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crown crime  作者: 深嶌総一郎
the1day
2/10

第一話 -衝突ー

暇つぶしにでもどうぞ!

 景迥(かげはる)は熱いコーヒーを一杯、ソファに腰掛けながら飲んだ。

 --今回の争奪戦は負ける訳にはいかない。千載一遇のチャンスだから。と勝つための算段を立てるため、思考を巡らせていた。

「景迥、おはようございます」

 (かなで)が声をかける。

「あぁ、おはよう。奏。僕たちの使い魔はどうした?」

「庭で、剣の鍛錬をしています」


 風を切る(つるぎ)の音。朝日に反射して美しく光る。その細腕でに持った剣で大木を切り倒す。

「ルシェル。少しいいかしら?」

 ルシェルとは彼女の名である。

「なんですか? 奏」

 剣を鞘に納め、奏に近寄る。

「今日……ついに始まるわ」

 ルシェルはこくりと頷く。

 奏の言う通り、今日。王冠を奪い合うバトルロワイアルが始まるのだ。ほかの参加者も当然、使い魔はいる。万全に越したことはない。


「わかっています。この剣の懸けて貴方たちに勝利を捧げましょう」

「ええ。期待してるわ」

 ルシェルとの短い会話を終え、奏が屋敷内に戻るとソファに景迥の姿はなかった。

「奏。この場所にルシェルと一緒に行ってくれ。いい隠れ蓑になるはずだ」

 景迥は車のキーと地図を投げる。

 受け取り、奏はこう言った。

「わかりました。ですが、ここの場所でも構わないのでは?」

「あそこには、君の武器がある。僕はここで魔装銃の強化に取り掛かる。それと都内にいたほうが情報が集まりやすい」 

 奏は納得し、車のキーを握りながら庭にいるルシェルに再び声をかけた。


「そうですか……わかりました。行きましょう」

「それじゃ、早速出発しましょうか」

 彼女らは景迥の用意した車に乗り込む。ルシェルは黒いスーツに身を包みながら、助手席に座っている。

 そして、奏は車を発進させる。


 車の中はやや沈黙が続いた。それを嫌った奏が窓の景色を眺めているルシェルに話しかける。

「ごめんなさい。私、沈黙が嫌いなの……だから、話をしましょう」

「ご命令とあれば」

 素っ気ない反応だ。

「何を話しましょうか?」

「……」

 話す内容がない。

 奏は沈黙が嫌いだが、話すのは大の苦手である。人を殺す技術はすべて景迥に教わったが、コミュニケーション能力は教わらなかった。

 それを見かねたルシェルが話を切り出す。

「そういえば、ちゃんと自己紹介してませんでしたね」

 コホンと咳払いをし、始める。

 

「私は使い魔の世界では、西方の大王国の騎士をやっていました」

 流れる景色を見ながら、ルシェルは淡々と喋り出す。

「騎士? その身なりで大体は予想してたけど……」

「はい。《瞬速騎士》なんて呼ばれてました。こう見えて、数々の伝説を築き上げたものです」

 自己紹介から徐々に自慢話に変わっていく。

「千対一で戦いをしたり、悪魔の軍勢や邪神などを次々と鮮やかな剣捌きで圧倒しました」

 しまった。この子意外とおしゃべり好きだと気付いた時には、もう彼女は止まらなかった。

 車を走らせて五分。争奪戦の舞台、六島(りくしま)市に入った。思ったより賑やかで、車通りと人通りが多い。夜の戦闘でも気を使わなければ一般人を巻き込んでしまう。少ない犠牲で多くを救う。この理念を旨として行動する景迥と奏には度外視できない問題だった。

 

