千年生きても怖いものは怖い
エルフ×探偵×魔法ミステリです。
日常と事件が交差する、連作短編風の物語になります。
気軽に読んでいただけたら嬉しいです。
「今日は暑いわね〜かき氷でも食べに行きたいわ」
先日行われた学会から帰ってきてから、数日が経っていた。
学会で起きた事件と研究内容の報告書をまとめ、王国の魔法研究所に送る用意をしている。
探偵業務以外にもこういった研究内容を報告する業務も請け負っており、その見返りとして、報酬や特権などを得ている。
このような特権があるからこそ、事件に関わることができ、その場での捜査権が認められているのだ。
「まだ報告書が全然終わっていないので、かき氷はまた後日です。その代わり冷たいお茶を出しますね」
「えぇぇ〜……エフィは相変わらず厳しいわねぇ〜」
先生は、だらけ切った声でしゃべりながら、渋々といった様子で報告書を書いている。
暑さもあって服もはだけており、声だけでなく姿もだらしない。
傍らではキメラのマムちゃんも、だらけ切った格好で寝そべっていた。
飼い主に似るというが、私ではなく先生に似てきたか。
「それじゃあ、仕事をしながら少し涼めるように、怖い話でもしましょうか」
「おお〜いいわねぇ。最近聞いた話でもあるの?」
先生は下を向いて報告書を書きながらも、興味を示してきた。
私は先生の目の前に座ってマムちゃんを抱き、最近噂になっている幽霊屋敷の話を始める。
「町の郊外にある一軒家なんですが……元々は豪商が住んでいたらしいんです。その豪商は人形コレクターで、珍しい人形に囲まれて暮らしていたそうで。あるとき強盗が侵入して、一家が惨殺されたのですが、恨みもあったのか、ひどい殺され方だったとか」
「あ〜、昔あったわね〜。そんな事件」
噂程度の話だと思っていたので、先生の言葉に一瞬、次に何を話すつもりだったか忘れてしまった。
「……で?その屋敷はずっとそのままだったと記憶しているけど、何かあったの?」
先生に促されて、話を思い出す。
「屋敷の傍に近づくと、夜な夜な笑い声が聞こえたり、踊っている何かが見えたりするとかで……それを面白がった近所の子供たちが、肝試しに行ったそうなんです」
「……夜中に子供をそんなところへ行かせるなんて、常識のない親ね」
……おや?
先生は下を向いて書いているふりをしているけれど、ほとんど手が動いていない。
話の途中で口を挟んでくるし、これはもしかして……。
「屋敷に入ると、まるで屋敷中を歩き回って力尽きたように、そこかしこに人形が落ちていて……子供たちは不気味に思いながらも、一つ一つ部屋を見て回ったそうです」
「そもそも、人の屋敷に勝手に入るのはいかがなものかしらね」
「……それで、いちばん奥の部屋に入ると、中心に古い椅子があって、傍らには大きな人形が……子供たちが椅子に近づいたとき、何かが背中にふれる感触がして、背後から声が聞こえた。振り返ると……」
「あの……」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
背後からの急な声に、私と先生が同時に悲鳴を上げた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
先生が机の下に潜り込み、呪文のようにごめんなさいを繰り返している。 私は震えながらも恐る恐る振り返ると、若い女性が入口に立って困惑した顔でこちらを見ていた。
「な……何かご用でしょうか?」
全身に冷や汗をかきながら、やっとの思いで声を絞り出す。
「依頼をしたいんですけど……」
「あ、はいはい。依頼ですね。先生!依頼人です!」
先生は何も聞こえていないのか、ぶつぶつと何かを呟きながら、机の下で縮こまったままだった。
仕方なく膝をついて覗き込み、できるだけ穏やかな声で「依頼人ですよ」と伝える。
「ああ。依頼人ね。知ってたわ」
何を知っていたのかは突っ込まないことにした。先生の威厳というものが、まだ多少は残っているうちに。
先生は服装の乱れを直し、依頼人を私が座っていた椅子へ案内する。
「それで……どんなご依頼ですか?」
若い女性はゆっくりと話し始めた。
その内容は、私と先生の背筋を、再びざわりと冷たくさせるものだった――
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
しばらく軽い話を続けようかなと思います。
次回更新は3月12日(木) 20:00更新を予定しています。
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