消えた献上品
エルフ×探偵×魔法ミステリです。
日常と事件が交差する、連作短編風の物語になります。
気軽に読んでいただけたら嬉しいです。
「……ああ……終わった……」
先ほど叫んでいた男が、その場に崩れ落ちる。
身なりと兵士の数から見て、貴族であることは明らかだった。
「……陛下への献上品が焼失してしまった……」
「何が入っていたのですか?」
うな垂れる男に向かって、先生が静かに問いかける。
「金とダイヤで作られたネックレスだ……王都でも二つとない逸品だぞ……」
炎が鎮まると、兵士と従者、それに身なりの整った侍従が焼け跡を探り始めた。
だが戻ってきた報告は、油のせいで全て燃え尽きたというものだった。
「……本当に焼失したのかしら?」
先生が焼け跡を見ながら低く呟く。
「どういう意味だ?」
男が険しい顔で先生を見る。
「油がまかれていたとはいえ、金はともかく、あの程度の炎でダイヤが完全に焼失するとは考えにくいわ」
「しかし、現に無いではないか。そもそもお前たちは何者だ」
ネックレスを焼失したことによって落胆していた男が、八つ当たりをするかのように強い口調でレイリア先生に詰め寄る。
「通りがかりの探偵事務所の者です。私はレイリア、こちらは助手のエフィ」
それを聞いた男は、探偵風情が、と捨て台詞を吐きながら睨みつける。
だが、レイリア先生は気にも留めず冷静に話を進める。
「不自然な点は他にもあるわ。野盗の撤退が早すぎたこと。わざわざ火を放つ必要があったこと。そして三台ある馬車の中から、人の乗っていない一台を正確に狙ったこと」
先生の言う通り、確かに不審な点がたくさんある。
野盗にしては統制が取れていたし、まるで最初から撤退が決まっていたかのようだった。
「つまり何が言いたい」
「つまり――ネックレスは炎に包まれた時点で、ここに無かった可能性が高いわ」
レイリア先生のその言葉に、周りにいる人たちがざわめき立つ。
「とりあえず、ここにいる人たちがどういう人たちか聞いても良いかしら?」
「……私はアルベルト。グラディス子爵家の長男だ。男爵家から子爵家に昇爵した返礼として、献上に向かう途中だった」
アルベルトと名乗った貴族は、先ほどと比べて幾分か落ち着いたようだ。
どうやら焼失の可能性が低いという話を聞いて、冷静さを取り戻したらしい。
「こちらは侍従のレナード。それと世話係が数人だ」
レナードと呼ばれた侍従が一礼する。
その白手袋は、煤の中にあっても不自然なほど綺麗だった。
「昇爵を疎ましく思う貴族は多い。だが、盗まれたとなれば処分は免れん……」
焼失したのも盗まれたのも結局は同じことなので、アルベルトが気落ちするのも無理はない。
「焼失した可能性が低いなら、盗賊が持って行った可能性が高い。急いで兵士に追わせる。君たちにも協力して欲しい」
アルベルトがそう言うと、兵士を編成して行かせようとするが、先生が静かな口調で制止する。
「その前に……来た人数は合っているのかしら?」
そう言われたアルベルトは焦りからくる苛立ちを見せながら、兵士に確認させた。
どうやら亡くなった兵士を含めると、人数は間違いなく来た時と同じ人数だったようだ。
「そう……それなら恐らく盗み出した犯人は、未だここに残っている可能性が高いわ」 「何? どういうことだ!?」
アルベルトが驚いたように問い掛ける。
一体どういう理由で犯人がここに残っていると先生が言っているのか、私には見当もつかなかった。犯人のめぼしはついているのだろうか。
そう考えていると、先生がゆっくりとその理由を話し始めた――
ここまでお読みいただきありがとうございます!
今回は事件の概要に触れる回となりました。
次回はレイリア先生の推理が本格的に始まります。




