後輩の君
年下。最初から、興味なんてなかったはずなのにーー。
君を見た時の印象は、至って普通だった。それなりに可愛い女の子だなって思った。
笑顔で話を聞くから聞き上手で、冗談も言うし、からかったら面白い反応をしてくれる。
ほかの後輩の女の子は、俺が年上の先輩だからか、常に冗談を言わない。むしろ、真面目過ぎるくらいだ。
それに比べて君は正反対だったから、一緒にいてすごく楽しいんだ。
冗談を言って、笑い合えて、話を楽しそうに聞いてくれる姿に、惚れてしまったのかなと思う。もちろん、それだけではないけれど。
「先輩、ここのご飯美味しいですね! 最高!」
「そう? 高級レストランでもない、ただの飲食店だけど」
「そんなの関係ないです。先輩と一緒だからですよ」
素で言ってくれてるのか分からないから、苦笑する。君は期待させることばかり言うから、勘違いしてしまう。
可愛いし、素直だから、好かれないはずないのに。
男には好かれると思う。
実際、他の男も君のこと、気に入ってるし。褒めてたし。
「あいつ、先輩たちから可愛がられてますよ」
なんて、吹き込まれたのはいつだったか。
その気持ちはすごく分かる。顔も整っていて可愛いし、冗談言ったり出来るし、聞き上手だし。性格も良いから、気に入られる。構いたくなるんだよな。
「なんですか、先輩。睨まないで下さいよ。睨んだって、おかずはあげませんからね」
「睨んでないって。美味しそうに食べるなーって思ってさ」
「美味しいから当たり前じゃないですか! 幸せな気持ちになりますもん」
また美味しそうに食べ始める。細いのによく食べるなあ。そんなところも好きだけど。
俺って君から見たら、どんな人なんだろう。
お兄ちゃん的な存在? 仲良い先輩? 恋愛対象外?
どんなに考えても、分からなくて。いつかは告白して、付き合えたらとは思うんだけどな。
今は、この笑顔を見れるだけでいいかとも思う。
それだけ幸せなんだ。
「なあ」
「はい? なんですか?」
「彼氏とかいたりする?」
聞いた途端、君が動揺して咳き込んでしまった。飲み物を渡すと、勢いよく飲んでいく。そのせいか分からないけど、顔が赤い。
「い、いきなりどうしたんですか? びっくりするじゃないですか」
「ちょっとね。彼氏とかいたら、一緒に食事とか大丈夫かなって」
「あ、そうですか……。そうですよね……。か、彼氏はいませんから、気にしないで下さい」
君に彼氏がいないことに、安心した。彼氏がいるかもと、いつも不安に思っていたから。
嬉しくてニコニコしていると、君もためらいながら、言葉を選びながら言った。
「先輩は……どうなんですか? 付き合っている人はいないんですか?」
「残念ながら、いないよ」
「本当ですか!? 良かったあ」
好きなのは君なのに、彼女なんているわけない。君と付き合えたら万々歳なわけだけど。
……それにしても。そんなに喜ばれると、期待するだろ。
君も俺と同じ気持ちでいるのかな、とか。
そうだったら、どれだけ嬉しいか。
「先輩ってモテそうだから、彼女いるのかと思ってました」
「全然モテないよ。モテたいし」
「先輩は絶対モテますよ! 一緒にいて楽しいですから! わたしが保証します!」
あまりの勢いに、驚く。すると、君は慌てて首をふり、顔を真っ赤にさせた。自分の言葉に驚いている様子だ。
「すいません! 迷惑ですよね! あはは……。なに知ってるんだよって思いますよね……」
「俺は、嬉しかった。そんなこと言ってもらえて」
「そ、そうですか? ならいいんです」
恥ずかしげに、飲み物を飲む君を見て、あたたかくて優しい想いが込み上げてくる。
君は、優しいからさっきの言葉を言ったのかもしれないけど。
俺にとっては、すごく嬉しい言葉なんだ。
だから、せめて言わせてほしい。
「あのさ……」
「はい?」
「ありがとう。そういうとこ、君らしくて俺は好きだ」
俺の言葉に、驚いた表情の君。でも、すぐに笑顔に変わった。
「ありがとうございます。先輩のそういうところ、わたし、大好きです」
真っ赤な顔で、照れながら言った君の姿を、一生忘れられないな、と思った。