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ネックレスの行方

エルフ×探偵×魔法ミステリです。


日常と事件が交差する、連作短編風の物語になります。


気軽に読んでいただけたら嬉しいです。

「兵士は三台の馬車を囲むように進んでいた。そうね?」

「はい、お守りするのが役目ですから」

「野盗は前方から現れ、アルベルト様が前方にいたこともあり、こちらの戦力も前に集中した」


私たちが到着したときも後方に兵士はいなかった。

馬車を守りながら戦っていたことも劣勢になっていた一因だ。


「わざわざ賊が前から襲う必要はないわ。左右からくるか、後ろから急襲する方が成功する可能性が高い」

「つまり……前方に兵士を集中させる必要があったと……?」


先生は、アルベルトの疑問にうなずいて答えた。

確かに先生の言う通り、理由がない限り、わざわざ目の前に現れて攻撃する必要がない。


「そして、最も違和感があったのはファイアストーム。あれほど強力な魔法を使えるなら、最初から使っていれば戦局が変わっていたわね」


ファイアストーム。

炎を巻き上げる魔法だが、離れた位置に発生させるのは熟練の魔法士でないと難しいらしい。

先日、先生がアイスアイビーという魔法を使った際は、補助として水をかけていたことからも、戦闘中に距離を指定してそこに魔法を発動させるのは更に難易度が上がる。


「なぜ、わざわざ痕跡の残る魔法まで使って、焼失を装ったんだ?」

「おそらく、行商の馬車などの護衛に参戦されることなどを想定して次善策を講じていた。事前に水魔法の使い手が兵士の中にいることを把握していて、水魔法で消してくるだろうと想定していたのよ」


強力な魔法の使い手は限られているため、魔力の痕跡を追えれば使い手は分かる。

ただ、魔力の痕跡が霧散したり、違う魔法で混ぜ合わせたりすると、誰の魔力かは分からなくなる。


「なるほど……油をまいた理由も火力を上げるだけでなく、水魔法で簡単に消せないようにした。そして……焼失したと思わせて、野盗の仕業を強調する……といったところか。でも、それで犯人はまだここにいるというところに繋がらないが……」

「想定外だったのは、私たちが参戦したことね」


先生がそう言って、私の方を見る。


「エフィ、あの時のこと覚えてる?」


あの時?


「先生が戦闘に参加する直前、私に後方で待機して、全体を見ているように言いましたよね」

「そう。念のためよ、と言ったわね」


そうだ。先生はロックランスを放った後、すぐに私を振り返ってそう言った。

あの時は後方からの攻撃を警戒してのことだと思ったが――


「エフィが後方にいたことで、撤退する賊にネックレスを渡せなかった。もし私一人なら、前方での戦闘に集中して、後ろまで気が回らなかったでしょうね」

「ここにいる全員を身辺調査すれば出てくるということか!?」

「調査するまでもないわ。私が焼け跡を調べている間、エフィには周りの様子を見ていてもらった。隠す隙はなかったはずよ」


そういえば、皆が焼け跡を探し始めようとした時、小声で「馬車に乗っていた人物の行動を注意深く見ていて」と言われた。

あれは犯人が隠す瞬間を見逃さないためだったのか。


「つまり、未だ持っているということですか?」


私が尋ねると、先生はゆっくりと頷いた。


「例えば……焼け跡を探す振りをして、手放す隙と場所を探していた――」


先生の視線が、ある一点に向けられる。


(すす)すらついていない手袋をしている侍従さんとかね」


全員の目がレナードに向く。


「レナード……お前っ」


レナードは舌打ちしつつ、懐に手を伸ばし、ナイフを取り出して自分の首を刺そうとした瞬間


「ウィンドブラスト!」


予期していた先生が、準備していた風魔法で体ごとレナードを吹き飛ばす

倒れたレナードは再度自分を刺そうと試みたが、周りにいた兵士に捕らえられた。


「なぜだ、レナード!」


レナードは不敵な笑みを浮かべる。


「ふん。財政貢献で子爵になった貴族を快く思わない者は多い。私もその一人だ。それ以上は何も話さん」

「誰の指示だ!答えろ、レナード!」

「……」


レナードは黙したまま、もう何も語ろうとしない。

その言葉を聞いたアルベルトは落胆の色を隠すことができなかった。



「お二方。改めて感謝申し上げます。報酬は当家から後程送らせていただきます。」


出発前、アルベルトが深々と頭を下げた。

縛られたレナードは、別の馬車に乗せられている。


「お気になさらず。それより、お怪我はありませんでしたか?」

「ええ、おかげさまで。では、私はこれで」


アルベルトが去った後、先生が大きく伸びをする。


「ふぅ~、予想外の事件に巻き込まれたわね。温泉宿の夕食、間に合うかしら」

「もう日が傾いてますからね……急いでもらうしかありません」


馬車に戻ると、マムちゃんがすやすやと眠っていた。

事件の間、ずっとここで待っていたのだ。


「マムちゃん、お留守番ありがとうね」


そっと撫でると、マムちゃんが小さく鳴いた。


「それにしても、エフィ」

「はい?」

「注意深く見ていてくれて助かったわ。あなたがいなかったら、犯人を特定できなかったかもしれない」

「い、いえ……私は先生の補助をすることしかできませんし……」


先生に褒められて、顔が熱くなる。


「謙遜しなくていいのよ。エフィは優秀な助手だわ」


先生がニヤニヤしながら言う。


「先生……からかわないでください」

「からかってないわよ~。さて、この前の蜂蜜といい、最近ついてないわね。でも温泉はあるし、気を取り直して向かいましょう!」


こんな事件が終わったばかりだというのに、のんびりとした声でレイリア先生が言う。


「そうですね。せっかくの温泉旅行ですし」


私も気持ちを切り替えて、馬車に揺られながら温泉宿を目指す。

マムちゃんと一緒に入れる温泉。楽しみにしていた宿の食事。

温泉旅行は、これからが本番だ。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

いかがでしたでしょうか?

もしよろしければブックマークなどしていただけると喜びます。


次回は、閑話で緩く書こうかと思っています。


次回更新予定は2/18(水) 20:00を予定しています。

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