表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

第一章「二つの世界」

 なお、舞台は西暦2005年となります。ご注意ください。

 例えば、携帯電話はあってもスマホありません。

 また、我々の世界とは世界情勢、戦争の経緯が少し異なっています。

 巨大な鋼鉄の集団が二つ、白い航跡を引きながら水面を驀進していた。

 後世『殴り込み』と評され、フィリピン・レイテ島に侵攻した連合軍大部隊を撃滅すべく出撃した、第一遊撃部隊・四二隻の生き残りたちが巨大な鋼鉄の輪を構成する機械の暴力と人の闘志を漲らせた艦艇群だった。

 既に一割以上の艦艇がこの突進から落後していたが、それをまったく感じさせない圧倒的存在感を放ちつつ、南海の海原を一八ノットの速度で驀進していた。


 (旅行なら、ここは一等席なんだがなぁ)

 高倍率望遠鏡のアイピースに顔面を張り付けた男は、頭の片隅で埒もないことを考えていた。もちろん、潮風と油、そして硝煙の混ざったむせるような臭いを無視して、自らの任務を何ら手抜かり無く果たしていた。

 彼の名は、朝霧権三あさぎり ごんぞう。この艦の防空指揮所と呼ばれる部署を臨時に任された特務少尉に任官したばかりの熟練兵だ。五尺半をやや下回る背丈を持った平凡な外見ながら、抜群の視力と集中力の持ち主で、その目を買われ二〇年以上も海軍に奉職してきた。

 彼がいかなる人物であるかは、五本の指では足りない善行章の数と、水兵の提督と言われる特務少尉という階級がすべてを表していた。たっぷり蓄えた口ひげもあって、高級将校よりも立派に見える事もあった程だ。

 もっとも、穏やかな性格の彼は、水兵達に多少は偉そうに見せるための口ひげ以外、特に自慢する事も奢ることはなく、日々の任務を淡々と果たしていた。

 だが彼の任務は、当時の日本海軍にとって無くてはならないものだ。

 彼は優れた視力を活かし、文字通り艦の「目」としての役割を担う部署の責任ある地位にある。しかし彼は元々責任者ではなく、先ほどの戦闘で負傷し、艦内の病院で治療中の見張長から任務を引き継ぎ、この艦でも屈指の見晴らしの良い場所の一時的な支配者となっていた。

 艦の名は『大和』。

 大日本帝国と自らを称する東洋の新興軍事大国が、国家の命運を託すべく建造した超巨大戦艦であり、開戦以来、一億の民の期待を一身に背負ってこの場にあった。


「見張ちょ…いや少尉だったね、どうかね?」

 カン、カン、カン。

 ラッタルを上がる規則正しい金属音が止むと、彼の斜め後ろから聞き慣れた声がしてきた。

「ハイ、艦長。異常ありません。雲量は少しありますが、任務に支障はありません」

 権三は、双眼鏡に両目を付けたまま答えを返す。

 艦長と呼ばれた人物はその態度を気にする風もなく、自らも首に掛けていた双眼鏡を手にとって、自らも周囲の空を見回し始めた。

 そんな二人の行動は、そのまま全艦隊の縮図と言ってよかった。

 なぜならこの時、フィリピン中央部の狭い海域にいるすべての日本海軍艦艇の関心事は、空に向けられていたからだ。

 そして、もうまもなく午後三時を回ろうとしており、夜間に離着陸をしたくないのなら、敵空母の艦載機が空襲をしかける最後のチャンスと言ってよかった。

(もう十分だろうハルゼーさんよ。これ以上、来ないでくれ)

