二人の空間
恋の始まりのようなお話。女の子視点で、少し年上の男との話。年の差ではないと思います。中学生と高校生の、夏の暑さと恋の気持ちを掛け合わせて。こういう出会い、いいな、と思います。
一目ぼれ。きっかけは、それだけどーー。
太陽が眩しくなって、照り付けるような暑さ。外でこれだけ暑いのなら、校舎の中は少しは涼しいはずだ。外がこんなに暑いのだから、運動部はかなりきついんだろう。体操服を着て、ブレザーを羽織っているあたしがこんなに暑いんだもの。外を歩いてるだけで汗をかくなんて。水筒、持ってくれば良かった。
「わたしはここで風景画、描くね。日陰あるから助かるなあ」
「あたしは、もうちょっと探す。時間通りには戻ってくる」
友達とグラウンドで別れた。友達は野球部を描くみたい。あたし……風景画描けないから、簡単なのにしよう。動くものなんて描けない。止まったままの、変化などしないもの。それくらいしか無理。それに、暑い中、立ったままだなんて無理だ。熱中症になったらどうするのだろう。今度からは、水筒とタオルは持ってこないと。
タオルがないので、手の甲で額の汗を拭う。あー、本当に今日は暑い。こんなんじゃ、やる気がなくなる。早く、秋にならないかな。
「ん……?」
体育館が見えてきて、その段差に座っている人がいる。おかしいな、この時間はクラブがあって、みんなクラブしてるのに。さぼっている人? でも、見掛けない人だし……。第一、ここの制服じゃないよね……? 鞄だって指定のものじゃない。高校生、かな。だとしたら、ここの卒業生とか? なんとか納得したけど、高校生は怖いし……通り過ぎようかな。出来るだけ、顔を見ないように。目は、絶対合わさないように! 平常心、平常心……。
「暑くないの? そこに立ってたら、倒れちゃうよ?」
「ひゃあ!?」
あ、あたし……声かけられた? しかも、見知らぬ高校生に!? いや……あたしの立場からしたら、あの高校生は先輩で、あたしが後輩なんだろうけど。でも、知らない人だし! 話したこと、ない。このまま見知らぬふりをして通り過ぎる? それとも、返事? ど、どっちも怖すぎる!
「ねー、聞いてる? ここ涼しいから、こっちに来なよ」
「え、遠慮します! し、知らないですし、怖いです!」
あたし、なに言ってるの! どさくさに紛れて、本音なんか言っちゃだめじゃない! ど、どうしよう……怒られたり、しないよね? 逃げる? いや、でも……追いつかれるかも。
「あはは! 君、面白いなあ! 怖くてごめん! でも、なにもしないからさ。涼しいからおいでよ」
「す、すいません……失礼なこと言いました……。ええと……じゃあ、失礼します」
高校生のひとつ隣分に座った。なんか……気さくな人。怒られると思っていたのに。笑ってくれるなんて。どんな人か見てみたくて、横を向いた。そこには……整った顔立ちの男の人。切れ目な一重。ワックスを使っている、ふんわりした髪。着崩した制服。とても、かっこいい。いつもなら着崩してる人は嫌なふうに思うのに、この人には思わない。むしろ、爽やかで好感が持てる。……かっこいいな。
「どうかした? 俺、なんか変?」
「へ? そ、そんなんじゃないですよ! ただ、かっこいいなって思っただけで……」
その時。男の人がフワリと笑った。微笑んでいるような、優しい笑い方。……きっと。今のあたしは顔が真っ赤だろう。目が合っただけで、恥ずかしいのだから。でも。それは、きっとあたしだけじゃない。だって、男の人も頬が赤い。最初に感じた印象とは、全く違う。もう、怖いなんて思わない。むしろ、居心地がいいと思う。それは、なぜだか分からないけど。少し距離があるところに座る男の人とあたし。今は無理だけど、縮められたらなあ。とりあえず。まずはお互い知ることから。時間がどれくらいあるか分からないけど、時間があるかぎり、距離を縮めてみませんか。この心地いい、空間の中で。