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黒い滲は夜に模られ。  作者: 遠道日影
9/20

PIECE8 戦闘χ始



 <蝶が朽ちる

  それは私の底で

  容赦なく

  壊れていく


  容赦なく……>





「レン?」

 海叉(カイサ)に呼ばれて、はっとするレン。

「どうした、最近。心ここにあらずだな。ま、勉強中はいつもだけど」

 レンは、通いなれた海叉の部屋で、床に転がるクッションを引き寄せ寝転がる。ここはもう自分の部屋の一部だとレンは思う。洋服タンスにペタペタと貼られたレンジャーシールは、レンの仕業だ。レンは黄色いレンジャーを見つめながら言った。

「海叉ってさ、好きな子いないの?」

「なに突然」

 海叉は顔も上げず、勉強に集中している。レンはマネに言われたことを伝えた。海叉はひととおり聞いたあと、答える。

「レンはな、一直線だから」

「どういう意味か」

「おまえが恋愛したら、まわりが見えなくなると思うよ。あとさ、レンが知らないだけで、俺、彼女いたときもあったもん」

「ええッ!? 嘘っ!?」

 レンは、がばっと起きて、海叉を凝視した。海叉の手のひらでペンがクルリと回る。

「ほらね、レンはバンドのことしか見えてないだろ? 言ってないだけで、隠したつもりもないし、奈愛(ないと)もグミもすぐ気付いたよ。俺は俺で、恋愛も楽しんでるし、ゲームは奈愛としてるし、そのつながりで友達もいるし」

 レンは頭を抱えた。

「私だけ知らなかったんだ。私だけ友達いないんだ。あ、マネだけね」

 海叉は苦笑いする。

「なんか、ほら、仲いい子できたじゃない。一年の、おまえのコピーみたいな」

「勉強しよっと」

 レンはペンを持ち、教科書をめくる。

「ほんとわかりやすいな。好きになったか。そいつのこと」

 レンの手が止まる。

「ほんっとなんなの。海叉って。そうやっていつもいつも、私のことなんでも知ってるつもりでさ。私は海叉のこと知らなかったしっ」

「いじけるなよ。で、どうなんだ?」

 レンはノートを書き写しながら答えた。

「言われたよ。付き合ってほしいって」

「よかったじゃん」

 海叉は、一足先に宿題を終え、ノートを閉じる。

「簡単に言うなよ」書き写す手を止めて、レンはつぶやいた。

「あのコピーは、簡単じゃなかったんだろ、レンに告るの。レンは、好きな女にも告れずに撃沈したんじゃねえか」

「……それも言うなよ」

「おまえ、なにを悩んでるの。コピー……」

 レンが遮り、「シアね」と名前を教える。

「シアじゃダメなのか?」

「シアは、今、体が女だけど、いつか体も男になるんだって言ってる。よくわからないけど、十八にならないとそういう治療を受けられないんだって。今はホルモン剤をネットで取り寄せて飲んでるって言ってた」

「性同一性障害ってやつ?」

 こくんと、レンが頷いた。

「よくわからないよ。私が好きになるのは女の人って思ってたし。まあ、帰りますわ」

 レンは当たり前のように、海叉のノートを手に取り、いそいそと窓から出てベランダを越え、自分の部屋に戻る。

 幼い頃、海叉は、レンが男だと思っていた。レンも同様で、自分を女の子と知ったとき泣いたのだ。海叉と一緒がいいと泣いて、それを見ていた海叉も泣いた。

「名前に美がつくから、やっぱ俺は女だったんだ。小学校行くようになったら、もう自分のこと俺って呼んじゃダメなんだって。だけど俺、女なんてヤダな」

「美を取っちゃえば?」

「はす? はすじゃ変だよ」

「……レンは? 蓮美の蓮は、レンコンのレンでしょ」

「レンか。かっこいいね。じゃあ、俺、レン」

「俺じゃないでしょ。ちゃんと女の子らしくしないと怒られるの俺だもん」

「わ、私…」

 そんなことを思い出して、海叉はふっと笑った。

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