幸せな時間
安らぎ。普通のことだから、特別で大切ーー。
俺の部屋で寛いでいる君を見ると、胸が温かくなる。平凡なことかも知れないけど、ささやかな幸せを感じる。
「コーヒー、ブラックで良かった?」
「うん。ありがとう」
両手でコップを受け取るとゆっくり飲んでいく君。君の隣に座って、テレビで放送されている映画を見た。
ラブストーリーというよりは、友情ものに近い。俺は興味がなかったが、君が見たい映画だったらしく、仕方なく見ている。
ちらりと横目で君を見ると、真剣な表情でテレビを見ていた。なにもすることがないので、コーヒーに口を付けた。ミルクをたっぷりといれていたのですごく甘い。自分はこの甘さが好きだ。
息をすると、ブラックの苦い匂いとミルクの甘い匂いが混ざっていた。
君は甘いものが苦手で俺はその反対。甘いものが大好きだ。この美味しさ、なぜ分からないんだろうなあ、と思う。
まあ、言ったところで言い返されるのは目に見えているから言わないけど。
「なあ、今度……」
隣に目を向けた。すると、君は目を瞑って、頭が揺れている。
……完全に眠っている。映画の途中で寝るのは珍しい。最近、忙しかったのかもしれない。君がこの部屋に来るのも久しぶりだった。少しでも、安らげる場所だったらいいんだけどな。
「首、痛くないのか……。ちょっと待てよ、クッション持ってくるから」
クッションをとろうとして立ち上がろうとした。でも、無理だった。
君が、頭から床にぶつかりそうになったから。反射的に慌てて支えると、君は少し目を開けたがよほど眠いのかすぐに目を閉じた。
そして頭が揺れて傾いたため、俺の肩にもたれている。あまりに突然すぎて、体が固まった。
「…………うわうわ。心臓持たないって」
すぐ近くに君の髪があって、頬をかすめる。ドキドキと心臓が激しく動きまわる。緊張し過ぎて、苦しくなるし身体が熱い。顔は真っ赤だろう。
緊張もするしドキドキして倒れそうだけど、それ以上に安心して穏やかな気持ちになる。
目を閉じてみると、君の髪からシャンプーの淡い匂いがした。柔らかいその匂いは、君そのもので。幸せすぎて泣きたくなる。
平凡だし、日常的なことがこんなにも幸せで嬉しい。普段なかなか気づかないけど、こんなにも幸せな日々があるんだ。
君の傍にいるだけで、こんなにも幸せ。
「……好きだ」
きっと聞いてないだろう。そう思い、小さく、でもしっかりと呟いた。
俺も寝ようと思って、静かに目を閉じた。
そしたら、眠っていたはずの君が目を開けて、俺の顔を覗きこみながら笑った。
「わたしも、好きだよ」
笑顔で、でも照れながら顔を真っ赤にしながら君が言った。
君も顔が真っ赤だけど、俺も負けないくらい顔が真っ赤だ。君の瞳に映る自分は、信じらんないほど顔が赤い。ぽかんと君を見つめていた。
やっと言われたことに頭が追いついて、思わず君を抱きしめた。泣くよりも早く言葉にして君に想いを伝えたい。
「……好きだ。大好きなんだ。呆れるほど、好きなんだ」
君もますます顔を赤くしながら、はにかんだ。
君を抱きしめる喜びを噛み締めながら、顔を見合わせて笑った。