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58話 勇者パーティーの奮闘(2)

所持スキル


パッシブスキル  『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』

         『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』

         『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』

アクションスキル 『空中跳躍』『物体透過』

 勇者とヒーラーのイチャイチャはどうなったのだろう。起きて真っ先に二人を見たが特に変わった様子はなかった。

 視線に気付いたヒーラーは軽く頷いた。

「心配しなくても丸薬はありますよ。残りは僅かですが、今日を乗り切るために使いましょう。皆さんも、どうぞ」

 皆に黒い丸薬を渡す。口に入れる前に匂いを嗅いでみた。かなりの刺激臭でくしゃみが出そうになった。漢方薬を連想させる。三人は早々に口に入れたので俺もそれに(なら)う。

 奥歯で噛むとむせるような苦味が溢れ出す。瞬時に口内が熱くなり、丸薬が膨張した。口の中、いっぱいに膨らんで両頬が痛い。意識して唇を(すぼ)めないと中身が出そうになる。

 鼻から抜ける激臭に涙目で耐え、小刻みに噛んで少量ずつ呑み込む。目にした三人は表情で驚き、それぞれが堪え切れずに笑い声を上げた。

 逸早く立ち直った勇者は真顔で俺と向き合う。

「ありがとう。キラクのおかげで久しぶりに笑えた。気分も楽になったよ。こんな僕だけど、最後まで付き合って欲しい」

「カノンさんは素晴らしい勇者です。長い旅路で確信しました」

 ヒーラーは言い終わると潤む目で精一杯の笑顔を作った。

「私も全力を尽くす。例え魔法に愛されていなくとも……私が愛した魔法で戦うつもりだ」

 三人の結束は固まった。


 それはいいんだけど、今にも吐きそう。


 膨らんだ頬っぺたを一筋の涙が伝う。この姿も勘違いされそうだ。


 勇者達から聞き出した話によると王都は山の中に築かれているという。強固な天然の要塞は空からの侵入を(はば)み、迷路状の通路が敵を等しく迷わせる。過去の襲撃に何度も持ち堪え、全てを返り討ちにしたと各々が誇らしげに語った。

