表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/20

忘れ形見

エルフ×探偵×魔法ミステリです。


日常と事件が交差する、連作短編風の物語になります。


気軽に読んでいただけたら嬉しいです。

屋敷の門をくぐると、古びたドアがある。

子供たちが開けたのだろうか、周辺の荒れ具合に比べると、不気味ではあるものの長年閉まったままという感じはしない。


ちらりと先生の方を見ると、及び腰で俯いたまま私の手に引かれている。

左手にランプを持っていたので、先生の腕をいったん離し、ドアに手をかけた。


「ね……ねぇエフィ。急に腕を離さないで!」


怒ったような声で抗議してくる。こんな先生は初めて見るし、少し可愛いとも思いながら、構わずドアを開けた。


ギギギィィ。


「先生、入りますよ。先生が調べるんだから、前に行ってください」

「分かったから。せめて横並びで行かせて!」


先生は私の左腕を抱え込むようにして、横にぴったりとくっついてくる。

二人ともスリムな体型なので、なんとか並んでドアをくぐった。

足元をランプで照らすと、噂にあった人形は落ちていない。ほっと一息つく。


「何も落ちていませんね。奥の方へ行ってみましょう」


一歩踏み出すたびに、ぎぃ、ぎぃ、と古い床が鳴く。その音が、かえってこの場所の不気味さを際立てていた。


奥へ一歩一歩進んでいくと、コツン、と足に何かが当たった。

ランプを向けると、木でできた小さな人形が転がっている。背筋がぞわりとした瞬間、先生が叫び声をあげながら抱きついてきた。


「きゃぁぁぁぁぁぁ〜!無理無理無理ぃぃぃ〜!もう帰りましょう!」

「ダメですよ。まだ何も調べていません」


先生の叫び声のおかげか、私は逆に冷静になれた。

辺りを見回すと、奥にもう一枚扉が見える。話によると、奥に大きめの部屋があるということだったので、あそこだろう。


震えている先生に「大丈夫ですから」と声をかけながら、その扉へ向かう。

開けると、部屋の中心に椅子のようなものが見え、その周りにいくつかの人形がうっすらと浮かび上がった。


「先生。おそらくこの部屋にあると思います。調べてもらえますか?」


先生は小さな声で「……分かった」と言い、渋々ながら椅子へと近づいていく。

そろりそろりと歩み寄ると、椅子の周りに人形がもたれかかるようにして置かれていたが、特におかしな様子は見られなかった。


「これが魔道具なら、魔力を通せば何か起こるわね」


そう言いながら先生が手を伸ばした、その瞬間。


ぽたん。ぽたん。


頭と背中に、天井から何かが落ちてきた。


「ひぃぃぃぃぃ!」


先生が悲鳴をあげて踵を返そうとするのを引き留め、何が落ちてきたのかランプを掲げて天井を見上げると——


「先生!天井に……おそらく魔獣です!」


魔獣と聞いた瞬間、先生の様子が変わった。


「……マウスバット。後ろに下がって。それほど強くはないけど、飛び回られると厄介よ」


言いながら先生が魔法を放つ。建物を壊さないよう、威力は抑えてあるようだった。


「先生、どうしましょう」

「一網打尽にするには、凍らせるしかないわね。エフィ、人形を避けて床や天井に水を撒いてちょうだい」


カバンから水の容器を取り出す。

薄暗い部屋の中、足元の人形を踏まないよう気をつけながら、なるべく広く水を撒いていく。

人形を蹴りそうになりながら、それでも慎重に、丁寧に。


「準備できました!」

「ありがとう! フロストハウンド!」


先生が魔法を唱えた瞬間、水を撒いた床と天井から霜が走り、みるみるうちに氷の塊が形を作った。まるで猟犬のようなその氷が、マウスバットを追いかけていく。


マウスバットたちは必死に飛び回るが、氷から伸びた棘に触れるたびに一瞬で凍り付き、一匹、また一匹と動かなくなっていく。

最後の一匹が凍り付くと、仕事を終えたとでも言うように、猟犬の形が静かに崩れた。


「終わったわね……じゃあ、人形に魔力を流してみましょうか」


先生が椅子の周りの人形に手をかざし、魔力を送り込む。

すると、いくつかの人形がゆっくりと立ち上がり、楽しそうな笑い声をあげながら椅子の周りを踊り始めた。


「これが、カルラさんの言っていた人形ですね」

「……そうね。推測だけど、家族みんなで一緒にいられるように、という祈りを込めたのかもしれないわね」


先ほどまでの不気味さや恐怖が、すうっと消えていくような気がした。人形たちはただ、楽しそうに踊り続けている。


「でも、魔力を流していないのに、なぜ動いていたんでしょう」

「おそらくマウスバットね。夜に群れで集まって眠る習性があって、いつの頃からかこの部屋を寝床にしていたんでしょう。魔獣は魔力を持っているから、それが一定量集まって人形に流れ込んだ……そういうことじゃないかしら」


念のため屋敷内を見て回ったが、魔道具だったのは椅子の周りにあった人形だけだった。それはまるで、ずっとここで見つけてもらうのを待っていたかのようだった。


* * *


後日、カルラに屋敷での出来事を説明し、人形を渡した。

ただ、先生はその中の小さな一体を、報酬の一つとして受け取っていった。

魔道具として非常に精巧で、見たことのない造りだったらしい。


「さて、エフィ。覚えてるわよね?王国ホテルのアフタヌーンティー。奢ってくれるんでしょ?」


嬉しそうに先生が念を押してくる。

嫌がる先生を強引に引っ張っていってしまった手前、今回ばかりは罪滅ぼしのつもりで頷いた。


「じゃあ、今度の休みに行きましょうか」

「お、いつもなら断るのに。珍しいわね〜、いいの?」

「今回は……大変な仕事が終わった打ち上げ、ということで」


雑誌でしか見たことのない王国ホテルのレストラン。どんなものが出てくるのだろうと思いながら、私は次の仕事へと向かうのだった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


次回更新は3月19日(木) 20:00更新を予定しています。


続きが気になった方は、ブックマークや評価をいただけると励みになります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