コーンスープ
ーーこの気持ちはいつ君に伝えたらいいのだろう。
温かいコーンスープ。昔からの大好物だ。先生や家族、友達とケンカして元気をなくした時も、食べたら笑顔になれる魔法の食べ物。
私が落ち込んだり悲しんでいたら必ず作ってくれたのだ。
そして私が話し出すまでなにも聞かずに傍にいてくれる。
赤ん坊の頃からの腐れ縁で一番の理解者で、親友というのがぴったりだ。
「はやく食べないと冷めるぞ」
「……うん」
「雨の中ずっと突っ立ってたんだろ? 身体冷えるから風邪ひかないようにな」
「……うん」
「じゃあお前の服乾かしてくるから。なんかあったら呼んで」
「…………私、フラれちゃった」
ポツリと呟くとじわじわ実感がわいてくる。
ああ、私本当にフラれちゃったんだ。
昨日までは今日のデートの約束を楽しみにしてたのに。
久々のデートだからはりきってオシャレもメイクも頑張った。
待ち時間より早く待ち合わせ場所に着いたからわくわくしながらあの人を待っていたのだ。
待ち合わせ時間をだいぶ過ぎても現れないし、連絡もないしで心配して電話をかけた。
そしたら別れ話をされてしまったのだ。
あまりに衝撃的で頭が真っ白になって。待ち合わせ場所でぼんやりしていたら彼が目を見開いて慌てて私を部屋に連れてきたのだ。
彼に話しかけられて初めて雨が降っているのだと気づいた。
ずっと立ち尽くしていたから私自身もびしょびしょで。
哀れな姿は心そのものだ。
「バカだよね、あの人の気持ちはとっくに離れていたのに気づかないで私だけ浮かれてて……。あはは……ほんとにバカだなあ……」
「…………」
「あんなに応援して、相談いっぱいのってくれたのにこんな結果でごめんね」
「……頑張ったな」
「…………え?」
「アイツのこと、よく待ったな。オシャレしてメイクして、すごい頑張ったんだろ?」
「……、だ、だって好きだから、苦になっても頑張れたの。すごく、好きだから……」
頬に生温いものが流れている。
私、あの人のことが好きで好きで仕方ないんだなあ……。
話せば話すほど想いがあふれてくる。
気持ちと比例するように涙があふれてあふれてとまらない。
コーンスープに次々と零れおちていく。
「アイツはみる目ないなあ。こんないい女をふりやがって」
「う、うぅっ……、ひっく、……っ」
「お前がアイツのことすっげー好きなのは前から知ってたよ。だって俺は……」
「……、ぅ……」
「俺はお前のこと、いつも傍でみてたから」
涙でぼやけて彼の顔がよく見えない。どんな表情をしてるか分からない。
きっと呆れたような顔をしてるに違いない。
腐れ縁の彼は昔から私のことを知っているから。
私が昔好きだった人、好きな食べ物、映画、恥ずかしいエピソード。
なんでも知っている。こんなことまで覚えてるの? ってこっちが驚くほど。
「いつも、みてたから」
彼の手が髪に触れる寸前でとまった。手を宙にさ迷わせてぎこちなくおろす。
慰めようとしてくれたのかな。
彼は不器用で優しい人だから。
「あ、あり、がとう……」
あんなに湯気をたてていたスープは涙がまざってすっかり冷めていた。
いつもなら元気になるのに涙がとまらないのはやっぱりあの人の存在が私の中で大きいからだろう。
彼はなにも言わずに、ただ傍にいてくれている。
笑えるようになったらお礼を言おう。お礼に彼の好きな料理を作ろう。
せめて雨が降りやむまでは、このままで。