温泉地への途上
エルフ×探偵×魔法ミステリです。
日常と事件が交差する、連作短編風の物語になります。
気軽に読んでいただけたら嬉しいです。
「マムちゃぁぁぁぁ~ん。よしよしよし~」
「マムぅぅぅぅ」
先日から事務所で飼うことになったマムちゃんが可愛くて、毎日のように愛でている。
借家が動物禁止のため、これが人生初のペットだ。つい溺愛してしまうのも仕方がないと思う。
夢中で撫でていると、ふいに視線を感じた。
顔を上げると、いつの間にかレイリア先生が事務所に入っており、ジト目でこちらを見ていた。
顔が一気に熱くなる。
「……エフィ。お客さんに見られないようにね」
「……はい……」
今までこっそり可愛がっていたのに……
「それはそうと、待ちに待った温泉旅行だわ!さぁ行きましょ!」
「先生。一応言っておきますが、今日は魔術学会のための出張ですからね」
ここから馬車で二時間ほど。
山間部にある有名な温泉地で、世界魔術学会が開催される。
先生は普段こそだらしないが、こういった最先端の魔術研究には必ずと言っていいほど参加する。全ての論文に目を通すほどの研究熱心さだ。
いったい、その情熱はどこから湧いてくるのだろう。
「相変わらず堅いわね、エフィは。ついでとはいえ、日頃の疲れも癒えるわよ~」
正直に言えば、私も温泉は楽しみだった。
家にはシャワーがないため、温泉に浸かるのも楽しみだし、学会後のビュッフェも、宿の食事も楽しみだ。
「マムちゃんは連れていけないですよね?」
「連れていけるわよ~。ちゃんと泊まれる宿を押さえてあるわ」
「そうなんですね」
冷静を装ったが、内心は跳ね上がるほど嬉しい。
先生はそれを見透かしたように、ニヤニヤしながら私を見てくる。
「先生。そろそろ時間です。行きましょう!」
私は恥ずかしさを隠すように慌てて支度を整え、マムちゃんを抱えて事務所を後にした。
*
「今日はいい天気ね~。眠くなってくるわ」
穏やかな陽気と馬車の心地よい揺れ。
気づけばまぶたが重くなっていく。
隣を見ると、マムちゃんはすっかり夢の中だ。
いけない、護衛付きとはいえ油断は禁物――そう思いながらも、眠気に抗ってうとうとしていると。
キンッ。
金属がぶつかる鋭い音。
続いて怒号が聞こえ、私は一瞬で目を覚ました。
「エフィ。野盗のようよ。助けに入るわ」
先生の声は、いつもの軽さが消えている。
私と先生は急いで戦闘の準備をして、外へ飛び出した。
見ると、兵士と野盗の乱戦だった。
練度では兵士が勝るが、数では野盗が上回っており、わずかに兵士側が押されていた。
「ロックランス!」
先生が地面に手を置いて魔法を唱えると、地面から突き出た土の槍が、野盗の一人を貫く。
「新手の魔法使いだ!分が悪い、引け!」
リーダーらしき男の号令で、野盗たちが一斉に退く。
その瞬間――
「ファイアストーム!」
逃げながら放たれた火魔法が、一つの馬車を包み込んだ。
「早く火を消せ!貢物が燃えてしまう!」
ひときわ豪奢な馬車の中から飛び出した、身なりの良い男が叫ぶ。
その言葉に反応して、兵士の一人が水魔法を詠唱しかけるが、
「待って!油の匂いがする。水魔法は逆効果よ」
先生が制止する。
じゃあどうするのかと、兵士が抗議の声をあげるが、先生はその言葉を無視し、地面に手をかざした。
「ロックジェイル」
馬車の四方から土壁が隆起し、完全に囲い込む。
酸素を断ち、炎を鎮めるためだ。
しばらく時間が経ち、やがて火は弱まった。 先生がロックジェイルを解除すると、そこに残っていたのは黒く焦げた馬車の残骸だった――
ここまでお読みいただきありがとうございます!
今回は導入回となりました。
次回からレイリア先生の推理が始まります。
次回の更新は、2月16日20:00掲載予定です。