 そこに宝玉を持ち帰り、解析を進める。結果によっては反撃に出る狙いもあるのだろう。

 あとは速さが勝敗の決め手となる。選んだ最短のルートは草原で休まずに走り続けていた。

 体力に難のある魔法使いは出発の時、ヒーラーから複数の強化を受けていた。それでも顔は汗に(まみ)れ、呼吸の乱れが顕著(けんちょ)になってきた。

 似たような業種のヒーラーは顔だけを見ると余裕があった。隠れて強化しているのだろうか。

 俺は短剣を左手に持ち、速度を維持した。先頭を走る勇者は重装備ながらも身軽で安定していた。他とは地力が違うようだ。

 今のところ、何の問題も発生していない。その静けさが俺の心をざわつかせた。

 魔王の追撃の恐れがあるので俺は走りながら声を上げた。

「草原には敵がいないのか!」

「普段の状態ならいるよ!」

 先頭をいく勇者が振り返らずに答えた。

 魔法使いとヒーラーは共に小難しい顔となって、確かに、とほぼ同時に呟いた。

 俺は構わず、声を張り上げる。

「今が異常だとして原因はわかるか!」

「僕にはわからない。アメリアはどう思う!」

 その問いにヒーラーが答えた。

「……身の危険を感じて逃げている可能性が考えられます!」

「上位の魔物、または魔王かもしれない!」

 魔法使いは木の棒を両手で持ち直す。

「キラク、敵の接近はわかるか!」

「近づいてくる足音は、いや、なにかくる!」

 聴力向上が伝えた。右斜め前方から音が聞こえる。そこに敵の姿はなかった。

 目は足首にやんわりと絡む草を見た。

「下からくる! 左へ逃げろ!」

 叫ぶと同時に俺は跳んだ。

 魔法使いは逃げながら早口の詠唱(えいしょう)を始める。

 同じように回避運動を取ったヒーラーは勇者に更なる強化を施す。

 瞬間、地面から保護色のような(とげ)が何本も飛び出した。迫る危険を知らずに走っていれば全員が串刺しになっていただろう。

 獲物を逃した棘は素早く引っ込む。その中心を狙って勇者が長剣を振った。

 生じた光の刃が草原を壊す。草と土が吹き飛び、水柱が勢いよく噴き上がった。

 その先端がぐにゃりと曲がって草原に楕円形でとどまる。


 巨大なスライム?


 生前のゲームの記憶が頭を過る。

 反応に困る俺と違い、勇者は裂帛(れっぱく)の気合で光の刃を連続で飛ばす。合わせるようにヒーラーは頭上に光輪を浮かべ、高速で打ち出した。効果が薄いと判断すると光の剣へ移行した。

 スライムは高速再生で原型を保ち、下からの棘の攻撃を強めた。俺は音で察知して(かわ)し、他の者へ注意を促す。

 長引きそうな展開に寒気を覚える。蓄積された疲労で足がもつれ、串刺しにされた自分の姿が脳裏から離れない。

 その時、魔法使いの詠唱が終わった。急に辺りが冷え込む。スライムの周囲には氷の結晶が無数に瞬き、全体が凍り付いた。

 ほぼ同時に魔法使いが片膝を突く。右脚の甲が棘に貫かれていた。駆け寄った勇者が長剣で切断。ヒーラーは流れる血を止めようと光る手を当てる。

 手早い応急処置を済ませると勇者が早口で言った。

「この場を離れる。進路を変えて右の森を目指す」

「ローガンの止血は終わりましたが、万全ではありません。急ぎましょう」

 俺は凍ったスライムを見たが、手は出さなかった。自ら願い出て痩身のローガンを背負う。ヒーラーは少し疲れた表情で俺の肉体の強化に手を貸した。

 再び勇者が先頭となって走り出す。ヒーラーと俺が並走する形になった。

「キラク、大丈夫ですか?」

「俺は問題ない」

 短剣特効のスキルを全開にして遅れることなく付いていった。


 思ったよりも森は深い。踏み込んだ一歩で夜へと変わる。

 暗闇無効のスキルが最大限に発揮できる。勇者に代わって俺が先頭に立った。

「俺の目を信じて付いてくればいい。歩きながらでいいが、拠点になりそうなところの特徴を教えてくれないか」

「朽ちていないなら先の方に小屋がある。無理をさせたアメリアも、そこで休んで欲しい」

「カノンも休んでください」

「もちろん、無理はしないよ」

 そこで会話が途切れた。微かではあるが二人の呼吸の乱れが伝わる。

 木々の隙間に親指大の小屋が見え始めた。二人に伝えると安堵(あんど)したような溜め息を吐いた。

 進行方向に迫り出した木の根が横たわる。後方の二人に伝えて軽く跳んだ。着地の際に背負っていた魔法使いが、ウッ、と苦し気な声を漏らす。

「悪かった。もう少し注意して歩く」

「それは私の言葉だ。苦労を掛けて、すまない」

 重苦しい雰囲気になる前に俺は芽生えた疑問を口にした。

「先程の魔物にとどめを刺さなくて良かったのか? 冷凍の状態なら打撃で簡単に壊せると思うのだが」

「無理だよ。小さいけれど、魔王の刻印があった」

「わたしも見ました。草原に通常の魔物がいなかった理由にもなります」

 俺はスライムの全体を思い出す。赤くて歪な六芒星(ろくぼうせい)のようなものがあった。


 あれはキングではなくて魔王スライムなのか。しかも不死と。


 スキルのおかげで俺に暗さは通用しない。ただし心の中は範囲外で、絶望の黒に塗り潰された。

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