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ギョロのところにばっかり行って留守がちだったから、縄張りに不法侵入者多数。なんとか追い払う。念のため暫く縄張りから離れることはしなかった。
太陽が8回沈んだ頃、無性にパンが食べたくなったが我慢した。まだここを狙っている奴は多い。
木にへばりついているナメコを食べている時に、西洋の子竜が俺の縄張りに入ってきた。
何故ここに子竜が?
初めて見る不法侵入者に威嚇の声を上げたが、無視された。
体長はパンダぐらいある。
まだ小さいといえども竜。
俺では敵わない。
縄張りから追い出せそうにもない。
だからといって、タダで縄張りを渡したくなかった。
ここは森の恵みが豊富で、俺のお気に入りの場所だったから。
俺は威嚇の声をうるさく上げ続け、時に拳大の石を頭に落とした。
その結果、現在怒った子竜に追いかけられてます。
つい習慣でギョロのいる小屋の方向に向かってしまった。
しかし、方向転換したら距離を詰められる。俺は小屋を素通りしようと決めた。無関係なギョロを巻き込む気はなかった。
小屋が遠目に見え始めた時、俺のすぐ背後では子竜の翼の音が間近に聞こえていた。
生暖かい息を感じ、口を開けていることを感じ取った。
恐怖と絶望が身体中を駆け巡る。こんなことなら、縄張りぐらい素直に明け渡せばよかったぜ。
食われる間際、急に背後の翼の音が止んだ。生暖かい息が掛からなくなった。
俺は大分離れてから、背後を振り返ると、子竜が引き返していく姿が見えた。
助かった。
俺は全身の力が抜けた。
だけど、不自然な引き際だった。まるでそこに境界線があるような。
…まあ、竜なんて気まぐれな生き物だからな。どうせ気が変わって俺を食う気がなくなったんだろう。ともかくこれからは子竜といえども怒らせるような真似をするのは止めよう。猛反省。
とりあえず近くに来たので、ギョロの小屋に寄った。
小屋の入り口正面にあるウッドデッキのイスにギョロは腰掛けて寝ていた。
俺が手すりに降り立つと、翼の音でギョロが目を覚ました。
俺に気づくと、目を見開いた。
普段でさえギョロ目なのに、目玉が落っこちそうだった。
毎日来ていたのに日を空けて飛来したせいか、ギョロは泣きそうな顔で笑った。
イスからゆっくり立ち上がると、俺に近寄って大きな手を伸ばした。
俺はその手を突っつけなかった。
大きな手は震えていた。
そして俺に触れないように撫でていた。エアー撫で?
俺の周りの空間だけを撫でているのは、突っつかれて逃げられたくないからだろうか。
俺は大柄な男の泣きそうな顔なんて見たくもなかったから、大きな手に頭を寄せて撫でられてやった。