし、思い出せない記憶がある。何故ここにいる? 記憶が欠落している。

「くそ……」

 ーーとりあえず体の調子を日記に記そう。

 机から、メモ用紙と鉛筆を取り出す。そして書き始める。「身体の痛みはまだある。変身すると大量に体力が消耗する。多少記憶が欠落し、腕も痺れている。もしかしたら、争奪戦が終わる前に死んでしまうかもしれない……そうなる前に、なんとか王冠を勝ち取らねば」

 腕をさすりながら、一階に降りると、黒華和人が台所で朝食を作っていた。

「おまえ……!?」

「おはよう。光夜君」

 どうして彼がここにいるのかが理解できなかったが、昨日の戦闘の気怠さが残っていたので何も言わなかった。 


「オレはどうした?」

 調理の手を一切止めずに、光夜の質問に答える。

「あの後、君は倒れて俺がここに運んだ。記憶の欠落があるみたいだね。そうだ。礼が言ってたことを伝えるよ」

「?」

「説明してあげるよ。君は自分自身を使い魔化して戦うよね……身体にだって支障がでる。でも、魔力が身体に慣れていくたびに強くなる。君は時間が経てば最強になれる。だってさ」 

ーーオレにはその時間がないかもしれないのに……。

 自分に時間がないことを悔やむ。どうすれば最強になれると思考を巡らす。最短で強くなれる方法は早く体に馴染ませること。ただ、戦えば戦うほど自身の寿命が短くなる。強くなりたいと思う想いと命が消えてしまう恐怖が混在する。

 光夜はそのジレンマで頭がおかしくなりそうだった。

「君は思う存分戦えばいい。俺が治して、延命させてあげるから」

 信用ができない。だが、信用しなければ真っ先に敗北が決定してしまう。光夜は和人を信用するしかなかった。


「……出掛ける。夕方には帰る」

 上着を羽織り、別荘から出た。

「朝ご飯は? ーーって聞いてないか」

 光夜が出掛けた先は自宅だ。迷惑がかけられないとは思うが、家族の顔を見ないと気が狂ってしまう。そしてあの子たちを顔を見て意志を再確認しなければならない。


「ただいま……」

「光夜さんーー!!」

 家に入るとエプロン姿の(みのり)がいた。懐かしい姿に光夜は涙を流す。あの時は素晴らしかった。何もかも美しかった。

「どこ行ってたんですか! 私……私、心配したんですよ! 六島漁港が破壊されたって聞いたから。帰りは待つって言いましたが、ちゃんと連絡してください」

 新婚から大きな声は出さなかった実だが、この時初めて光夜に対して大きな声を出した。

「すまん……今度から連絡するよ」

「はい。お願いします。あの……朝ご飯ができてるので一緒に食べませんか?」

「あぁ、食べさせてもらうよ」 

 光夜は久し振りの妻との食事で心が落ち着いた。そして二人で、(かな)(しな)が入院している六島総合病院に向かう。

 病室に入ると、叶と科が起きていた。


「「お父さん!!」」

 二人が光夜に抱きつく。光夜は頭を撫でる。まるで猫みたいだ。

「二人とも元気にしてたか?」

「「うん!」」

 ーー本当に元気が良い。この笑顔が一生見れればいいのにと何度願ったことか、ますます死ぬわけにはいかなくなった。あの子たちを助けるために。だが、同時に死ぬのが怖くなった。負けてしまえば二人は助からないだけじゃない、実を一人にしてしまう。そんなことできない。

「悪い……ちょっとトイレに行ってくる」

 病室を出ると、そこには和人がいた。

「おまえ、居たのか?」

「まぁね。あれが君の戦う理由かい?」

「あぁ。そうだ。それがどうかしたか?」

 和人はおもむろに光夜の前に立つ。

「あれが、神に見捨てられた子なんじゃないか? ここで助けたとしてもまた同じ試練が襲いかかるかもしれないよ?」

「あの子たちが神に見捨てられたと言うなら、オレはその神を殺す」

「フッ……」

 月間光夜に負けるわけにはいかない理由がある。

多少辛口でもいいので感想などいただけると幸いです。

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