彼と彼女
離れたくない。君の傍で、笑っていたいーー。
見ているだけで満足だった。話せたら、嬉しくて上手く話せなかった。話している時は目を見れないくせに、すれ違った時は目で追いかけてる。今だって、そうだ。
「……気づいてないんだろうな」
わたしは君を見てるけど、君は違うよね。目が合うこと、ないんだもん。君はいつも、違う女の子を見てるから。
そんな君を見る度に悲しかった。悔しくて、どうしてわたしじゃだめなのって。
仲良さそうに、まるで抱きついてるような二人を見て、俯いた。悔しくて、泣きたくて。口を思い切り噛んだ。わたしがずっと好きだったのに。どうして、だめなんだろう。
「あの二人、ラブラブだな」
「絶対付き合ってるよ!」
やだよ。ずっと一緒にいたいのに。笑って隣を歩きたいのに。
付き合ってない二人が付き合うのは時間の問題だろう。笑って祝える自信がない。二人が付き合うのを見たくない。切なくて苦しくて、君のことも自分のことも嫌いになってしまいそう。
最初から、優しくしないでほしかった。わたしが君を好きなの知ってたくせに。思わせぶりだから、期待した。期待してしまったから、傷ついた。
「もう、やだ……」
もし、わたしがもっと頑張っていたら、なにか違っていたのか。好きな気持ちだけで精一杯だった。いつかは伝えよう、告白しようと思っていた。でも、出来なかった。君を前にするとどうしても言えなかった。
「あはは! くすぐったいってば!」
「お前からしてきたんだろ! まだまだー!」
抱き合っているように見えた。それがまた自分が情けなくさせる。笑顔も、仕草も、いつかわたしだけのものになったらいいと思った。大好きだから。今でも好きだから。
君のこと、ずっと見てたから分かるよ。あの女の子のこと、好きでしょう?
幸せになってほしいのに、出てくるのは涙だけ。とまらず、溢れては消えていく。
あのね。本当に大好きなんだよ。他のものなんて目に入らないほど。ずっと一緒に笑っていたかった。傍でふざけあいたかった。でも、それは叶うことのない想い。君の心の中に、わたしという存在は刻まれてる?
すぐに忘れるのではなくて、忘れられずに心に存在出来るかな?
友達としてでも、なんでもいいから。忘れられるより、忘れられない存在でいたい。
そうなるだけで、満足だよ。
「……好き、だよ……。ずっと、好きだったの。伝えたかったけど、勇気がなくて……伝えられなかった」
今のわたしの顔は、きっとひどい。涙が頬を伝い、地面に落ちる。
はやく、帰ろう。今日で会うのが最後なんだから。君を、見るのも、こんなに惨めな自分も最後だ。
君との思い出が頭の中でよみがえる。バレンタイン、夏休み、ふざけあった帰り道、笑いすぎて涙が出た夕暮れ。
思い出す度、苦しくなる。涙がまた、流れては消えていく。君にはさよならを言えないまま。涙を流しながら、声をあげて泣いた。