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優しい彼女

逢いたい。キミに、もう一度ーー。



「お前、本当に彼女と別れたのかよ」

「残念だけど、別れたよ。喧嘩ばっかりして上手くいかなくてね」


別れたのは数日前。別れを切り出したのは、彼女でもないし、僕でもない。雰囲気で別れる気配だってあったし、なにより自然消滅。しょうがないかもしれない。喧嘩ばっかりして、なんにも彼女に気付いてあげられなかったから。

話を聞いていた友人は僕を睨むが、なんで他人にここまで言われなきゃいけないわけ?


「今だから言ってやる。お前の彼女、本当にお前のこと、好きだったぞ」

「なんで分かるんだよ。お互い、好きじゃなかったはず。ただ、なんとなく、気まぐれに付き合っただけ」


彼女に「愛してる」とか言ったことない。彼女も、言わないことに不満はなかったようで、いつも彼女から「好き」の言葉をもらっていた。別に返事はしなかったし、嘘なんて言いたくないから、曖昧なまま「ありがとう」と言っただけ。今思えば、彼女はなぜ好きでもない奴に言えたのか不思議だ。


「お前って……そうとう鈍いわけ? まあ、仕方ないかもだけど。彼女、陰で支える側だったからさ」


なにが言いたいんだ、こいつは。彼女、彼女って、もう彼女じゃないのに。名前で言われるのも、それはそれで嫌だけど。

僕は席を立って、友人を通り過ぎ、外に出た。爽やかな風が僕を通り抜けていく。隣にあった木からサラサラと花びらが落ちる。この景色は彼女、元カノが好きだった景色。いつもデートはここを通っていた。その度に彼女は言うのだ。

「この花びら、きれい。わたし、ここの花びらとか、景色が好き」

今はもう聞けない言葉。今なら思い出すなんて、どうかしてる。別れてから、この道を何度も通った。でも、彼女を思い出すことなんかなかった。友人と彼女のことを話したからだろうか。

そういえば、朝起きると、いるはずもない彼女の姿を捜してしまうことがある。別れたのは夢で、彼女が僕の傍にいるんじゃないかって。


「彼女の電話番号……消してるかな」


無意識のうちに、ポケットから携帯を取り出して彼女の名前を探していた。別れたとき、ついでにと消してしまったかもしれない。いや、おいてたら、僕が未練あるみたいじゃん。でも、彼女からもらったメール、一緒に写った写真は消せてない。ときどき、思い返して見てる。なにしてるんだろう、僕。


「……あ、懐かしいメールだ」


彼女からのメールを読みかえしていると、よく喧嘩していた頃にもらったメールがあった。彼女のことだから謝りメールだろう。軽い気持ちでメールを読んだ。

「わたしは、なにがあっても味方です。だから、傍にいたいのです」

それは……僕が落ち込んでいた日のメール。悔しくて、なにをしてもだめなとき、彼女に八つ当たりしたことがある。でも、彼女はなにも言わずに微笑んでくれた。その日、喧嘩して、あとからくれたメールだ。


「僕ってばかだよな……。ちゃんと、話せばよかった」


彼女はいつも微笑んでくれたのに。僕は彼女になにもしてあげられなかった。悩みとか、まったく聞いたことがない。彼女はいつも一人で悩んで、泣いて、傷ついた日々をおくったはず。

ああ……今さら気付くなんて。僕が彼女に抱く想いは間違なく恋。僕は、彼女に恋をしていた。自分でも分からないほどに。

携帯を見ると、まだ彼女が繋がっている気がして、メールを最新のまで読む。すると、まだ読まれてないメールがひとつだけある。僕は彼女がなにか付き合ってた頃の不満を書いておくってきたのかと思ったが、彼女がそう書く理由もあるだろうし、僕にぶつけてきても仕方ない。彼女の思いを読んでみよう。

「あなたがこれを読まずに消してしまうかもしれません。でも、伝えておきたいことがあるので、おくります。わたしは、幸せでした。また、いつか逢いたいと思っています。ずっと、好きでした」

携帯を持つ手が震えた。指も震える。彼女は本当に幸せだったのかとか、逢いたいとかよりも、おくってくれたことが嬉しくて。僕も、好きだよ。ありがとう、また逢えるといいね。

気付けば、優しくてあたたかい涙が頬を濡らしていた。それは、優しい彼女に少しだけ似ていた。

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