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君だけに

短編で投稿している「あなただけに」の先輩視点です。

バレンタインなのでバレンタインのお話です。

中途半端が好きな方にはいいかもしれません。

バレンタイン。甘くて切ない、恋の味ーー。



友達に連れられて買い物に来た。もちろん、バレンタインだからチョコレートを見にきた。友達は女の子の友達しかあげないと言っているし、男の子には渡さない予定だと。てっきり、後輩にあげると思っていたのに。わたしも、友達にはあげるけど。あとは、先生と家族と……それだけかなあ?


「さっきから迷ってるみたいだけど、好きな男の子にでもあげるの?」


一緒に来た友達が、可愛らしいチョコレートを手に持ちながら言った。わたし、迷っているように見えるのかな。好きな男の子なんて、いないのに。友達だって、知ってるはずなのに。迷ってるんじゃなくて、ただ見てただけ。彼氏や好きな人がいたら、こんな本命渡すのかなって。


「言ってみただけ。でも、真剣に選んでいるから、後輩に渡すのかなって」

「な、なんで後輩なの? 真剣に悩んでて、渡す相手が後輩? それはないよ」

「えー、そう? 後輩のこと、好きなんじゃないの?」


友達の一言に、持っていたチョコレートを落としそうになる。幸い、手に力をいれていたので落としはしなかった。でも……なんで部活の後輩? 確かに、嫌いじゃない。最初の頃は『君』と呼んでいたけど、最近では名前もちゃんと覚えた。何回も、何回もからかわれたから。何度も何度も「俺の名前、言ってみて下さいよ」と言われたから。自然に覚えられた。初めて声に出して彼の名前を言った時、嬉しそうに笑って「やっとですね」なんて言った表情と声は忘れられない。

だからって、好きとは違う関係。部活の先輩と後輩。ただ、それだけ。


「恋とは違う好きならあるよ。弟みたいで、性格が好き」

「そうなの? でも、見てる限りでは、ずっと後輩見てない? 会えたらすごくはしゃいでいるし」


それも、否定は……出来ない。気付けば、いつも後輩を見ている。元気で小さな、男の子を。会えばわくわくする。話せば、嬉しくなる。久しぶりに会うと、泣きそうになって。彼が違う女の子と話しているのを見ると苦しくなって、泣きたくなって、見ていたくない。悔しくなるから。これが恋なはずではないから。弟に対する、独占力みたいなもの。わたしが彼を好きなら、彼には迷惑だろうから。好きに、ならない。


「違うから。最近、話せてないのは寂しいけど」

「ああ、新しく入ってきた人とよく話しているよね。好きなのかな?」


それを聞いた時、胸の奥が音をたてた。苦しい……焦ってる? 泣きたい、と思うのはどうして? 彼に好きな人がいても関係ないのに、ひどく焦る。好きな人がいなかったらいいのに。誰にも、「好きだ」なんて言ってほしくない。まして、新しく入ってきた女の子に恋なんてしないで……。二人が話すのを見ると泣きたくて悔しくて嫌になる。わたしと話す時間より、その女の子と話す時間の方が長いの、知ってる。知ってるから、辛い。彼は、わたしに興味がないのか不安になってしまう。こんな自分、嫌だ。


「そんな表情しないの! ほら、せっかくのバレンタインだから楽しもうよ! あ、このチョコレート可愛いよ!」


チラリとチョコレートを見た。ハートの可愛い苺チョコレート。その横には、カラフルな箱に、ニコニコ顔のチョコレートが。なんとなく、後輩の彼に似合いそうだと思った。彼みたいに、ニコニコしてる。渡したら、迷惑かな。甘いもの、嫌いかな? 好きな人とかいるのかな? わたし、彼のこと全くしらない。チョコレートと一緒に聞いたら、だめかな? 義理チョコなのか、本命なのか。それはよく分からないけれど。


「ん? 買うの、それ? 後輩にあげるんだね」

「後輩にもあげたいから。お礼として」

「なんのお礼?」

「秘密」


わたしを楽しませてくれるお礼。笑顔にさせてくれるお礼。たくさんの、お礼がある。数えきれないほどに。でも、でもね……涙が溢れそうな時、君に会うと笑顔になれるんだよ。君を思い浮かべるだけで、幸せで。君との会話を思い出すと泣きそうなくらい、嬉しくて。

君は知らないかもしれないけど。わたしは君に救われているよ。恋とは違う、好き。先輩と後輩の曖昧な関係。今はまだ、このままで。

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