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65話 過酷な戦い(1)

所持スキル


パッシブスキル  『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』

         『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』

         『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』『掏摸向上』

アクションスキル 『空中跳躍』『物体透過』『技能破壊』『技能詳細』

 薄暗い自室の布団に寝転んで天井を眺める。偽りの現実で三日目を迎えた。

 喉が乾かない。腹も減らないが食べることはできた。それに伴う尿意や便意もない。トイレはあるだけで役に立たなかった。

 身体を起こした。気晴らしに外へ出かける。

 青空駐車場を突っ切り、住宅街の道をゆく。トートバッグを肩に掛けた女性を見かけた。

「こんにちは」

 声を掛けても返事はない。目を動かさず、横を素通りされた。

 ランドセルを背負った子供やスーツ姿の男性にも挨拶をした。漏れなく無視された。モブキャラには会話の機能がないのかもしれない。

 俺は黙々と歩いた。商業施設が目立つようになってきた。

 大きな道路に突き当たる。俺は右に歩いて引き返し、左へ向かった。徐々に足を速める。

 右手にコンビニが見えてきた。敷地内で一度、立ち止まる。深呼吸しながら自動ドアを通って中へ入った。

 手前のレジは無人で奥に小太りの女性店長がいた。身だしなみとは無縁で頭はボサボサ。相変わらず、寝癖が酷い。丸顔の糸目は土偶を想像させた。

 俺は店長の前に立った。

「お久しぶりです」

 当然のように無反応。遠くを見るような目で(たたず)んでいた。

 俺は外へ飛び出した。来た道を全力で走る。

 アパートに戻ると女神の部屋のチャイムを押した。

 間もなく牛の着ぐるみ姿で現れた。

「どうかした?」

「ガチャを回します。カプセルトイはどこですか」

「なんで? まだ滞在期間が残ってるよ」

「構いません。今、猛烈に身体を動かしたい気分なので」

 言葉に嘘はない。原因は伏せたが熱意と受け取られたようだ。

 女神は俺を部屋に上げた。トイレに当たるドアを開けると便器の代わりにカプセルトイが置かれていた。

 俺はパーカーのポケットから真紅のコインを取り出し、セットしてハンドルを回した。出てきた紫色のカプセルを割ってスキルを確認。『話術向上』と書かれていた。

 早々(そうそう)に女神へ手渡す。

「お願いします」

「わかったよ」

 紙を握って光球にすると俺の頭にポンと押し込んだ。その手は撫でるような動きに変わる。

「頑張ってね」

「わかりました。いってきます」

「うん、いってらっしゃい」

 いつも通りの手順で穴の中へ吸い込まれていった。


 誰かが肩に手を置いた。軽く揺すられて俺は目覚めた。

 椅子に座ったまま転寝(うたたね)したようだ。顔を上げると無精ひげを生やした痩身の男性が立っていた。

「隊長、お疲れのところ、大変、申し訳ありません。全員、揃いました」

 全く状況がわからない。反応にも困る。そこで新たなスキルの出番となった。

「まだ頭が朦朧(もうろう)としている。時間が惜しい。改めて状況説明を端的に頼む」

「わかりました。各地で情報を集めていた者達が帰還しました。敵の拠点の一つが割れたので反転攻勢に出ます。隊長には出動の前に叱咤激励をお願いします」

「わかった」

 軽く頭を振って立ち上がる。左腰から微かな金属音が鳴った。(さや)の形で直刀とわかる。重火器のような物は所持していなかった。痩身の男性も同じ仕様で薄茶色の服を着ていた。

 殺風景な部屋を出ると真っすぐの通路があった。左右には等間隔で鉄の扉が並ぶ。表面には傷や凹みが見て取れた。

 照明の類いはなかった。天井の小さな明り取りがポツポツと日溜まりを作る。

 俺と男性は横並びで歩いた。左右の扉には見向きもしない。ドアノブには薄っすらと(ほこり)が積もっていた。年単位で使用されていないように思えた。

 正面には同様の扉があった。遠目でもわかる通り、ドアノブは磨かれたように艶やかで目的の部屋を主張した。

 男性は小走りでドアノブを掴んで扉を開けた。目配せした俺が中に入ると整列した者達の目を一身に受けた。

 一目で表現すれば敗残兵。腕に包帯のようなものを巻いていた。片脚が木の棒になっている者もいた。片目を失ったのか。ずっと閉じている。破けた服から血が滲んでいる者もいた。

 俺は表情に出さない。背筋を伸ばした状態で向き合い、声を張り上げた。

「諸君達の献身的な努力のおかげで敵の拠点の一つが判明した。これから反転攻勢に打って出る。もちろん私も同行する。反論は許さない。命は等しく尊いものだ。全員が無事に生還することが勝利条件と知れ!」

 毅然とした顔で口を閉じた。

 瞬間、敗残兵の印象は薄れた。全員が己を鼓舞する雄叫びを上げた。士気が一気に高まり、二十数名による奇襲作戦が始まった。


 建物の残骸が砂に呑まれていた。炭化した木々は少しの風で呆気なく折れた。

 その中、全員が中腰で歩く。陽射しは厳しい。瓦礫が作る僅かな影を求めて何度も足を止めた。

 先行していた一人の若者が急ぎ足で戻ってきた。

「この先にある中規模の廃墟に敵の姿を確認しました」

「人数は」

 瘦身の男性が端的に()いた。

「三人でした。武器は短剣のようでした」

「わかった。隊長、どうしますか」

「迂回する体力が惜しい。限界まで近付き、正面突破を狙う」

「それでは他の者に伝えてきます」

 一礼した男性は精力的に動いた。俺は日陰に身を置き、空を眺める。やけに太陽が大きく見えた。

 廃墟に近付くに連れて瓦礫の量が増す。隠れることは容易だった。

 しかし、俺は内心で焦っていた。


 あれが本当に敵なのか!? 可愛らしい女児(じょじ)にしか見えない。


 柄を握る手が汗ばむ。ズボンで何度も(てのひら)を拭った。

 その心中を知らず、味方は三人の敵に斬り掛かる。

 一人は袈裟切りにされた。応戦しようとした者は易々と心臓を貫かれた。逃げようとした最後の生き残りは背後から首を斬られた。頭部は落ちず、皮膚だけでブラブラと揺れて三人は血溜まりの中に(たお)れた。

 初戦を勝利で飾った面々は笑顔を見せる。少年の一人は、やっとだ、と涙ぐんで喜んだ。

 俺は暗い気持ちで血に塗れた三本の短剣を手に入れた。

 そして陰惨な運命をひしひしと感じた。

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