ポーション
エルフ×探偵×魔法ミステリです。
日常と事件が交差する、連作短編風の物語になります。
気軽に読んでいただけたら嬉しいです。
週2(火・木)更新予定です。
「先生。治安院の方を連れてきました」
「ありがとう。じゃあ、現場の検証を始めましょう」
周りには、先ほど登壇していた教授や、学会に参加していた研究員たちが集まってきていた。事件の可能性を嗅ぎつけて集まってきたのだろうか。
他には店の店員と思わしき人物、そして倒れている男と同じテーブルを囲んでいた二人の人物がいた。一人は瘦身で背が高い男、もう一人は背が低く小太りの男だ。
当然、店内にいた他の客もまだ残っていた。
「まずはテーブルを囲んでいたお二人に話を聞かせてください」
「私たち三人は、王都にあるスーフェン魔術研究所の研究員です。私がアイン、こちらがレーベル、そして倒れているのがコーエンと申します」
アインと名乗った長身の男が説明する。
この二人、今は落ち着いているが、先ほどは倒れているコーエンに対してずっと声をかけ続けており、懸命に処置を施そうとしていた。
「研究所の同僚……といったところかしら?」
「そうです。研究所設立以来、ポーションによる身体欠損復元の研究を三人でしております。レセプションパーティーへの参加前に、明日の発表の打ち合わせのためこちらに立ち寄りました」
小太りのレーベルが答える。
学会は三日にわたって行われており、明日も錬金術に関係するセッションが予定されていた。
「彼はいつも薬を飲んでいるのかしら」
「はい。食事の前は必ず食前薬を飲んでいます。ただ、プライベートなことですので、何の薬かまでは……」
倒れている男の近くには、粒状の薬が入っていたと思われる透明な袋が落ちていた。
先生が手袋をはめ、それを慎重に取り出そうとしたそのとき、
「毒物でないならただの持病による発作だろう」
周辺で様子を見ていた男が、唐突に割り込んできた。先ほどのセッションで発表をしていた人物だ。おそらく、どこかの教授だろう。
「先ほどその女が魔力鑑定をしていたが、コップや水からの魔力反応はなかったし、その薬にも魔力反応はなかった。錬金によって何かを変質させたといったことはない、ということだ」
レイリア先生が先ほど、コップの中身について簡易的に調べた結果、無色透明、揮発臭なし、などから水である可能性が高いと言っていた。
治安院の簡易検査でも、店員が普段提供しているものと同じという結論だった。
もっとも、詳しくは持ち帰って調べないとわからないそうだが。
「さっきからお前は偉そうにしてるが、何者なんだ?教授や研究員なら顔ぐらい知っているはずだが……」
「レイリア先生は探偵です。王都でも古くからある、名の通った探偵事務所です。あなたこそ、何者なんですか?」
アインの言葉に続けて、私もつい口を挟んでしまった。
先生は至って冷静だというのに……。
「私はレナードだ。王都の大学で教授をしている。噂には聞いていたが、お前がレイリアか。確か魔法研究所から追い出されたんだったな。素晴らしい経歴をお持ちのようで」
「先生はっ……」
「エフィ。今は事件の調査よ」
先生が静かに制する。
レナードの物言いはあまりにも侮辱的で、言い返してやりたい気持ちを必死に抑えながら、私は拳を握った。先生が止めてくれなければ、どうなっていたかわからない。
「首をかきむしった跡、そして体中の蕁麻疹を見ると、アナフィラキシーショックの可能性があるわ。ただの持病の発作では、こうはならない」
「アナフィラキシーショック? いつも飲んでいる薬と水で、そんなことになるはずがないだろう」
やれやれ、と呆れた様子を周囲に見せながら、レナードは賛同を募っていた。
先生はそれに構わず、コーエンの口を開けて魔力鑑定を行う。
「口の中に、わずかながら魔力が残っているわ。詳しく鑑定してみないとわからないけど、ポーションに近いものかもしれない」
通常、ポーションは傷口にかけて自然治癒を促すものだが、口腔内の裂傷の場合は口に含むこともある。それに、飲み込んでも特に問題が生じたという報告はない。
「ポーションと薬の組み合わせで必ず起こるものなら、既に禁止されているはずだ。錬金術の研究員がそれを知らないはずがないだろう」
確かに、レナードの言う通りだ。コーエン本人も錬金術の研究員なのだから。
「ただのポーション……ならね。薬を飲む前に、何か口にしていたと思うのだけど、記憶はある?」
「そういえば……レーベル、お前がコーエンに何か渡して、飲んでいたよな?」
アインがレーベルに話しかける。
「ああ、口の中を切ったというのでポーションを渡した。ただ、飲んだかどうかまでは見ていない」
「ふ~ん……」
先生が再びコーエンの口を開けて確かめる。
「……治癒した跡は見当たらないけど」
「コーエンがそう言ったというだけで、実際に傷があったかどうかは私には分からない」
先生は、近くに落ちているカバンや服を探り、目当てのポーションの空き瓶を取り出した。
ポーションは魔力が霧散しないよう特別な瓶に入っており、通常は持ち帰って使い回すことが多い。瓶の中にはまだ半分ほど残っていた。
「……これが渡した瓶ね?」
「そうだ」
先生は常に持ち歩いている魔力を封じる容器に少量を移し替えて、ポーションと同等の成分かどうか確認するよう治安院に手渡した。
そして残った瓶を、舐めるようにじっくりと調べ始める。
光にかざして、内側の口元を指でなぞり、瓶を傾けながら底を確認する。
(……何を見ているんだろう)
「……まずは、鑑定結果を待ちましょ」
そう言いながらも、先生の視線は瓶から離れない。
私にはまだ何も見えていない。
でも先生には、何かが見えているのだろうか――
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次回更新は3/3(火) 20:00 予定です。