「着いたわ。あのマンションね」

 二人は車を降り、マンションの部屋を開ける。

「殺風景ですね」

 部屋には寝具が一つ、冷蔵庫とタンスがあるだけだった。

「こんなものでしょ」

 タンスを開けると、大小のアタッシュケースが置いてあった。

「これね。景迥が言っていたのは……」

 中にはグロック拳銃、バレットREC7、CZスコーピオン、ベレッタCx4、レミントンM700など様々な銃が入っていた。

「それじゃ……今夜。戦いを始めましょう」


ルシェルは漁港に来ていた。コンテナが山のようにあり、積み重なっていた。ここは六島市の重大な貿易港に違いない。

 街灯が少なく、妙な雰囲気と肌を刺す殺気が充満していた。

 闇夜で獣が佇んでいる。

 息を殺して潜んでいてもルシェルにはわかっていた。目の前には今にも首を噛み切ろうとしている獰猛(どうもう)な獣が居ることを。

「出てこい……、そこにいるのはわかっている」

「約束通りに来たことは褒めてやる」

 実は数時間前、ルシェルに手紙が来たのだ。


「これは……!」

「どうしたの?」 

 手紙を開くと、文字が浮かび上がった。「今夜六島漁港にて待つ。騎士ならばその誇りを見せてみろ」

「挑戦状です……奏、今夜六島漁港に行きましょう」 


 そして今に至る。

 その男は細身だが、見るからに良質な筋肉があるのがわかる。そして両手には大小の二つの剣を持っていた。

「騎士の誇りにかけて貴方を斬ります」

 男は不敵に笑う。どうやら戦うことを待ち望んでいたらしい。

「俺も俺自身の誇りをかけて、貴様を斬る!」

 争奪戦、最初の戦いの火蓋は切って落とされた。


「行くぞッ!!」

 仕掛けたのは男のほうだった。

 鋭い一つの剣が、ルシェルに切りかかる。

「ほう……」

 男は感心した。

 彼の剣を止めたのは、彼女自身の剣だった。黒いスーツ姿から白銀の鎧に変わり、美しい光が反射する。

「今度はこちらから行く!」

 男を弾き飛ばし、剣を構える。そして距離を詰めた。

 煌めく剣で一閃。

 だが、剣で止め。薙ぎ払い、逆に男が右手に持つ短い剣で水平に切り払う。

 これを甘いと言わんばかりに、眼前で(かわ)す。隙が出来た右肩に斬る。が、もう一つの剣で見事に受け止める。そして反撃の狼煙として攻撃可能となった右手でルシェルの顔を突く。

