47話 壊れたおもちゃ(2)
所持スキル
パッシブスキル 『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』
『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』
『投擲(必中)』『レア世界』『頭脳向上』
アクションスキル 『空中跳躍』
手足がもげる勢いで暴れた。間違えた選択は三桁に及び、ようやく吹き出しのコマンドの位置を把握した。
その努力が実って杉の棒を装備できた。あとは雑魚狩りに専念して金を稼ぎ、装備を整えて次の街や村へ行くだけだ。
己を鼓舞して城壁の切れ目に突っ込んだ。
一瞬で光景が変わった。緑色の大地に出た。そこも街と同様に平坦でのっぺりとしていた。
まずは適当に動いて敵を出現させる。不審者に徹して小刻みに動くと不吉な音と共に場面が一変した。俺の姿勢も変わって横向きの状態になった。
敵も横向きでミノタウロスのようなモンスターが巨大な戦斧を構えていた。受ける威圧感が凄まじい。吹き出しは斜め上にあるが、その薄さで内容は読み取れない。初めての戦闘なのでコマンドの位置も不明であった。
死んだな。
一瞬で悟った。ピクピクと手足を動かして読めないコマンドの一つを選んだ。
「あああ、は泣きながら逃げ出した」
その言い方に腹が立つ。だが、今は許す。
「石につまづいて転んでしまった」
結局は逃げられなかったと。別に構わない。俺は早々と死んで、この世界から逃げ出したいのだ。
ミノタウロスは一気に間合いを詰めた。戦斧を頭部に振り下ろす。断ち割られた激痛で叫ぶ間もなく意識が消し飛んだ。
「瀕死の重傷で運ばれるとは情けない。今一度、奮起して魔王討伐の旅に出るがよい」
棒読みの声で意識が戻った。圧迫感のある天井の天窓が十字架の形になっていた。教会らしいが、問題はそこではない。
あれで死ねないなら、どうすればいいんだ?
俺にとって死は救済の意味もある。女神のところに戻ってガチャを回し、新たなスキルを得る。ストックされたスキルを駆使して次の世界で達成ガチャを目指す。
それができない? いや、確定ではないはずだ。最初の街の付近に出没するモンスターなので強敵ではないのだろう。
中ボスや幹部クラスとの一戦を期待して奮起する。先程と同じように緑色の大地に出た。動くとモンスターに遭遇するので視界向上のスキルを存分に活かす。
街の左横に平たい建物らしいものが見えた。目指して歩くと七歩くらいで場面が切り替わった。
荒れた道が上に伸びているので手足を横に振って進む。突き当りに平たい建物が聳え立つ。城のように見えるがはっきりとしない。荒れ果てた教会かもしれない。
門の辺りに頭を当てると不吉な音と共に敵が現れた。雑魚キャラではないと主張するように音声が聞こえてきた。
「魔王城には誰一人通さん。門番の俺が直々に冥府に送ってやろう!」
「はあ!? どういうことだよ!」
文句は受け付けないとばかりに戦闘画面に突入した。
敵は巨大で禍々しい翼を生やしていた。頭部の二本の角は鋭利で黒い光を放ち、乱杭歯からドットの炎が漏れていた。
うん、めっちゃデーモン。しかも高位のアークデーモンだ。
理不尽、極まりない。最初の街の横に魔王の居城があった。距離にして七歩。ミノタウロスが出現する理由が明白となった。
吹き出しのコマンドがわからないまま選ぶ。
「無謀にも杉の棒で殴り掛かった」
攻撃を選んだらしい。棘のある言い方は相変わらずだが、これまた許す。
「ダメージを与えることはできなかった」
普通の内容にもムカついてきた。当たり前の結果をいちいち伝えなくていいと本気で思った。
「アークデーモンは灼熱の炎を吐いた」
骨まで溶けそうだ。期待と恐怖で顔の火照りを感じた。
横向きの姿で俺は炎に呑まれた。大量の生肉を焼くような音で意識は瞬く間に蒸発した。
「瀕死の重傷で運ばれるとは情けない。今一度、奮起して魔王討伐の旅に出るがよい」
「いやいや、待てって。おい、ジジイ! 調子に乗るなよ! 魔王はご近所さんだろ、ボケんな! 本気で自分探しの旅に出るぞ!」
激昂に近い言い分は完全に無視された。問い詰めようとすると、寄付をしますか? と問われてたかられた。
怒りに任せて俺は外へ飛び出した。意味もなくウロウロしていると薄っすらと光明が差した。
その後、数十回の瀕死を経験して全てのコマンドの位置を覚えた。そこからが本番となった。
とにかく上を目指して歩いた。遭遇した敵は漏れなく逃げる。転んで瀕死になって戻されても諦めない。
その努力の果てに青い海に行き着いた。最北端と断言はできないが敵の弱体化に成功した。出現する敵はスライムのみ。色の違いはあるが一振りで撲殺できた。
俺は狂気に染まった。恨みを込めた掛け声で勢いが止まらない。
「死ね、ジジイ!」
「暗君、くたばれ!」
「クソゲーが!」
おかげでレベルも上がった。以前とは比較にならない強さを手に入れた。寝食を惜しんだ殺戮マシーンとして励んだ成果と言える。
レベルは四十一に達した。カンストは経験則で五十と想定。有り余る金で装備品を買い漁り、歩く宝石のような姿に変わった。
これ以上、能力の飛躍的な向上は見込めないだろう。そこで俺は洞窟や迷宮に挑むことにした。他の異世界であまり良い思い出はないが尻込みしている場合ではない。稀に見るクソゲーを攻略できる見通しが立ったのだ。ここまでくれば達成ガチャも夢ではない。
俺はドットの姿で静かに燃えていた。