 すべての将兵が、そう念じているに違いない。

 だが、彼らの願いは無情にも裏切られる。

 電探室に繋がる伝声管から、空の悪魔の襲来を告げる神託が下ったからだ。

 しばらくすると、海面から四〇メートル近い高さにある『大和』の防空指揮所の高倍率望遠鏡でも、空に蒔いた胡麻粒の群が近寄ってくるのを捉えた。

 しかもその胡麻粒は、空一面に蒔いたように広がっている。

 今までにない、凄い数だった。

「方位三四〇、数およそ百機、上下三つの集団に分かれ急速に接近中。なお付近の雲量二」

 要約すれば以下のような報告が全艦隊で通達された。さらに、防空戦闘の要を担う各高射装置では、専門の砲術員によってさらに詳細なデータが次々に刻まれている。その証拠に、百門以上備えられた『大和』の防空火器のすべて、伝説の巨獣の牙ようにうごめきだした。

 だが、「数およそ百機」という見張員の言葉に、すべての将兵が息を呑んだ。

 いかに戦艦七隻を含む大艦隊とは言え、戦闘機が一機も存在しない艦隊にとって、耐え難い破壊力だったからだ

 マレー沖で自分たちが成し遂げた事が、その良い例だろう。

「クソっ!」

 防空指揮所にいた誰かが小さくうめいた。

(仕方ねぇなぁ)

 権三は、下には任務中の私語は慎めとあれ程言ってあるのにと思いつつも、さすがに今回は仕方ないだろうと咎める事はしなかった。それよりも、徐々に近づいてくる群青色の、彼らにとっての悪魔の集団を見つめ続けた。

 そうしなければ、自らも何か口にしてしまうか、もしできるのなら狂ってしまいたいぐらいだったからだ。

「全艦防空戦闘ヨ〜イ」

 斜め後ろでは、伝声管に向かって叫ぶ森下艦長の様々な命令が響いていたい。どうやら艦長は今回もここで防空戦の指揮を取るらしい。

(なら今回も大丈夫かもな)

 朝霧特務少尉は、この絶望的な状況の中でも、できる限り物事を楽観的に考えることにしていた。

 それに今までとは違う回避方法をとることで、『大和』はもとより全ての艦艇が受ける損害も、ずっと小さなものでしかなかった。

 その証しに、『大和』の横には旗艦『武蔵』が力強く驀進し、さらに向こうには新鋭戦艦の『信濃』が、生まれたばかりだと自己主張するように、新鋭艦特有の鋼鉄の輝きを放っていた。

 大和級戦艦以外にも『武蔵』を中心に二重に組まれた輪形陣は、何度か激しい空襲があったにも関わらずほとんど欠けはなく、彼の楽観的考えを肯定しているようだった。

 しかし、追い打ちをかけるよな別の報告が飛び込んだ。

「右一六〇度より急接近する機影。数およそ三〇」

 防空指揮所の後ろの方で見張っていたベテランの二曹が、信じられないという声色を出すまいと努力した怒声を発した。

「畜生、挟み撃ちかよ」

 最初とは違う別の誰かが、今度はかなり大きな声で罵った。そこで権三が、さすが今度は注意せねばと顔を一旦双眼鏡から外したとき、先ほどとは違う大きな声が響きわたる。

「右一六〇度より接近せる機影は友軍なり。繰り返す、接近せる機影は友軍なり!」

 今度は歓声にも似たため息が、殆どすべての将兵からもれた。

 ちょうど顔を上げていた権三は、急速に接近しつつある機影が濃緑と明灰色そして黒い機首を見せながら、友軍だと主張するバンクを振っているのを目にした。

(確かに、あんな色の米軍機はあり得ないな)

 機体の各所には、は日本人なら決して見間違えることのない赤い正円がクッキリと描かれている。また、垂直尾翼など機体各所には、所属部隊などを示すいささか派手なマーキングも施されていた。

(よっぽど腕に自身があるんだろう)

