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7話 魔王戦

所持スキル


パッシブスキル  『無限転生』『視力向上』『聴力向上』

アクションスキル なし

 気付くと目の前に女神がいた。丸椅子に座ってニヤニヤと笑っている。

「それ、どんな死に方だ?」

「そ、そんなこと、どうでもいいじゃないですか」

 蟹股(がにまた)で両手を上げていた俺は急いで直立姿勢となった。

「そりゃ、そうだ。今回は少し粘ったが失敗に変わりはない」

 女神はパンパンに膨らんだ白いワンピースのポケットに左手を突っ込む。ひしゃげた煙草のボックスを取り出し、底を指で弾く。衝撃で飛び出した一本を口に咥えた。

 ライターの代わりに指を鳴らす。鼓膜に響く高音で宙に火種を作り、タバコに火を点けた。先端が赤々と燃えるほど大きく息を吸い込み、両方の鼻の穴からゆるゆると煙を垂れ流した。

「ガチャを回せ」

 煙草を口の端に咥えたまま踏ん反り返った姿で言った。

 その不遜な塩、いや、女神対応が俺を苛立たせた。反論したい気持ちが急激に膨らみ、思い付いた。

「回してすぐに帰ってきます」

「お前は不貞腐れた子供か」

「違います。ただ、この世界の理屈がわかっただけです」

「一興として聞いてやる」

 近くにあった一斗缶を足で引き寄せた。煙草を指に挟み、親指で弾いて灰を落とす。

「死は恐ろしいですが、すぐに復活します。ここでガチャを引き続けてスキルを充実させれば、ゆくゆくは転生した世界で想像した通りの無双ができます」

「そういう考え方か。実に浅はかだ」

「どうせガチャを回すなら早い方がいいでしょ。タイパ的に考えて」

 自分の言葉で自信を深める。声に出すことで強固となった。

 女神の態度は変わらず、口に咥えた煙草を上下させた。

「転生した異世界にもガチャはある。偉業を成し遂げた時に現れる『達成ガチャ』がそれだ」

「なんですか、それは?」

「レア以上のスキルが約束されている。ここのガチャはハズレ込みだ。最悪も含まれている。むやみやたらにガチャを回せば、どうなるだろうな」

 女神のニヤニヤ笑いが復活した。口から吐いた煙は輪の状態で広がってゆく。

「……最悪のスキルとは、どのようなものですか」

「ガチャは運が試される。狙って出せないので知っても意味はないが、一例として答えてやる。『耐久力ゼロ』や『攻撃力ゼロ』はまだマシで『全能力ゼロ』や『全耐性ゼロ』まである」

 返す言葉が見つからない。最悪よりはマシなスキルでも惨死する未来が容易に想像できる。

「……転生先で、目一杯、がんばります」

「無難な選択だ」

 項垂れた姿でカプセルトイにコインを入れて回す。出てきた紫色のカプセルを割ると変わり映えのしない紙が裏返しの状態で収まっていた。

 摘まんで引っ繰り返すと文字が書かれていた。紙を持つ手が激しく震える。

「や、やりました! 当たりを引きました!」

「いいから見せてみろ」

「これです。見てください」

 女神に渡すと無言で紙を握り潰す。開いた(てのひら)に現れた光る球体は指で弾かれ、俺の中に取り込まれた。

「異世界に送る」

「あ、あの、反応がおかしくないですか? 『運向上』ですよ? ガチャ運が良くなれば大当たりのスキルを容易に引けるようになって、ですね。聞いてます?」

「ガチャで出たスキルは異世界でしか使えない」

「えええ!? そんな殺生なああああぁぁ!」

 底の知れない落とし穴の中で絶叫した。


 目覚めは上々と言えるのか。俺は女性の膝枕で意識を取り戻した。

「よく死から戻ってきてくれました。あなたが私達の最後の希望です」

 女性は青い瞳で微笑むと半顔を歪ませた。金髪の一部に血が滲んでいる。

 シスターのような格好で俺は瞬時に思い出した。骸骨の時に一度、彼女によって滅ぼされたが今回は勇者パーティーの一員として復活を果たしたようだ。

 自動ガチャの当たりに胸の震えが止まらない。興奮を表に出さないように抑えつつ戦況について()いてみた。

「あの魔術師は斃せたのか?」

「腹心は討ち取りました。あなたの一撃が致命傷になりました。戻られたばかりで記憶の混乱が生じているのでしょうか」

「言われてみれば、そうだったな。すまない。それで今の状況を教えてくれ」

 背中に冷たい汗を感じながら話を進めた。

「生き残りは私とあなただけです。他の者達は魔王の手に掛かりました。魔法や魔道具が全く効かない『反魔法』が猛威を振るいました」

「そうか。素晴らしい仲間達が、そんなことに……」

 全く知らない相手を(いた)む言葉が俺自身を苦しめる。表情にも出ていたのだろう。女性は目を伏せて、わかります、と声を落とした。

「その尊い同志の死を無駄にはできません。そこでこの神域を展開して最後の秘薬をあなたの復活に捧げました」

「この俺に魔王を討てと」

「物理攻撃に特化したあなたであればできます。『神速』と『首斬り』のスキルを合わせた必殺の一撃が当たれば、あの魔王でさえ討てると本気で信じています」

 切々と語る女性は目を潤ませた。直視を避ける意味で上体を起こす。

 俺は黒い服を着ていた。黒装束は忍者を想像させる。近くに落ちていた二本の短刀は自分の得物なのだろう。

 短刀を速やかに両手で持ち、しゃがんだ姿勢で白い半円に目をやった。

「魔王の位置は」

「あなたの正面の玉座にいます。魔王はこの神域を感知できません。全ての攻撃を無力化しますが効果は短いです。解ける瞬間に備えてください」

「あとは俺に任せろ」

 女性に背中を向けた姿が幸いした。内心では状況を嘆き、鼻の奥にツンとした痛みが生じていた。

 『神速』と『首斬り』のスキルは転生した時点で上書きされていた。『視力向上』と『聴力向上』は索敵に適したスキルなので戦闘では全く期待できない。新たに加わった『運向上』に(すが)るしかない状況だった。

「ご武運を!」

 熱い声の直後、神域は解けた。

 玉座の前に側頭部から角を生やした魔王が立っていた。目測で五メートル。両手の短刀を強く握り締めて跳び出す。

 慣れない身体で力加減を間違えた。視界が斜めになり、硬い床に両手を突いてしまった。

 頭の上を黒い何かが通過。即座に後ろを振り返ると女性の頭部が宙を舞っていた。


 ――これが運向上の効果なのか。


 安堵(あんど)した気持ちのまま世界が回る。眼下に首から血を噴き出した黒装束が見えた。

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