表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

魔力捜査の結末

エルフ×探偵×魔法ミステリです。


日常と事件が交差する、連作短編風の物語になります。


気軽に読んでいただけたら嬉しいです。

「俺たちは使えない」

「私も使えません」


長男と使用人が、ほぼ同時に答えた。

次男も、無言で首を縦に振る。


「……そう」


レイリアは人差し指を立て、淡々と言った。


「魔法の使用はどの国でも登録制。

独学で学ぶのも、教えるのも禁止されているわ」


その場にいた三人――

長男、次男、そして使用人の男は、同時に首を縦に振る。


レイリアは、にこりと微笑んだ。

だが、その笑みはどこか冷たい。


「でももし、誰かが魔法を使っていたとしたら――

虚偽申告と無登録使用。罪状が増えるだけよ?」


空気が、ぴしりと凍りついた。


「もちろん」


レイリアは続ける。


「魔法を使えるかどうかを、直接調べる手段はないわ」

「でも――使った痕跡は、必ず残る」


その言葉に、使用人の老人の顔が、わずかに強張ったように見えた。


「不審点は、他にもあるわ」


レイリアは、倒れた花瓶と床に残る痕跡へ視線を向ける。


「花瓶が倒れて水がかかった……

それにしては、魔力反応の範囲が広すぎるの」


「広すぎる、とは?」


次男が眉をひそめる。


「ええ。特に――ドア付近まで魔力反応があるのはおかしいわね」


私も床を見て、内心でうなずく。

確かに、水が自然に飛び散ったにしては、不自然な広がり方だ。


「つまり」


レイリアは続ける。


「犯人は、水魔法――もしくは魔道具を使って、

ナイフを射出し、胸に突き刺した可能性が高い」


「そんな馬鹿な!」


反論したのは、軍に詳しいボルツだった。


「その威力の魔道具は軍用だ!

一般人が使えるはずがないし、製造時点で国に登録される。

使用すれば、すぐに発覚する!」


「ええ、その通りね」


レイリアはあっさり肯定した。


「だから――軍用魔道具や水魔法を使う必要はないのよ」


「……は?」


「風魔法よ」


レイリアはさらりと言った。


「ウィンドバースト。

爆発的に風を起こし、水を“射出”すればいい」


「そんなこと……」


「エフィ、お願い」


「はい、先生」


私は治安院の人間から大盾を借りると、窓の外に出た。

重い。これで本当に受け止められるだろうか。


レイリア先生は、床に転がっていた筒状の魔道具を手に取った。


「これね……普通の水やり用魔道具だけど」


先生は治安院から借りた短刀を、筒の先端に差し込む。


「使い方を変えれば――」


「先生、準備できました!」


私は窓の外から叫んだ。

盾を構え、全身に力を込める。


「では」


先生は筒をこちらに向け、静かに唱えた。


「ウィンドバースト」


次の瞬間――


ドンッ!


筒の中で風が炸裂した。

水が霧のように飛び散り、その中を短刀が――矢のように飛んでくる!


ガキィン!


盾に激突した衝撃が、腕を通して全身に響いた。

思わず数歩、後ずさる。


「……こんな、威力……」


息を呑む。

これが、人の胸に刺さったのだ。


先生は静かに筒を下ろし、部屋の中を見渡した。


「ね? 水魔法を使わずとも、同じ結果は得られる」


レイリアは指を鳴らす。


「つまり犯人は、

魔法が使えて、なおかつそれなりに知識がある人物」


ここで、空気が一気に荒れた。


「おい……お前、

最近、魔法の本を調べていたそうじゃないか」


「なっ……!