 眼前の光景に、感情を抑えることを得意な権三ですら、僅かに頬がゆるんだほどだ。

 ただ、ちょうど兵を注意しようと横を向いていたため、その表情を艦長に見られてしまった。

「どうやら『新撰組』が再び来てくれたようだね」

「ハイ、連中、本当に来てくれましたね」

 権三は、森下艦長にぞんざいな言葉で返したことを、内心しまったと思わなくもなかったが、艦長のほほえみを見ていると、まあ構わないだろうと言う気持ちの方が強くなった。

 だからそのまま、艦長と共に急接近しつつある濃緑色の空のサムライ達に視線を注いだ。

 『新撰組』とは『三四三空』と呼ばれる航空隊に属し、真珠湾攻撃を始め数々の武勲に輝く源田実大佐が率いる帝国海軍最強の戦闘機隊だ。

 設立されてまだ半年にも満たないが、この時既に最強と言われるのは、ほんの一週間ほど前に台湾沖にて、米艦載機群をさんざんにうち破ったからだ。

 ベテランパイロットの群と『紫電改』という名を与えられた新鋭局地戦闘機を組み合わせた戦闘機隊は、最強の名以外あり得ない存在感を今この時もフィリピンの空で見せつけていた。

(なんて連中だ)

 見張員として数々の航空機を『大和』の一等席から見続けてきた権三から見ても、その練度の高さは明らかだった。

 しかも一部は、最初から敵雷撃機を狙うのか、それとも艦隊将兵へのサービスなのか、あえて低空に舞い降りてそのまま艦隊を追い越していく。

 機体は零戦二二型。

 惚れ惚れとするような機動を見せつけていた。

 『大和』と『武蔵』の間を追い越していく時、たまらず誰かが叫んだ。

「頼んだぞ〜っ!」


 ◆ ◆ ◆


「どないや?」

「ウン、いいんじゃないかな。今までのは少しファンタジーすぎたけど、今度のは戦争ぽいと思うよ」

 威勢のいい声に、座っていた少女が原稿用紙から顔を上げ、やわらかに微笑んだ。

 やわらかな微笑み方の似合う、おっとりとした顔立ちに少したれ目ぎみの大きな瞳と、肩にかかるフワフワとした質感の髪を持つ少女だ。

 原稿用紙を手にしている仕草は、ステレオタイプな『文学少女』のようにも見えてくる。

「せやろ、せやろ、けっこー苦労してんで〜。ウチは元々ファンタジー作家やから、へーたいの専門用語とか分からんからなぁ」

 微笑む少女に寄りかかるりながら、共に原稿をのぞいていた小柄な少女は、大げさなボディーランゲージで語った。ボブ・ショートの髪が激しく揺れている。

 大びりな眼鏡の奥で、ややつり目気味の瞳で力強く輝く瞳が印象的だった。いかにも行動的で、我の強そうなイメージを与えている。

 少女の名前は東雲みゆき、すわって微笑んでいるのが朝霧かすみ。

 二人の共通点は、上がうすい茶系色で統一されたブレザーとベスト、下が渋めの色合いのタータンチェックのスカートという、同じく服装をしているぐらいだ。そして彼女たちのいる部屋は、どこかの施設の一室と言った風だ。

 つまり、ごくありふれた学校のクラブBOXの一室と、そこに通う生徒ということになる。

 学校は、関東地方にあるごく普通の公立高校で、制服がちょっとカワイイと近隣の女生徒から好評なのが唯一の特徴だった。成績も中の上くらい。近隣の中学生が、大学に進学する気なら最低限の目標とするギリギリの成績しかない。

 そして彼女たちは、高校内にあるクラブBOX内で『文学部』のプレートがかかった部屋の一角に陣取っている。


「けど、ウチらがこんなん書いてホンマにええの?」

「大丈夫。ちゃんとヘルプ頼んだから。もうすぐ来てくれると思うよ」

「へー、手回しええなぁ。どんなお人なん?」

「フフフ、内緒。でも会えば分かるよ。結構有名人だから」

「何やねん、ケチやなぁ……」

 穏やかな口調のかすみが、口に手を当てクスクス笑いながら扉を見たので、みゆきも同じように扉に目を向けた。そして二人が同時に扉を見つめた時、扉が開き一人の少女が入ってきた。

