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crown crime  作者: 深嶌総一郎
the0day
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プロローグ

 暇つぶしにでもどうぞ

 その男は「幸せ」を望んだ。

 誰よりも夢を見て、希望を望み、そして誰よりも絶望を知った。願いを叶えるために彼は犠牲を払った。

 ーーだが、彼は優しすぎた。


景迥(かげはる)

 ショートカットで容姿端麗な女性が山中にひっそりと建っている屋敷の玄関で男の名前を呼んだ。

(かなで)か……どうした?」

 二階の階段からコーヒーの入ったカップを持ちながら、そう言いながら降りてきた。

 男の名前は()()()景迥(かげはる)。黒いスーツに身にまとった、長身痩躯の二十代の男である。

「王からの手紙が来ました」

「そうか……なら、早速準備を始めようか」

 天井が吹き抜けの窓になっている大部屋に二人で来た。


「さて、手紙を見せてくれ奏」

 如月(きさらぎ)(かなで)。十代の容姿端麗な女性だ。

 奏は、胸ポケットから手紙を取り出す。

「これです」

 景迥は手紙の封を切り、中身を見る。

 そこには「汝、願い叶う戦いに参加されたし」という文章のほかに赤い陣が書かれていた。

「……始めよう」

 手紙を投げ、

「汝と我、そして王冠の導きに(いざな)われた使い魔よ。世界を越え集え。我と契約し、我のために戦え! 来たれ使い魔!」

 投げた手紙から急激に風が集まる。陣が巨大化して白い煙りが立ち込める。

「我は使い魔。そなたの願いのために戦おう。答えよ。そなたの願いを」


 煙りを切り裂き、煌めく(つるぎ)を持ち白銀の鎧を装備した女性がそう言ったーー


 

 (ふし)()(れん)一郎(いちろう)は高校でイジメられていた。

 クラスでは机を壊され、無視され、散々な青春を送っている。

 伏見煉一郎は決して、王冠に選ばれた人間ではなかった。

 彼の運命は一通の拾った手紙で大きく変わる。

「なんだ……これ?」

 カーテンで閉ざされた部屋で煉一郎は手紙の中身を確認した。彼からすれば意味の分からない文章に違いない。


 ある図書館で見た気がする。

 使い魔を呼び出す言葉を。

 ーーどうして、思い出すんだ?

 煉一郎自身は分からなかったが、思わず口に出して言った。

「汝と我……そして王冠に、導きに誘われた使い魔よ。世界を越え集え……我と契約し、我のために戦え。来たれ使い魔……」

 言い終わると突然笑いがこみ上げてきた。


 ーーこんな事をしても何も意味がないのに俺は馬鹿か。という自嘲だ。


 だが、煉一郎の期待を裏切る形で陣が形成され中から人が現れる。

 姿は女性で、腕を鎖で縛られている。

「私は使い魔。貴方の願いのために戦おう。答えなさい。貴方の願いを」

 