兄貴こそ怪しいだろう!」


口論が始まり、部屋は騒然とする。


だが――


「静かに」


レイリアの一言で、すべてが止まった。


「犯人は、そこらの本に載っている程度の知識しか持っていないわ」


嘲るような笑み。


「直接、風魔法でナイフを飛ばせば、

ナイフや肉体に魔力反応が残る」


「そして、筒の中は魔道具自体の魔力と風魔法の魔力が混ざり、

誰のか分からなくなる」


「それを知っていたから、魔道具と水を介した」


「さらに」


「魔力鑑定は、最も反応の強い“胸元”で行われる。

そこまで計算していたようね」


「でもね」


レイリアは、ゆっくりと続ける。


「魔力水は、触れると内部に染み込むの。

水で洗っても、拭いても――そう簡単には消えない」


「つまり」


「ナイフを抜いたときについた魔力。

踏んでしまった魔力水。

それらは――まだ残っている」


にっこり。


「調べれば、すぐ分かるけど。

どうする?」


沈黙の後。


使用人の男が、力なく膝をついた。


「……俺だ」


吐き捨てるような声。


使用人の老人は、震える手で顔を覆った。


「俺には……家族がいた。

妻と、娘が二人」


「小さな商売をしていた。

貧しかったが、幸せだった」


「だが、この男が現れた」


声に、深い憎しみが滲む。


「資本と権力で、俺たちの商売を潰した」


「取引先を奪い、借金を背負わせ――」


「妻は病気になり、娘たちは……」


老人の声が途切れる。


「娘たちは、売られた」


部屋が、静まり返った。


「それでも俺は生き延びた。復讐のために」


「この家に使用人として潜り込み、数年待った」


「そして今日――ついに、機会が来た」


「親父は、真っ当な商売をしている!」


長男が声を荒げる。


「そんな昔のことを……!」


だが、レイリアは一切動じない。


「資本主義の世の中とはいえ、同情する余地はあるわ」


冷たい瞳。


「でもね――」


「だからといって、自分の復讐のために、

無関係の使用人女性を犯人に仕立て上げ、

挙句に殺人に及ぶ理由にはならない」


私は思う。


――ああ、この人は、こういう犯人には本当に容赦しない。


「では、契約通り」


レイリアは淡々と言った。


「犯人の魔力サンプルとして、

髪の毛を数本いただくわ」


レイリアは小瓶を取り出し、使用人の髪を数本切り取った。


それを小瓶に入れ、蓋を閉めると――

小瓶全体が、ほのかに光る。


魔力を保存するための小瓶だ。


「ふん、勝手にしろ」


ボルツが不満そうに呟く。


私は思い出す。


先生は、王国といくつかの契約を結んでいる。

その一つが、魔法犯罪の解決に協力した場合、

現場の魔力サンプルを採取できるというものだ。


何のために――

それは、まだ教えてもらえていない。


治安院の人間たちが、使用人を連行していく。


女性の使用人は、涙を流しながら何度も頭を下げていた。

彼女は助かったのだ。


私は、レイリア先生の横顔を見る。

いつも通りの、気だるげな表情に戻っている。


――この人は、やっぱりすごい。


トリックを見破り、犯人を追い詰め、無実の人を救った。

それなのに、本人はまるで当然のことをしたかのように振る舞っている。


「さて!」


先生が一転、明るい声を上げた。


「パンケーキ、食べに行きましょ!」


私は時計を見た。

もう夕方近い。


「……たぶん、もう売り切れてますよ」


「えー!」


先生が大げさに肩を落とす。


「じゃあ、別の店探しましょ!

甘いもの食べないと、頭が働かないのよ!」


「さっきあんなに働いてたじゃないですか……」


呆れながらも、私は先生の後を追った。


相変わらずの、いつもの日常。

それが、少しだけ嬉しかった。


――でも。


先生が懐に入れた小瓶のことが、頭から離れなかった。

あれは、一体何のために――。


「エフィー! 早くー!」


先生の声に、私は考えるのをやめた。


それは、いつか聞く日が来るだろう。

今は、先生の甘いもの探しに付き合う方が先だ。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第一の事件は、これで一応の解決となります。

けれど、レイリアにとって事件は「解決したかどうか」よりも、

そこに残された“魔力の痕跡”の方が重要でした。


集められた小さな魔力は、まだ点に過ぎません。

ですが、いずれ線になり――過去へと繋がっていきます。


次回は軽いエピソード。2月4日に更新予定です。


エルフ探偵事務所の日常と、その裏で続く長い追跡を、

よろしければ、もう少しだけお付き合いください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