57話 勇者パーティーの奮闘(1)
所持スキル
パッシブスキル 『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』
『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』
『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』
アクションスキル 『空中跳躍』『物体透過』
生前でも土下座はしたことがない。それを今、俺は女神屋の前でしている。
「身の程を弁えず、大変に失礼なことをしてしまいました。誠に申し訳ありませんでした」
そこで口を閉じ、女神の反応を待つ。無反応が一番、恐ろしい。極度の緊張を強いられた。
「好き放題してくれたよね。気持ち良かった?」
「……正直に申しますと、悪くない気分でした。特に最後のベッドが印象的で浮かれていました」
数秒の間のあと、女神は溜め息交じりに言った。
「城森カレン」
「その人物は?」
「うちのフルネームだよ。名前は片仮名だけどハーフじゃないから」
許された。それどころか名前まで教えて貰った。仲良くなったと考えていいのだろうか。
喜びを噛み締めて俺は顔を上げた。腕を組んだ女神がいた。アヒル口を見て調子に乗らないようにしようと心に誓った。今回、締め殺されている訳だし。
その後、ガチャを回した。通常の紫色のカプセルには『掏摸向上』が入っていた。そのままの意味で他人の物や金を盗む技術の向上である。
「あくまで向上だからね。あまり調子に乗ると痛い目に遭うよ」
「身をもって知りました」
笑顔でいうと女神はそれとなく身体を斜めにした。
「なんか目付きが嫌らしい」
「生まれつきです」
愉快な会話の直後、足元の地面が消失した。
暗い中、目の前で焚火が赤々と燃えている。
暗闇無効と視界向上のおかげで目を動かさなくても廃墟の一角とわかる。煤けた壁や砕かれた柱は激しい攻防を物語る。と同時に物悲しくもあった。
同じように火を囲む者達は三人。正面に金色の短髪の男がいる。白銀の鎧を纏う。傍らに置いた長剣は柄に宝飾が施されていた。
右手には女性がいた。縦長の特徴的な帽子を被り、ゆったりした白い法衣のような物を着ていた。
左手には黒いフードを目深に被った痩身の男がいた。使い古された木の棒を自身の肩に立て掛けている。
その三人は一様に沈んだ目をしていた。露出した肌には細かい切り傷や打撲の跡が見て取れた。
最後に自分の姿を確認する。身軽さが信条なのか。軽装備で身を固め、腰には短剣を下げていた。シーフが妥当か。正面が勇者で右手はヒーラー。その対面は魔法使いと。
各々の疲弊の具合から考えると魔王討伐の旅は終盤に差し掛かっているのだろう。現段階では推測に過ぎないので早く確証を得たい。そこで三人に語り掛けるように口を開く。
「長い旅路だな」
最初に反応したのは正面の勇者だった。
「そうだね。魔王をあそこまで追い詰めたのに……こんなことになるなんて、思わなかったよ。僕にもっと力があれば」
「カノンさんのせいではありません。魔王が組織名とは、わたしも全く知りませんでした」
右手のヒーラーがとんでもない内容をさらりと口にした。組織名だと構成員の全員が魔王になるのだが。
左手の魔法使いが頭を深く下げた。肩に立て掛けた木の棒がカタカタと鳴った。
「……私は無力だ。魔法に愛されてなど、いなかった。それどころか、続々と現れる魔王を目にして恐怖で震えてしまった」
その独白に誰もが目を伏せた。同じ心境なのだろう。
もしかして、こいつら絶望して逃げ出したのか?
敗走は確定した。今後の方針も知りたいところだ。
「敗戦の弁が終わったところで改めて訊くが、これでいいのか」
「僕にはわからない。責任の押し付けになるかもしれないけど、奪い取ったこの宝玉があれば、希望を託せる」
勇者は荷袋から虹色に輝く玉を取り出した。効果は知らないが自発的に光っているので普通の輝石には見えなかった。
「……王都まで無事に持ち帰ることが、できるのだろうか」
悲壮感を漂わせる魔法使いが低い声で呟いた。
僅かに視線を上げたヒーラーが微笑む。
「わたし達が無事でなくても構いません。一人でも生き延びて届けてくれれば」
その視線が何故かこちらに向く。短剣に目を落とし、俺は話を合わせた。
「俺の脚力に全てを賭けると」
「その通りです。キラクは俊敏で機転が利きます。その点に関しては大いに評価しています。そのように見えなかったと思いますが」
ヒーラーとはあまり仲が良くないようだ。ただし情報は有難い。自分の名前や目的もわかった。王都までの道程の長さはできれば聞きたくなかった。モチベーションが下がる。
勇者は表情を引き締めた。目の中に映り込んだ焚火がちらちらと燃えている。
「僕が寝ずの番をする。皆は明日に備えて休んで欲しい」
「眠気がきたら起こしてください。わたしがあとを引き受けます」
「その時は頼むよ」
ヒーラーと見つめ合う勇者に俺は背を向けた。ごろりと寝転がって、先に休む、と無愛想に言った。
これだよ、これ。王道の展開だよ。皆が寝静まった頃に二人のイチャイチャが始まる。抱き合っても締め殺されないなんて、ご褒美すぎるぅぅぅ。
見た目は平静で寡黙を通す。二人の囁く声は聴力向上のスキルでしっかり聞いた。
思わぬ高評価のおかげで嫉妬心は蕩けて心地よい深みに沈んでいった。




