59話 勇者パーティーの奮闘(3)
所持スキル
パッシブスキル 『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』
『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』
『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』
アクションスキル 『空中跳躍』『物体透過』
辿り着いた小屋は倒壊寸前に思えた。扉は立て掛けただけで出入りが自由となっていた。
中の床は部分的に抜け落ちていた。屋根も同じで枝葉が見える。使えそうな道具は見当たらない。散乱した綿が不貞腐れたように所々で丸まっていた。
それを勇者とヒーラーが隅に寄せ集めて粗末なベッドを作り上げた。俺は背負っていた魔法使いをそこに寝かす。痛みのせいなのか。顔は汗に塗れていた。それでいて身体は寒そうに震えている。
ヒーラーは厳しい顔付きとなった。貫通した傷口を両手で塞ぎ、目に優しい光で包み込んだ。
「あの棘には毒の成分が含まれていたのかもしれません。そこで解毒と治療を同時に行います」
勇者は速やかに扉へ向かう。
「僕は周囲の警戒に当たるよ。キラク、中を頼む」
「わかった」
立て掛けた扉をずらし、足早に出ていった。
俺は一方の板壁に背中を預けた。意識を耳に集中する。
「……カノンの足音しかしない。あとは風の音か」
二人を安心させる目的で状況を口で伝える。
ヒーラーが治療を終えたようだ。魔法使いは穏やかな顔で目を閉じ、微かな寝息を立てていた。
俺はその場にしゃがんだ。警戒に値する音は何もない。勇者は見回りの範囲を広げたのか。足音も途絶えた。
ヒーラーはふらりと立ち上がる。額に滲んだ汗を手の甲で拭い、俺の隣で横座りとなった。
静けさに圧力を感じる。話し掛ける内容が思い付かない。
「あなたは誰ですか」
ヒーラーが気負いのない声で訊いてきた。
躊躇うと怪しまれる。その判断で即答した。
「知っているだろう」
「キラクのことはよく知っています。良し悪し全てを熟知していると思います」
「それなら訊く必要はないな」
「あります。言い直しましょう。あなたの中身は誰ですか」
俺は無表情で頷き、取り敢えず疑問で返した。
「どうして、そう思う?」
「戦闘では助かりましたが、耳が良すぎます。暗い森を迷いなく歩きました。他にも隠された能力があるのでしょう」
「……俺を魔王と思っているのか?」
「そのようには考えていません。ですが、内通者としては疑っています」
ヒーラーはこちらに顔を向けた。瞬きをしないで、じっと見つめる。
鼻で笑った俺は横目で言った。
「こちらの事情を話してもいいが、信じられるのか?」
「内容によります」
「そうか……俺の中身はキラクではない。転生を繰り返している異世界人だ」
端的に語って口を閉ざす。俺はヒーラーの表情に注目した。睨むような目で顎先に人差し指を当てる。
「元の身体の持ち主、キラクはどうなったのでしょう」
「俺と入れ替わった時点で亡くなっている」
「……そうですか」
沈んだ声で目を伏せた。沈黙は長く続かなかった。
「能力はあなたの固有のものですか」
「そうだ。転生する度に増えていく。その中に暗闇無効と聴力向上が含まれている。他にもあるが」
「信じられない話ではありますが、納得できる部分もあります。他の二人には黙って」
俺はヒーラーに向かって掌を突き出す。
「静かに。足音が近付いてくる。不規則で、これは勇者なのか? どうやら負傷しているようだ」
「本当ですか!?」
「直にわかる」
ヒーラーは慌てて立ち上がると扉を横へずらした。そこに前のめりとなった勇者が入ってきた。金髪の一部が血の色に染まっている。顎先から滴った血が薄汚れた床に赤い飛沫を作った。
「すぐに治療を始めます」
「アメリア、ごめん。撃退はしたのでここは安全だよ」
「……おかしいと思わないか」
俺は勇者に疑問をぶつけてみた。
「どういう意味かな」
「襲う順番が違う。狙われるのは俺達の方だ。ローガンは傷の影響で眠っている。俺は戦闘に特化していない。回復と攻撃を兼任したアメリアを潰せば、カノンは回復の手段がほとんどなくなる。持久戦になればこちらが圧倒的に不利だ」
「言われれば、そうだね。どうしてだろう」
「俺には一つ、心当たりがある。証明はできないが」
そこで言葉を区切って二人の出方を待つ。先に口を開いたのは治療に当たっているヒーラーだった。
「キラクの考えを聞かせてください」
「わかった。カノンが持つ宝玉に引き寄せられていると思う」
「……そうだとしても、この宝玉は手放せないよ。唯一の希望だから」
「わたしも同じです」
二人は俺に強い視線を向けた。俺は真っ向から受けて言い放つ。
「いいか。よく聞いて考えるんだ。その宝玉を捨てれば逃げ切れる。態勢を立て直せば再戦も可能だ」
「それでも捨てられない。宝玉が魔王にとって重要だとわかるから」
勇者は手にした宝玉を握り締める。ヒーラーが片手を重ねた。
「わたし達で守り抜きましょう。そして王都に宝玉を持ち帰り、反撃に転じます」
「その中に俺は入っているのか?」
「もちろんキラクも入っています」
ヒーラーは揺るぎない視線で言い切った。
「わかった。これからは能力の出し惜しみをしない。積極的に関わらせて貰う。これでいいか?」
「頼りにしています」
にこやかに笑うヒーラーに、コイツは、と胸中で軽く毒づいた。
「……私もいる」
目覚めた魔法使いがしゃがれた声で言った。
宝玉が位置を知らせると仮定した俺達は、すぐに小屋を離れた。移動先が特定されないように遠回りを試みる。
徐々に王都への距離を縮めて三日目の夜明けを迎えた。




