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黒い滲は夜に模られ。  作者: 遠道日影
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PIECE4 契約A

「bone」

 壁に張り付いている時計の、骨を模った秒針が、午後一時の合図を知らせた。骨はまた「価値、価値、価値」と、時を削っていく。

 テーブル上の料理は、すべてLinχ(リンクス)の欲望に削り取られ、メインの黄金色が個々の腹に価値感をもたらしていた。

 海叉(カイサ)が改めて午後の提案をする。開演時間まではまだ時間がある。

「アンペアに行こうぜ。ここから近いだろ」

 獣から人間へと変貌を遂げた三人は、ようやくリーダーの言葉に反応を示す。本来出演する予定だったバンドのボーカリスト、ユガが経営している店だ。

 夜ル閼ト(ヨルアト)町の入り口に陣取る、緋色の鳥居の前には、音楽関系の店がずらりと並んでいる。タトゥー専門店も数多くあり、道を歩く群れの人相は、いささか悪い印象だが、憧れのミュージシャンに会えることもあり、街は活気にあふれていた。

 黒と白のブロックチェック柄のタイルに、X PEACE(アンチピース)の赤い文字は、綴りの終わりに向かうほどペンキが垂れているようなデザインになっている。黒で統一されたインテリアには、服やアクセサリーが並んでいる。それらよりもひときわ存在感を放っているのが店長であるシズクだ。鮮やかな緑とピンク色の髪、めくった袖から見える腕には、解読不能の文字という文字がインク塗られている。その腕が伸びて、入り口そばに鎮座する大きな箱を指差した。

「よろすぃク」

 とびきりの愛嬌のいい笑顔で、早速Linχに仕事を与える。

「私、これ買う」

 並べながら、レンは取り置きをする。全員バンドのためにアルバイトをしているが、金銭的にそれほど余裕はなく、こうして手伝うと、商品を値引きしてもらえるため、四人は喜んで手伝うのだ。

 夕方近くになり、狭い店内の隅でじゃれ合うLinχに、

「あれ? 夜閼高(ヨアコー)仕様のLiχ(リックス)がいる。今日distort(トート)だろ? 」

 白いシャツ、ゆるいジャージにサンダルという、普段着姿のユガが声をかけた。ユガはたいていラフな格好をしているがどこか洒落ていて、それを目指した海叉は、自分のファッションに取り入れようと試みたことがある。だが鏡に映る自分は、どう見ても部屋着にしか見えず断念した。近所のコンビニぐらいなら行けそうな雰囲気ではある。だがユガは、そのまま雑誌の一ページを飾ってもおかしくはない。なにが違うのかと、ユガを見つめると、ラフなファッションから私生活は感じることはできなかったし、コンビニの袋も想像できなかった。コンビニ袋を持ったとしてもそれはそれでお洒落なような気がする。根本的ななにかが違う、と思わざるを得なかった。海叉は、制服でいると、どこか落ち着くのだった。

「開演まで結構時間が空いたんです。ユガさん、今度はなにをやらかしたんですか?」

 海叉が聞くと、

「ケンカを止めていただけなのに、俺まで引っ張られたっていう」

「マヌケだよな」と、店長が冷たい目を(ユガ)に向けた。苦笑いするユガに、奈愛(ないと)が腕時計を見ながら、

「出演、余裕で間に合うじゃないですか」

 と言った。

「最近、警察沙汰になったやつを出すなって苦情がくるらしい。おまえらさ、あと一年で卒業なんだから、ここらで決めといたほうがいいんだよ。Liχは卒業と同時にデビューするために」

「ユガさん俺も入れてよ。俺も入れてLinχだよ」

 Linχの“n”であるところの奈愛が懇願する。

「おまえはうちのドラムだろ? なんなら(ルクス)に戻るとか」

 ユガの唇が片方上がる。ユガのクセのある笑い方だ。ユガのバンド、マスタアドは、ドラムがいないため、奈愛がよく借り出されている。

「え、それは俺が困ります」

 Linχの“i”であるところのグミが困惑する。

「グミもマスタに入るとか」

 ユガの提案に、

「え、それは俺が泣く」

 マスタアドのベーシストである店長(シズク)が、すかさず言った。


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