永い間
人間と人外っぽいものです。生きる寿命が違うとこんな感じなのかなと。
初めてファンタジー風の恋愛を書いてみました!
読むのは好きなんですが、書いてみると思うようにいかず……。
雰囲気だけ感じてもらえれば!
信じたのは、気まぐれだった。とてつもなく永い、永い時間の中。退屈に過ごすくらいなら、ひとつぐらい楽しみが欲しかった。
きっと叶うこともなく、瞬きをする間に忘れてしまうだろう、ちっぽけで現実味のない話。
『生まれ変わったら、君に会いにいくよ』
『バカね。そんなの無理に決まってるわ』
『いいや、必ずだよ。約束する』
『……ふうん。なら待っててあげる。退屈しのぎにいいわね』
『待ってて。僕は必ず君のもとに戻るから』
子供の口約束に似た、確信のない約束だ。きっと彼も叶わないことを知りつつ、口にしたのだろう。
私を一人にしないために。何百年、何千年という時間に少しでも思い出して退屈しないように。
彼は、優しい人だから。彼がいなくなった後の私を案じて言ってくれたんだ。
「いつになったら会いに来るのよ、バカ」
もう何百回呟いたかわからない。あれからどのくらい経ったのかすら忘れてしまった。
すっかり世界は変わって、人の顔立ちや服装、髪型、言葉遣いもあの頃とは全然違う。私を囲む景色も風景もなにもかも変わっていったのだ。
変わらないのは私と、彼との約束だけ。
本当に、バカな約束をしたものだ。果たされることがないのを知ってて頷いてしまうなんて。
あの時、彼がなんと言おうと無視しておけばよかった。
そうすれば、こんなに胸を痛めることも、期待することもなかっただろうに。
「あーあ。これからまた永い時間が始まるのねえ」
なにをして過ごせばいいのかしら。彼がいた時は、時間が短く感じたのに。
これから先ずっと、一人で過ごさないとダメなのだ。
こんなにも一人というのは苦しかっただろうか。悲しくて、投げ出したくなるものなのか。
「……今までずっと一人だったじゃない」
そうだ。何千年と一人で平気だったじゃない。
その何千年という時の中の一瞬だけ、隣に人がいただけ。
光のような速さで、過ぎてしまったけれど。
あんなにあたたかくて優しい時間は生まれて初めてだった。
話をして、一緒に笑って、寄り添いあうぬくもり。
どうして一緒に生きられないのだろうと悩んだほど、私に影響を与えた。
人のぬくもりを知って、愛し愛される幸せを知ってしまったら、今までみたいに平気ではいられない。
彼は、私に幸せと同時に孤独まで運んできた。それはいいのか悪いのか。
でもきっと彼に出会えてなければ、私は幸せも愛もなにも知ることなく生きてきたのだろう。
あんなに幸せな時間、過ごせなかった。
いつでもたどり着くこたえはひとつ。彼に愛され、彼を愛し、とても大切な日々を過ごせた。
その思い出を忘れさえしなければ大丈夫。
彼がいなくても、私だけが覚えていればいい。
「私も変わったわね」
ふふ、と笑っているとどこからか足音が聞こえる。人の迷子かと思ったが、それにしては足取りがはっきりしている。
首をかしげ、辺りを警戒していると目の前に人が現れた。
「ーー!」
目が合うと柔らかく微笑む笑顔に、言葉が出ない。
言いたいことはたくさんあるのに、いざとなったらなにも。
「約束通り、君のところに戻ってきたよ」
「……お、遅いわよ! 待ちくたびれたわ! 私がどれだけ待ったとーー」
「ごめんね。泣かないで」
「泣いてなんかない! 泣いてなんか……っ」
「待たせてごめん。一人にさせて、ごめん。僕はいつだって、どこへだって君を想っていたよ」
「……、じゃないと、許さないわっ……」
「僕の愛しいひと。僕はいつでも、君の傍に」
何度生まれ変わっても、君のもとに帰るよ。
待ち焦がれたぬくもりを抱きしめ、そっと耳元に囁いた。
『ただいま』
『おかえりなさい』