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49話 大迷宮に挑む(1)

所持スキル


パッシブスキル  『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』

         『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』

         『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』『視界向上』

アクションスキル 『空中跳躍』

 柔らかいベッドで横向きに寝ているのだろうか。枕の高さはちょうどいい。張りのある弾力で温かみを感じた。表面に手を当てる。人肌と知ってビクッとなった。

 即座に起き上がろうとした。阻止するように側頭部に手を置かれ、撫でるような動きに変わった。

 俺は抵抗をやめた。小ぢんまりとした部屋を眺めながら甘い雰囲気に身を浸す。

 上からふんわりとした声が降ってきた。

「今回は頑張ったね」

「……余計に悔しいです」

「そうだね。あと少しだったから」

 女神の声は優しくて俺の胸に響いた。泣きそうになり、きつく目を閉じた。

「あと、ごめんね。異世界のルミアは似てるだけで、わたしじゃないのに、ヘンな怒り方をして」

「気にしないでください。私も初めて見た時は女神様と勘違いしました。実際にはあり得ないのですが」

「……うちもあんな風に一緒に冒険ができたらいいのに」

 撫でる手が止まった。俺は言葉に迷ったが()いてみた。

「女神でいるのは辛いですか?」

「……人生を終えた人達が、ここにくる。第二の人生を生きられる人は、ほとんどいないから、それだけで幸せなんだよ」

「私もそう思います」

「でもね、送り出した人達は二度と戻って来なかった。女神ポイントがほとんど増えなかったから、たぶん、良い亡くなり方はしてないと思う」

 異世界で理不尽に殺された過去を思い出す。適当な相槌が浮かばず、じっとして聞いていた。

「だから望君の存在は新鮮だった。何度も異世界に行って、当たり前のように戻ってくる。こんな関係をなんて言うのかな。わからないけど、わくわくする」

「私はドキドキします。色々な意味で」

「それ、わかる。異世界転生はガチャの要素が大きいからね」

 それもあるが、今のような状態もドキドキの範疇に入る。ここに戻ってきた時の女神の姿にときめいたこともあった。神の名はあっても人間らしい感情を持ち合わせていた。

「他の女神様はどのような感じなのでしょうか」

「それをうちに訊く? 不機嫌になるかもよ」

「ごめんなさい」

 側頭部に置かれた手が髪を掻き分けるような動きをした。怒りを買ってはいないようだ。

「なんてね。他の女神の話だけど、長く続けると感情が希薄になっていくみたい。うちはあんな風になりたくないかな。たぶん、ならないと思う。望君がいるからね」

 その声だけで笑っている女神の姿を想像できる。

「私も今の女神様でいて欲しいと思います」

「望君、親しみを込めてプリンちゃんって呼んで」

「……プリンちゃん」

「なぁに?」

 そう返されるとは思わなかった。

「可愛いですね」

「それだけ?」

「……名前を教えてください」

「もう少し仲よくったら教えてあげる。あとは?」

 甘ったるい声で強要する。頭の芯の部分が煮え立つ。焦る程に火力が上がる。

「好きです」

 信じられない言葉が飛び出した。失言に近い。血の気が引く思いだった。

 気付けば手の動きが止まっていた。

「そう、なんだ」

 女神の声が近くなる。頭が挟まれた。抱え込むような姿で動きを止めた。

「プリンちゃん?」

「なぁに?」

 振り出しに戻った。


 甘ったるい時を過ごした。英気を養ったと考え、ガチャを回した。

 新たに得たアクションスキルは『物体透過』だった。空中跳躍と同じで何かしらの制限があるのだろう。

 もじもじした女神に見送られ、俺は新たな世界へ飛び込んでいった。


 目の前にダンジョンのような灰色の壁がある。妙に明るいので上を見ると空があった。高い天井に描かれたものを疑い、目を凝らす。そこに(がん)のような鳥がV字型で横切った。

 俺は屋外と判断した。遺跡のようなところを思い描く。残念なことに全体を見渡せるような場所はなかった。

 耳を澄ます。不穏な足音や息遣いは聞こえて来ない。迫る危険はないと思い、その場で空中跳躍を試した。

 思いのほか、高く跳べた。ほんの僅かな時間ではあるが先を目にできた。

 壁で仕切られた迷路の中に池や吊り橋が組み込まれていた。しかも広大で濃霧に覆われた地域も見られた。

 無事に着地を決めた俺は自身の姿にも注目した。

 真っ先に胸を見て股間を触る。男性と判明した。武装はしていない。身の軽さを信条としているのか。軽装で腰回りに細々とした道具をぶら下げていた。ハンマーや一対の手袋の用途はわかる。先端が複雑な形をした銀色の耳搔きのような物には困惑した。複数あるので鍵開けの道具なのだろう。

 この世界には野晒しにされた宝箱があるらしい。あると仮定しても開けられる気がしない。特化したスキルがあったとしても意味はない。俺が転生した時点でストックされたスキルに上書きされていた。

 今ある情報を踏まえて考えると、俺はトレジャーハンターなのだろう。跳躍の高さに若さを感じた。凄腕とは考えられない。駆け出しの野心家で名を上げようとしてこの地にきた。当たらずとも遠からず、ってところだな。

 名推理だ。実に素晴らしい。頭脳向上の助けもあるのだろう。同時に腹も立つ。


 いきなりこんな大迷宮に挑むなよ。


 募る不満は長々とした溜め息で吐き出し、俺は新たな気分で一歩を踏み出した。

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