 腰の手前までみごとな黒髪を伸ばした美人だ。二人と同じ制服を着ているが、スラリとした長身のせいか別の服装のようにも見えてくる。

 長身の少女を見たみゆきが思わず呟いた。

「あっ、鉄仮面」

「それって鉄面皮の間違いじゃないの? あ、お久、さつきちゃん」

「かすみっち、そのツッコミはダウトやで」

「え、何かヘンな事言った?」

 二人の会話が続く中、さつきと呼ばれた少女は澄ました顔のまま聞き流すように長身をゆっくり移動させて二人の近くに腰掛ける。さらに細やかな黒髪を細い指ですくと机に肘を突き、その手に細い顎をあずけてから二人を交互に見つめた。

 やや猫目がかったまつげの長い切れ長の目で、奥にある瞳は冷静で知性的だ。さらに今は、少しばかりの茶目っ気が瞳に色を添えている。

「漫才、そろそろ終わってくれないかな?」

 ゆっくりと問いかけられたさつきの言葉に、二人は気まずそうに顔を見合わせ、ようやく会話らしくなった。

「あ、あのね、この娘がメールで言った東雲みゆきちゃん。で、こっちがさっき言ってたヘルプ頼んだ橘さつきちゃん……え〜と、え〜と」

「まあ、そう言う事ですわぁ、あんじょうよろしゅうに。さっちんて呼んでエエ?」

「ウン、こちらこそよろしく東雲さん。……でさ、かすみ、私は何をすればいいワケ? 文章は東雲さんが書くんでしょう」

「エ〜ト、そうそう、さつきちゃんって軍隊の事とか詳しいよね。だから色々教えてもらおうと思って。ホラ、メールにも書いたじゃない」

「へー、そうなんやぁ」

 みゆきがさつきの顔を伺いつつ、さも意外そうに感心している。

 それが気に入らないのか、さつきがぼやいた。

「そりゃ、国防大学には進むつもりだけど、だからって詳しいワケじゃないよ」

「エッ、そうなの。ヘータイさんになるのなら、色々勉強とかしてないの?」

「ないよ。あるのは普通の学力試験。体力試験もあるらしいけど……。まあ、とにかく一般常識以上は知らないよ」

「エ〜っ、じゃあどうしよう。編集さんには、詳しい人がいるから大丈夫って言っちゃったのに〜」

(しゃーないなぁ)

 そう思ったみゆきは、かすみに助け船を出すことにした。これでは埒が開かない。

「なあ、さっちん確かパソ研なんやろ、せやったらネットで色々調べてくれへん。ウチら二人はそう言う事にも疎いから」

 その言葉に、かすみは内心ホッとした。さつきは根は真面目なくせに、自分から興味を持たないとなかなか動かないからだ。

「ね、専門技術活かす滅多にないチャンスだよ。それに今後の為の勉強と思えば一挙両得!」

「おお、その通りやん。頼むわ!」

「大丈夫だよ。興味があるから、ここに来てるんだから。ただ、本題に入る前に一つだけ聞いていい? 『鉄仮面』って何?」

 冷ややかさを少し増した眼差しをみゆきに向けると、それに半ば反射的に答えが返ってきた。

「ああ、それかいな。さっちん学内でも結構有名やん。知らんとは言わせへんで。あんさん、コクられても眉毛ひとつ動かさず振ってまうって、一部で有名やで。ま、コクった連中にも面子あるから、あんまり表に出てない話やけど。で、その振られたお人らが、腹立ち紛れに『鉄仮面』って影で言うてんねん」

 「エ〜、そうだったの〜!」悲鳴を上げそうな顔をしたかすみをよそに、当のさつきは少し目を見開き「へー、そうだったんだ」と心底感心したようにつぶやく。

 そして一拍子おくと、二人に問いかけた。

「私って、そんなに表情ないかな?」

(またウチが答えなアカンのかいなぁ)

