俺とお前とあの言葉
なぁ。教えてくれないか?
あの言葉に、俺は何て返事を返せばよかったんだ?
「ねぇ。私のこと、好き?」
物心ついたときから傍にいたお前は、いつもそう言っては、その度に顔を真っ赤に染める俺をからかって遊んでいたな。
「好きだ」と言えば「冗談だよ」と笑って返され、「そんなわけないだろ」と言えば「そっか」と寂しげにほほ笑むお前。
幼いながらに結構困ったんだぞ。お前を悲しませたくはないし、けど、好きとかそういうのはまだよくわからなかったから。
だから俺は、いつもこう返したんだ。
「どうだろうな?」
それから月日が経って、俺もお前も社会人になって、それでもお前はずっと聞いてきたな。
「ねぇ。私のこと、好き?」
「どうだろうな?」
毎回毎回、同じ台詞の繰り返し。それなのにお前は満足そうに頷いてた。
本当はさ、その頃はすっかりお前のことが好きだったんだ。
でも、今更だろ?お前のことが好きだなんて。
それに少し怖かった。昔みたいに「冗談だよ」って笑って返されたら、立ち直れそうになかったから。
けど、言っておけばよかった。
だってそうだろ?お前はもう、二度と俺に聞いてくれないんだからさ。
病院のベッドでお前は、数時間前まで病魔と闘ってたことが幻だったみたいに、安らかな顔で眠ってる。
その瞼は今にでも開きそうなのにもう開くことはない。その唇はいつものようにあの言葉を紡ぎそうなのに、もう紡ぐことはない。
なぁ。教えてくれないか?
あの言葉に、俺は何て返事を返せばよかったんだ?
好きだって言えばよかったのか?
お前は?って聞き返せばよかったのか?
それとも?
「ねぇ。私のこと、好き?」
ふいに、お前の声が聞こえた気がした。
だから、俺はこう返す。
―どうだろうな?
お読みくださり、ありがとうございます!
連載の方も短編の方も頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いします。