 反応が早く、顔をずらして躱す。

 しかし左頬に掠ってしまう。

 僅かばかり血が噴き出る。

 男の不気味に輝く剣が振り上げられるがルシェルは飛び退き、躱す。


「なかなかやるな……このやり取りでこの程度とは。見上げた騎士だ」

「貴方も相当できるようだ。あちらでは名の有る戦士だったのでしょう」

 ルシェルは頬の傷の血を拭う。すると傷が治っていた。

「お互い名を名乗るとするか」

「私の名はルシェル。西方のイベルア大帝国の最上騎士。貴方は?」 

「俺はライムット。傭兵だ」

 お互いに再度剣を構える。


「ではルシェル。俺は少し本気を出すぞ」

 ライムットの剣が形状変化して、さらに短くなった。その武器の種類は双剣。

 重心を前にかけて、ルシェルに襲いかかる。

 振り上げた一閃は危うくルシェルの首を捉えるとこだった。

 --先ほどより速くなっている。と猛烈な殺気の中から感じ、避ける。ライムットがすかさず右の剣で刺突。これは剣で防がれた。

「どうした? ついてこれないか?」 


 ライムットは嘲る。

 ルシェルも反撃するがすべて防がれる。剣で払われ、ルシェルが体勢を崩したそのコンマ数秒の隙に蹴りをねじ込む。

 左腕で防ぐが後方へ跳ね飛んだ。

「まだまだ行くぞ!!」

 距離を詰められ、連続で剣戟がルシェルを襲う。

 防ぐのが精一杯だった。

「ハァァァァ!!」 

 回し蹴りが左腕に直撃する。

 後方へ飛び、衝撃をいなす。


「この程度の速度についてこれないか?」

「……どうやら、少しは私も本気を出したほうがよさそうだ」

 ルシェルの体から光が溢れ出る。そして眼の色を変えてライムットを睨む。空気が一瞬で変わり、深呼吸して腰を落として剣を構えた。 

「魔力が可視化できるほどの濃度か……面白い」

 ライムットは口角を上げる。


 --消えた。


 そう。ライムットの目の前からルシェルが消えていたのだ。

「!!」

 気配を感じたのは意外にも彼の後ろだった。

「なに!?」  

 目に映るより早くライムットは反射的に反撃した。

 しかし当たらない。

「残像ーーだと」

 ルシェルの姿はもうなかった。

 どんどん加速していき、もはや姿すら見えない。

 そして再びライムットの後ろに現れた。

「そこかッ!!」

 だが彼は剣を振るわなかった。解ってしまったのだ。こちらが剣を振るうよりもあちらのほうが何倍も速い。だから、防御だ。

 咄嗟の判断が結果的に彼を助けた。

 ルシェルの渾身の一撃がライムットを吹き飛ばす。


 ライムットは数メートル先のコンテナに食い込む。

「ぐぅぅ!!」

 ルシェルは加速していき、翻弄する。

 --下手に動くより、コンテナを背にしていたほうが安全だ。彼は意識を前方に集中した。その判断は間違っていた。

 ルシェルはなんとコンテナを突き破り、ライムットの背中から剣を突き刺した。

 ーー勝った。


「勝ったと思ったか?」

 勝利を確信したルシェルの目の前に刺し殺したはずのライムットが余裕綽々の表情で月を背に倉庫の屋根に立っていた。ルシェルの刺したライムットが霧のように消える。

「貴方もまだ全力ではないということですか」

 お互いにまだ手の内を明かしていない。 

 そしてライムットは剣を重ねる。すると剣は姿を変え、黒い槍となった。

「槍……?」

「そうだ。槍だ」

 油断はしなかった。いやむしろ警戒していた。戦法が変わる。今までの戦いはフェイクだったのか。色んな思考がルシェルの頭の中で絡み合う。


 ーー加速すれば勝てる。まだ慣れていない。一気に攻め落とす。

「行くぞ……」 

 ルシェルは駆け出す。

「見えてるぞ」 

 斬りつけた一撃は黒槍で防がれた。

「俺の目は特別製でな」

 見切られた。驚きを隠せれない彼女自身がいた。

 勝ち誇った顔つきでライムットは黒槍でルシェルを攻めたてる。今までより速く、鋭く、強く、そして重く。

「これが……貴方の全力ですか?」

「どうだかな」

 答えをはぐらかす。

 奥の手があるとしたらこれはルシェルにとって不利な状態になる。

 ルシェルは一旦距離をとる。これで槍は当たらないはずだった。


「!?」

 伸びた。ように見えた。

 ライムットが放った槍がここまで届かないと思ったルシェルを容赦なく襲う。何とか躱すことに成功するが、体勢を崩す。

 そして距離を詰められる。

 先ほどとは打って変わって更に素早い速度で攻める。

 槍を突き、剣で払われるが、次の攻撃が速い。全くの別方向から攻撃が加わる。ルシェルは弾くのが精一杯で攻撃に転じれないでいた。

 --距離を取らねば。そう思い、後方へ飛ぶ。流石の槍も当たらないはずだがルシェルを追って槍が突進してくる。

 剣でいなすが背中から倒れてしまう。 

 完全な隙。

 ライムットは跳び、身を空中に預け、槍を突く。


 倉庫の屋根が崩れ、ルシェルは地面に叩きつけられる。槍は防げたが、この衝撃はもろに食らってしまった。 

 すぐに立ち上がり、体勢を立て直す。

 土煙に隠れてライムットの姿は見えない。

 --槍が伸びた? そんな馬鹿な。そんな常識が彼女の動きを鈍らせていく。

 そう。実際には槍は伸びていたのだ。

 伸びた槍が水平に薙ぎ払われる。これも防ぐが、倉庫の壁に叩きつけられてしまう。押されている。勝負は完全にライムットのほうに流れている。


「思い出しました……貴方は変槍(へんそう)使いのライムット。そうですね?」

 フッと鼻で笑うライムット。

「ばれたか……そうだ。俺は変槍使いのライムット。名高い騎士に覚えていただけるとは光栄の至りだ」 

 使い魔の世界でも有名な傭兵らしい。 

「私も貴方みたいな人と戦えて光栄です。できれば貴方とは最後に戦いたかった」

「俺を倒すと言っているように聞こえるな」

「聞こえないなら、はっきりと言いましょう。貴方を倒します」

「抜かせ……」

 

 剣と槍が交わるときに(いかずち)が落ちた。


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