PIECE11 “damage”
このところ、海叉はご機嫌だ。結果は三位、目標は充分に達成できていた。確実に夢へと近づいている。夏休みには、各地のイベントに参加することも決まった。
校門を出てすぐ、レンとグミが「じゃあな!」と手を上げた。グミの指先にはグミがある。アルバイト前の腹ごしらえだ。レンが振り返り、
「打ち合わせ、頼んだぞ」
とそこら中に響き渡るような声を発する。ほかにも生徒はいるが、Linχのいつもの光景で、誰も気に留める様子はない。海叉は「任せとけ」と答え、奈愛は笑顔で頷いた。海叉と奈愛は、イベントの打ち合わせで軸兎館の事務所へ向かうため歩き出した。
ふたりが揃うと、どちらともなくゲームの話題になる。奈愛は、怖がりのくせにホラーゲームが好きだが、海叉がそばにいないとプレイが出来ない。海叉は、そんな奈愛を驚かしては、怖がる奈愛を見て笑っている。奈愛はなにをされても怒ることはなく、穏やかな性格をしている。よく気が利いて、レンよりも女子の気持ちがわかると言われている。
交差点近くにくると、男子よりも男子らしいと言われ、学校内で目立ち始めたシアがいた。シアの周りにはいつも女子の取り巻きがいた。交差点で女子たちはシアに手を振り、横断歩道を渡っていく。渡りきるまでシアは見守り、女子たちはまた振り向いて、シアに手を振った。
「あの子でしょ。レンの」
奈愛の問いに、海叉は、ん、と短く返事をする。レンの彼氏だ。初彼でもある。バンドのメンバーとして、小さいころから兄弟のように育った幼馴染として、愛想よく挨拶をしておかなければと海叉は身を引き締める。
「おう、シア」
海叉に話しかけられて、シアは立ち止まり、振り向く。シアは綺麗な顔を崩すことなくふたりを見た。
「今度の休み、スタジオで練習があるんだけど、おまえもくるか? ちょうどレンの誕生日だし、練習が終わったらみんなで……」
言い終わらないうちに、シアが言葉を放った。
「気安いな」
え、と海叉の笑顔がフェードアウトしていく。
「ボクの好きなのはレンであって、Linχと馴れ合う気はないよ」
挑発するように、シアは続けた。
「練習のあとはレンを開放してくれない? いつまでもガキみたいにお誕生会だなんて、笑えるよ」
「なんだ、その態度」
キレかけた海叉を、奈愛が抑え、
「ふたりで過ごせばいいよ」
と促すと、シアは、バカにしたように鼻で笑いながら海叉を睨み、その場を去っていった。
「なんだよあいつ」
海叉は舌打つ。
「ヤキモチじゃないの? いつもそばにいるのはカイなんだぜ。誕生日は、ふたりだけにさせてあげよう。寂しいかもしれないけど」
「寂しいかよ。クソ」
海叉は声を荒げ、すたすたと歩いていく。奈愛が苦笑いして、あとをついていく。
6月11日(日曜日)
<僕が生まれてきたことの過ち
知っているか?
おまえは生まれてきてはいけなかった
暗闇の渦の中で
もがくことなく
ただ無心で
時が終わるのを待つ
塵はどこまでも降り注ぐ
暗闇の海の底に蹲る僕の屍にも
どうか
僕の全てを覆い隠してくれ
醜く腐り 溶けてゆく僕を>
ねえ、知ってる?レン。
ボクは弱虫なんだ。
怖いんだ。
この汚れた両手でレンを抱き締めるのは、レンの体も汚しているみたいで。
それでも、ボクはレンを
汚すことをやめられないんだ。




