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オススメの飲み物

近づけない。キラキラ輝くあなたは、眩しすぎてーー。



いつからだろう。あなたを、目で追うようになったのは。

最初は、ただ、わたしとは正反対の人だと思った。

キラキラしてて、素敵で、周りから頼りにされるひと。

こんなにも、輝いてる人っているんだと、驚いたほど。


「おはよう! それ、美味しそうなコーヒーだな」

「お、おはようございます。はい、これ、オススメですよ」

「飲んでるところを見てたらなあ。いつも美味しそうに飲んでるから。今度、俺も買うよ」


にっと笑って、あなたはそのまま自分のところへ行く。

あなたと話すたびに、実感する。

眩しすぎるあなたは、わたしには高嶺の花で。近づくことすら、躊躇してしまう。

遠くから見ているのがわたしには似合うんじゃないかとも思う。

……あなたは、人を惹きつけるから。

自覚がなくても、周りの人はあなたに惹かれてる。

そりゃあ、顔もかっこいいし、雰囲気も大人で頼りになるし、性格も気さくで優しい。


あなたにその気がなくても、誤解する女の人もいるんだよ。

……優しすぎるんです、あなたは。


「ねえ。飲み物買いに行くから欲しいものある?」

「あ、わたしも行くよ。ちょっと待って」


飲み終えたコーヒーの缶をゴミ箱に捨てる。

コーヒーばかり飲むのもよくないよね。

お茶でも買おうかな。


「ほんとに、先輩に好かれてるよね」


友達が言った言葉が理解出来なくて、聞き返す。

すると、呆れ顔の友達はどこか楽しげに言った。


「あんただよ。先輩、いつもあんたに絡むじゃん。絶対、気に入られてるよ」

「なに言ってるの……。わたしなんかが先輩に気に入られるわけないよ」

「気づいてないだけだって」


友達が言うことを聞き流しながら自動販売機でお茶を買う。

ふと、笑い声が近くで聞こえたので、きょろきょろと声の主を捜す。

微かに聞こえたその声は、あなたの声にそっくりだったから。

「あはは。先輩って本当に面白いですね」

「褒めても、なにもおごらないからな」

「えー。先輩のケチ」

「そんな顔で見るなよ! しょーがない、缶コーヒーくらいおごるから」

「やったー! じゃあまた今度、なにかお礼に作りますよ」

「なんだよそれ。永遠に続くじゃんか」


先輩と見知らぬ女の人がこっちに近づいてくる。

気さくなあなただから、周りの人と仲良いのは当たり前。

いつも、あなたは優しいから。

でも、モヤモヤとした気持ちが胸に広がる。苦しい、悲しい、悔しい。

あなたの傍にいたいのに。


「あ、またコーヒー買いに来たのか?」


わたしたちに気づいた先輩が軽く手をふった。

その仕草さえも素敵だと思うのは、わたしが褒めすぎなだけかな?


「コーヒーは飲んだので……。お茶を買いました」

「コーヒー飲んでるイメージしかないよ、お前は。で、なにがいい?」


先輩が、さっきまで話してた女の人に聞く。

その女の人はじっとわたしを見て先輩に笑顔を向けた。

……きっと、この人も先輩が好きなんだ。

わたしを見る目が、嫉妬に溢れていた。


「迷うなあ。先輩のオススメでお願いします」

「俺のオススメ? おー、任せとけ」


クスクス笑い合いながら、先輩は迷うことなくコーヒーを買った。

わたしが飲んでいたのと同じコーヒーを。


「先輩、このコーヒー好きなんですか? 意外です」

「なんだよ、意外って」

「だってこれ、ミルクたっぷりじゃないですか。甘いというか……。先輩はブラックかと」

「確かにブラックが好きだけど。ある人の影響でさ、美味しそうだと思ってさ」

「ある人って?」

「内緒」


先輩がわたしにしか分からないように、小さく目で笑った。

それでわたしのことだとわかって、恥ずかしいやら、嬉しいやら、ごちゃ混ぜな感情。


女の人は気づかずにきょとんとしている。

先輩はもうひとつ別の飲み物を買って、急ぐからまたな、と手をふって背中を向けた。

女の人は明らかに残念そうにとぼとぼと歩いていった。


「わたしたちも戻ろう」

「だね」


駆け足で戻ってくると、わたしの机にひとつの缶コーヒーが。誰か間違えたのかな?


ぱっと持ち上げると、ふせんが貼られている。

『これ、俺のオススメのコーヒー。お前の飲んでるコーヒーより甘くないけど、美味しいからさ。気に入ってくれたら嬉しい。お前のオススメ、甘かったけど美味しかった! ありがとう』

それは先輩からで。

先輩からのメッセージを読んで、顔がにやけたのは言うまでもない。

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