素直になること
素直。気まぐれだから分からないーー。
教室に入ると、いつも君が友達とふざけあっている。元気だなあ、いつもと変わってないな、と安心する。安心するだけじゃなくて、今日も教室の中にいて、来てくれてることを密かに喜ぶんだ。
君が来ているのが嬉しくて、中に入った瞬間からずっと君を見ていた。そしたら。君がわたしを見て笑いながら近寄ってきてくれたんだ。嬉しくてにやけてしまう。君にとったら、単なる友達かもしれないけど。わたしは友達だなんて思わない。好きなんだよ。前から、ずっと。君は知らないだろうなあ。
「テスト、どうだった? お前、勉強したのかよ」
「うん! 前の結果、悪すぎたからね」
「解答用紙、見せてくれよ」
ささいな会話。だけど、わたしにとったら大切な君とのやりとり。君と話した内容はね、わたしは全て覚えてるよ。忘れないように、会える時間がなくなっても、覚えていたいから。
解答用紙を見た君は驚いていた。わたしの点数が意外に良かったからだろう。わたしも見た時、有り得ないと思ったくらいだ。誇らしげに笑いかけると、ニヤリと笑った。
「俺なんか、半分も点数ないんだぞ。頑張ったんだな」
褒められて、嬉しい。恥ずかしいけど、君に褒めてもらえると、やる気が出て、頑張って良かったと思うんだ。好きな人の言葉って、すごい。
君から解答用紙を返してもらって、席に座った。君もわたしの後ろの席に座って目をギュッと瞑る。酸っぱいものでも食べた時の表情に似てる。
「どうしたの? 眠そうだね」
「眠いんだよ。今から寝るつもり」
そう言うとすぐに伏せて寝る体制になった。先生はいないから、好きなだけ後ろを向いていられる。眠そうな君を見ることはなかったから、珍しい日だ。元気で、無邪気で、一緒にいると和める男の子。わたし、君が好きだよ。いろんな君を見れて、嬉しいんだよ。
「もう、寝たの? 早いなあ」
きっと。寝てないのは分かるけどね。わたしが話にのったら、君も返事してくれて嬉しいから。わたしね。君に誤解される態度ばかりとっていたけど。変わらずに接してくれる君が大好きなの。会えないと、苦しい。
「寝てないし! こんな早く寝れるわけないじゃん!」
「あ、おはよー」
「おはよ」
ほらね。そんな君が好きなんだ。わたしのことをちゃんと見てくれて、癖や口癖、誕生日まで覚えてくれてて。話しながら笑顔で「面白いな」って言ってくれるの、嬉しいよ。たくさんの、大好きがありすぎる。泣きたいほど、君が好きなんだ。今は、伝えられないから心で想わせてね。
「これあげる」
「なに、それ?」
「俺のペン」
そのペン、知ってるよ。君、いつも使ってるよね。愛用してるから、同じペンを誰かが持っているのを見ると、君を思い浮かべるんだ。
いつものわたしなら素直じゃないから、いらない、ときっぱり言う。でも素直な時も必要だから……今日は気まぐれではなく、素直になって。
「え、ほんと? ありがとー」
「なんか、今日は素直だな? 素直すぎて怖い」
素直になると恥ずかしい。でも。やっぱり、素直になってもいいと思う。君との距離が縮まって、大好きな君の笑顔が見れるから。