 チラリとかすみを一瞥したみゆきは、ありのまま答えることにした。嘘をつくのは、彼女の信条に反する事。

「そう思うお人は多いみたいやで。でなきゃアンサン、もっともててるがな。鏡よう見いや」

 横でウンウンとかすみが深く頷くと、突然さつきの首に腕を回して抱きついた。

「そうだよ、さつきちゃんはカッコイイんだから。でもダメだよ。さつきちゃんは私のお婿さんになるんだから」

「「ネー」」

 軽く抱き合ったまま二人でハモる。

 確かにさつきは、身長はモデル並に高く小顔で手足も細く見える。その実、全体的に大柄なつくりだが、全体のバランスがよかった。表情に乏しい事を除けばかなりのルックスだ。多少好みはあるだろうが、モデルや芸能人といっても十分に通用するだろう。

 ただ、見た目に比して男性があまり寄ってこないのは、無表情なのに加えて、今の情景が多くを物語っていると言う方が適切かもしれない。

 抱きついているかすみにしても、男子生徒から告白される事は一度や二度ではないが、なぜかすべて断り続けていると言う噂があった。


 処置無しと言いたげに二人を見たみゆきは、結局自分が進行役かと思いつつも進んで買って出た。

「まあ、二人の抜き差しならぬ間柄はこっちに置いといて……さっそく本題に入ろやないか。かすみっち、これから何するん?」

 その言葉にようやく現実に帰ってきたかすみは、少し居住まいを正してから二人に向かい合う。

「ウン、もう言ってあるけど、これから私達三人で私の曾お爺ちゃんの戦争記録本を作るの。でね、ナゼ私達が作るのかっていうと……」

「曾お爺さんが、若い人にも読んでもらえる戦争の記録を残しておきたいからでしょ。ところで、かすみの曾お爺さんて、今お幾つだったっけ?」

「今年白寿。数えの百歳。明治三九年の生まれだっていつも言ってるよ」

「ハ〜、それで録音起こしたヤツが、古くさい言葉やってんな。解読にエライ苦労したでぇ」

 みゆきが、ようやく納得したと言いたげに独白した後、改めてかすみに問いかけた。

「……なあ、これで面子揃たんやから、後は資料集めして原稿作成ちゃうん?」

「ウン、そうなんだけど、もう一つしなくちゃいけないことがあるの」

 かすみの声は、どこか嬉しそうだ。

「へえ、何なん? 兵隊さんにでも会うんか?」

「う〜ん、ちょっと違うよ」

「ほな、何なん? 勿体つけんとってぇなぁ」

「フフフ。ねえ、二人とも今度の三連休ヒマだったよね」

「ああ、分かったで、資料探しに行くんやろ。そう思て、アキバと神保町にそれらしい店はもう目星つけてあんねん」

「それも違うよ〜」

 みゆきが得意げに続けるが、さらに嬉しそうなかすみの声に遮られてしまう。

 そして、そうしたしばらく二人のやり取るのを静かに眺めるさつきは、既に回答に近いものに到達していた。彼女に分からないのは、その目的地ぐらいだった。

「分かった、降参や。早よ言うて。うちセッカチやから、早よ答え聞かな死んでまう〜」

 みゆきの喉をかきむしるようなオーバーアクションに満足したのか、コホンとわざとらしい咳払いを一つすると、ようやく目的の発表に入った。

「じゃあ、言うね。今度の三連休は二泊三日で取材旅行です。しかも旅費は、もう出版社から曾お爺ちゃんがもらっているから問題ないんだよ」

「おぉ〜」

 たった二人の聴衆の高低二つ、かなり演技がかったどよめきのあと、さつきが聞きたかった問いへと静かに移った。

「それで、どこ行くの?」

「廣島県の呉って町。そこに『大和』がいて見学させてくれるし、他にも色々見て回れるって」

 よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの、あまりかすみらしくない大きな声だった。それだけ嬉しいのだろう。

 かすみの気持ちを感じ取った二人も、彼女に会わせる事を互いに目で合図した。

「ほな、週末は『大和』に会いに行くで〜!」

 みゆきが掛け声をあげ、三人が軽く拳を振り上げ掛け声を挙げた。


「「「おーっ!」」」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