花言葉に想いを込めて
「いらっしゃいませ」
目が合うと、ゆるりと微笑んでくれる彼女に自然と頬が緩む。
彼女が店の店員で俺が客だから微笑むんだろうけど、それでもやはり嬉しい。単純すぎて自分でも笑ってしまう。
「今日はどちらの花にしましょうか」
「そうだなあ……。うーん、季節の花でオススメは?」
「今の季節だと、そうですね、アメリカンブルーがオススメです。ガーデニング初心者の方でも育てやすい多年草なんですよ」
「じゃあそれで」
「かしこまりました。ありがとうございます」
少しお待ち下さい、と店の奥に消える後ろ姿を見送りながら店内を見渡す。
花屋というだけあって甘いにおいで満ちている。においだけでなく、メジャーな花からあまり知られていない花まで瑞々しく輝いている。
店内に大人の男が立ち尽くしている姿は奇妙だろうか。
ちらちらと視線を感じる。あまり見慣れないんだろう、たぶん。
俺だって花に興味の欠片もなかった。
けれど妹の誕生日のときに花束でもプレゼントしてやろうとこの花屋に来てから、心が変わったのだ。
ゆるりと笑う、彼女の姿を見てから衝撃で身体が震えたのを今でも覚えている。
今までに見たことがない、美しい笑顔だった。慈愛に溢れているというのか。優しい、優しい花のような笑み。
一瞬にして心を奪われてしまった。
それからというもの、彼女に会うためにガーデニングを始めてなんとか顔見知りにはなれたのだ。
なれないガーデニングに最初はかなり戸惑い、四苦八苦したのはいい思い出だ。妹にもさんざん笑われ、恥ずかしくてたまらなかったが。
やっているうちにだんだん興味を持ち始め、趣味にまでなっている。最初に比べたら、腕はあがっているはずだ。
「すいません、お待たせしました。在庫がありましたのでお会計お願いしますね」
「ああ、わざわざすいません。ありがとうございます」
「それにしても本当にお花が好きなんですね。こんなに熱心に育ててもらって、きっとお花も喜んでます」
「あはは……。やってるうちにはまってしまいました」
「素敵だと思います。アメリカンブルーは私も好きなんです。もしよろしかったら、お話聞かせて下さい」
「ぜひお願いします」
帰ったらさっそく育てよう。そして彼女に会うときまでに花の知識を少しでも増やそう。
ネットやガーデニング本を必死に読み込んでる俺を見て、妹は呆れるんだろうけど。お兄ちゃん、必死すぎ! って。
でも好きなものは好きだから仕方ない。花を育てるのも、彼女と話せるのも。必死になるに決まってる。
「そういえば、花には花言葉というものがあるんです。花の形や色、花にまつわるエピソードなどでつけられているんですが、ご存じですか」
「詳しくは知らないですね。赤いバラは分かりますが他はちょっと」
「調べてみてください。知ったら楽しいですよ。花に意味を持たせてプレゼントする方もいらっしゃいますから」
「へえ。帰ったら調べてみます」
あまり気にしたことはないが、そういうものか。
「全部の花に花言葉があるんです。もちろん、アメリカンブルーも」
「じゃあ最初にアメリカンブルーの花言葉を調べますね」
「はい。……お待ちしています」
頬を赤くさせてゆるりと微笑む彼女に癒されつつ。
どんな意味を持たせているのかなとわくわくしながら、次はいつ来ようかと待ち遠しくなった。