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黒い滲は夜に模られ。  作者: 遠道日影
12/20

PIECE11 “damage”

 このところ、海叉(カイサ)はご機嫌だ。結果は三位、目標は充分に達成できていた。確実に夢へと近づいている。夏休みには、各地のイベントに参加することも決まった。

 校門を出てすぐ、レンとグミが「じゃあな!」と手を上げた。グミの指先にはグミがある。アルバイト前の腹ごしらえだ。レンが振り返り、

「打ち合わせ、頼んだぞ」

 とそこら中に響き渡るような声を発する。ほかにも生徒はいるが、Linχのいつもの光景で、誰も気に留める様子はない。海叉は「任せとけ」と答え、奈愛(ないと)は笑顔で頷いた。海叉と奈愛は、イベントの打ち合わせで軸兎館(じくうかん)の事務所へ向かうため歩き出した。

 ふたりが揃うと、どちらともなくゲームの話題になる。奈愛は、怖がりのくせにホラーゲームが好きだが、海叉がそばにいないとプレイが出来ない。海叉は、そんな奈愛を驚かしては、怖がる奈愛を見て笑っている。奈愛はなにをされても怒ることはなく、穏やかな性格をしている。よく気が利いて、レンよりも女子の気持ちがわかると言われている。

 交差点近くにくると、男子よりも男子らしいと言われ、学校内で目立ち始めたシアがいた。シアの周りにはいつも女子の取り巻きがいた。交差点で女子たちはシアに手を振り、横断歩道を渡っていく。渡りきるまでシアは見守り、女子たちはまた振り向いて、シアに手を振った。

「あの子でしょ。レンの」

 奈愛の問いに、海叉は、ん、と短く返事をする。レンの()()だ。初彼でもある。バンドのメンバーとして、小さいころから兄弟のように育った幼馴染として、愛想よく挨拶をしておかなければと海叉は身を引き締める。

「おう、シア」

 海叉に話しかけられて、シアは立ち止まり、振り向く。シアは綺麗な顔を崩すことなくふたりを見た。

「今度の休み、スタジオで練習があるんだけど、おまえもくるか? ちょうどレンの誕生日だし、練習が終わったらみんなで……」

 言い終わらないうちに、シアが言葉を放った。

「気安いな」

 え、と海叉の笑顔がフェードアウトしていく。

「ボクの好きなのはレンであって、Linχと馴れ合う気はないよ」

 挑発するように、シアは続けた。 

「練習のあとはレンを開放してくれない? いつまでもガキみたいにお誕生会だなんて、笑えるよ」

「なんだ、その態度」

 キレかけた海叉を、奈愛が抑え、

「ふたりで過ごせばいいよ」

 と促すと、シアは、バカにしたように鼻で笑いながら海叉を睨み、その場を去っていった。

「なんだよあいつ」

 海叉は舌打つ。

「ヤキモチじゃないの? いつもそばにいるのはカイなんだぜ。誕生日は、ふたりだけにさせてあげよう。寂しいかもしれないけど」

「寂しいかよ。クソ」

 海叉は声を荒げ、すたすたと歩いていく。奈愛が苦笑いして、あとをついていく。




 

 



 

6月11日(日曜日)


  <僕が生まれてきたことの過ち

  知っているか?

  おまえは生まれてきてはいけなかった

  暗闇の渦の中で 

  もがくことなく 

  ただ無心で 

  時が終わるのを待つ


  塵はどこまでも降り注ぐ

  暗闇の海の底に蹲る僕の屍にも


  どうか

  僕の全てを覆い隠してくれ


  醜く腐り 溶けてゆく僕を>





 ねえ、知ってる?レン。

 ボクは弱虫なんだ。

 怖いんだ。

 この(よご)れた両手でレンを抱き締めるのは、レンの体も汚しているみたいで。

 それでも、ボクはレンを

 (けが)すことをやめられないんだ。


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