 彼は使い魔を復讐に使った。

「なぁ、なんなんだよ……伏見ぃ」

「藤本……こいつは俗に言う復讐だ」

 藤本は手足を鎖で縛られ、倉庫の冷たい床に寝かされている。

「おっ、俺がイジメたのが悪いのか?」

「なんだ。分かってんじゃん……サイカ。やっちゃって」

 サイカは使い魔の名だ。サイカはおもむろに藤本の手を握ると、右手の人差し指を逆方向に曲げた。


 しかし不思議と痛みは皆無に近かった。

「俺の身体になにしたんだよ!!」

 藤本が(わめ)く。

「何って、痛覚を鈍くしたんだよ」

「今の貴方には痛みは蚊に刺された程度でしょうね」

 煉一郎はクスクスと笑う。

「サイカ、痛覚元に戻して」

「分かりました。煉一郎様」

 痛覚を元に戻す。

「ーーッ!!」


 藤本は悶絶した。急激に襲った激痛で。

「ほら、よく言うじゃん。心の痛みの方が痛いって……じゃあ俺の方がお前の千倍は痛い」

 藤本の腹を蹴る。

「飽きた……サイカ。殺していいよ」

 鎖が解け、そのまま鎖で首を絞める。

 首が跳ね跳び、鮮血が倉庫中にぶちまけられた。


「じゃあ……次にいこうか」

 一人の残忍な男と盲目的な使い魔は争奪戦にどんな作用をもたらすか誰も知る由もなかった。



 (つき)()(こう)()には家族がいた。

 二十で結婚し、二十二で双子を授かった。妻子ともに神に守られていると光夜は信じていた。

 幸せは長くは続かなかった。

 生まれて直ぐ、双子は病気にかかった。しかも難病。

 光夜は治療法を探しに外国は旅をした。

 治療法を探しに旅に出て、五年後。ついに治療法は見つからなかった。


「光夜さん。お帰りなさい」

「ただいま……」

 治療法は見つからなかったーーと言い出そうとしたが。

「見つからなかったんでしょ……治療法」

 光夜の心中を察したようだ。

 その時ーー、光夜は妻の(みのり)をぎゅっと強く、強く抱きしめる。

「ごめん。ごめん……」

 謝ることしか出来ない。


 だが、無理とは言わなかった。

 彼は知っていたのだ。この世界に奇跡を起こせるものが存在するのを。

「必ず、あの子達はオレが救ってみせる。だから……待っててくれ。オレの帰りを」

「あなたを信じてます。でも今は一緒にいて下さい。じゃないと私……」

「分かってる……」

 実は光夜の腕の中で小さく震えている。


 実が落ち着き、光夜は自分の子供が入院している病院に赴いた。

 病室に入ると、そこには娘のかなしなが同じベットで寝ている。こう見ると何ら変わらないただの子供なのに。

 ーー何故、この子たちなんだろう。と運命を憎んだ。

 二人はご飯も食べられるし、走り回れる。だが、徐々に何かが体をむしばんでいく。そして、あと寿命は三年。

 八歳までしか生きられない。


「お父さん……大好き」

 叶が寝言でそう言った。

「お父さん、また行ってくる……必ず、おまえたちを助けてやるからな」

 二人の頭を撫で、病院を後にする。

 

 光夜は郊外の屋敷の前に来ていた。

黒華くろはな……ここの門をくぐる気はなかったが。行くしかないか……」

 門をくぐり、屋敷内に入る。そしてある一室にたどり着いた。

「入るぞ……」

 扉の向こうには研究室に使われていそうな、フラスコとシリンダーなどが置いてあり、その中には紫色の液体が入っている。

 窓際の机には最新のパソコンがある。

 椅子には美しい黒い髪の女性が座っていた。

「やぁ、きょく。……いや、今は確か光夜って名前だっけか?」

「相変わらずだな……おまえに訳あって頼みごとをしたい。黒華くろはなれい

「もう姉さんとは呼んでくれないのか」


 黒華極夜。光夜は元は魔導士の名門、黒華家の家の者だった。だがしかし、魔導士としての素質は皆無に近かった。 

 名を極夜から光夜に変え、愛する女性と一緒になり黒華の名を捨てた。

 一方彼女、黒華礼は魔導士としての才能は十分過ぎる物があった。彼女はよわい二十九で大賢者を超えた魔導士となる。

 知識、魔法に対する解釈。魔力の貯蔵量もどの魔導士も及ばない。

 光夜とは真逆だ。

「オレは黒華の名を捨てた身だ。おまえをそう呼ぶ権利もない」

 ーー話を戻そうと光夜。

「頼みごとは、他でもない……オレを王冠争奪戦に無理矢理参加させてくれ」

「はっはっはっはっはっは!!」

 大きな笑い声を礼はあげた。


「そいつは面白い話だ。あんた死にに行きたいのかい?」

「願いを叶えるためだ……」

 光夜は真剣な表情を浮かべて、礼にそう言った。

 彼女はそれを見てニヤリと笑う。

「いいだろう……ついて来い。とっておきをくれてやる」

 階段を降り、地下室に入った。

 床には巨大は魔法陣が描かれている。

「魔法陣の真ん中に立て、そしてこの薬を飲め」

 礼は小瓶を光夜に渡し、光夜は魔法陣の真ん中に立ち、小瓶の液体を一気に飲み干す。


「うぐぅぅ!!」

 激痛で意識が混濁する。

 光夜は倒れてしまった。すると魔法陣に強烈な風が集まる。

「目が覚めたらあんたは立派な魔導士になってるさ。安心しな……頼みごとはきっちりこなしてやるから」

 意識が消えた。


 この三人を含めた王冠に選ばれた八人がしのぎを削るバトルロワイヤルが始まる。

誤字脱字や感想などがありましたら教えていただけると幸いです

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