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45話 死亡フラグがビンビンの世界(7)

所持スキル


パッシブスキル  『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』

         『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』

         『投擲(必中)』『レア世界』

アクションスキル 『空中跳躍』

 暗い森で杖はランタンの代わりになった。輝石は目に優しい光を纏い、周囲をぼんやりと照らし出す。

 ルミアは何度も俺に言った。

「もっと近くに来ないと暗いよ。そう、そんな感じ」

 俺には暗闇無効のスキルがある。見通しは良くないがはっきりと見えていた。当然、光源は必要なかった。

 周囲に気を配ると今度は足元が不用心になる。ルミアはまたしても転びそうになり、俺が身体で受け止めた。

「あ、ごめん」

「問題ない」

 その恩恵で柔らかい膨らみが頻繁に俺の腕に押し付けられた。ささやかな幸せで満足すれば死亡フラグをへし折れる。そう信じて一歩を積み重ねてゆく。

 そこそこの時間が経過した。俺は四方に目を向ける。

 落ち着きのない態度を目の当たりにしたルミアが不思議そうな声で()いてきた。

「なにかある?」

「……なにもなくて逆におかしい。この森には生き物はいないのか?」

「ああ、それね。いないよ。いなくなったが正解かな」

 以前はいたらしい。異様な見た目の木と関係があるのだろうか。

「木も普通の状態に思えない」

「そうだね。わたしも文献でしか知らないんだけど、大昔に掛けられた呪いの名残りなんだって。今は無害なんだけど生き物は本能的に嫌うみたい」

「呪いは恐ろしいな」

「今もあればね」

 にっこり笑うルミアに釣られて微笑みを返す。

 その常識は唐突に破られた。俺は止まると同時にルミアの肩を掴んで、静かに、と声を落として言った。

 背負っていた荷袋を下し、微かな息遣いが聞こえる方向に目をやる。木々に阻まれて姿を見ることはできないが、秒単位で変わる音量は接近を伝えてきた。

「ここにいて」

 黙って頷くルミアに明るい笑みを浮かべた。

 左手の指の間に三本のナイフを素早く挟み、俺は音の方へ速やかに跳んだ。

 相手に悟られないように迫り出した根を踏み台にして連続で飛び移る。間もなく獣人の姿を捉えた。

 二足歩行の狼は手傷を負っていた。全身の毛が乱れ、至る所に出血の痕が見られる。金色の目は殺意に満ちて、殺じでやる、と濁音交じりの言葉を吐き出した。

 俺は危険と判断して狼の背後に回った。手近の木の幹を蹴って宙を舞い、空中跳躍で急降下を試みる。

 右手の手刀は狼の後頭部を正確に貫いた。自分の重さでずるりと抜けて突っ伏した。俺は枯葉を拾い、血塗れの右手を拭った。

 その後、ルミアの元へ引き返す。

「獣人がいたので仕留めた」

「この森にはなにもいないはずなのに……」

「用心して進もう」

 荷袋を背負い直し、揃って歩き出す。

 ルミアは口を閉ざす。何かを考えているように眉間に薄っすらと(しわ)を寄せた。

 先程の現場に着くと目を見開いた。

「どうして、こんなところにいるのよ」

「……異変が起きている。そう仮定して原因が魔王にある可能性は?」

「どうだろう。わたしが聞いた魔王は『力が全て』みたいな感じだよ。使う魔法も肉体強化だけで戦略もなにもなくて、そう、例えたら悪のハルトだね」

 脳筋バカみたいな説明をありがとう。理解はできたが把握は難しい。


 ()み嫌われる森に獣人がいた。俺達を襲う目的なのか。負傷した状態で考えると追撃を恐れて逃げ込んだのか?


 考えている時間はなさそうだ。複数の音を耳が拾う。

 深い思考でかなりの接近を許してしまった。ルミアは早々に杖を掲げ、迎撃態勢に入った。

 俺は真っ先に飛び出して進行を阻む。

「え、マジで」

 木々から飛び出した二人に棒立ちとなった。

 一体は下半身が馬で上半身が裸体の若い女性。もう一体も下半身は蜘蛛で上半身が豊満な胸を露出した女性であった。

 馬の女性は後ろ脚で立ち、前脚で俺の頭頂を踏み付けた。蜘蛛の女性も同様に細い脚で何度も腹部を蹴り込む。

 物理無効なので俺は緩む頬で、落ち着いて、と制止を促すように双方に両手を伸ばす。

 下心は皆無なのだが胸を鷲掴みにした格好となった。尚も突進を強行するのでこちらも力が入る。決して揉んではいない。

 頭の上を風が通り抜けた。直後、二つの頭部が転げ落ち、生温かい血の雨が降ってきた。

 女性達の背後にあった複数の木は半ばから切られ、地響きを立てて倒れた。

「もう、我慢できない」

 その声を最後に猛烈な睡魔が俺を襲い、意識が途切れた。


 目覚めるとルミアが俺の身体に乗っていた。恥ずかしそうに笑うと、しちゃった、と呟く。

 俺は起きようとしたが動けない。両手首に光の輪が嵌められていた。両脚を試してみたが微動だにしない。力ではどうにもならなかった。

「もしかして呪いの耐性は」

「弱くなったと思うけど、平気だよ。あとね、初めてでも痛くないんだね」

「まあ、個人差があるんじゃないかな」

「もう少しで光の拘束の効果が解けるよ。それまでわたしがハルトをしっかり守ってあげるね」

「……ありがとう」

 死亡フラグがビンビンに立ってしまった。俺の見立てでは達成ガチャと死は隣り合わせ。どちらを引くとしても決死の覚悟で(のぞ)まなければいけない。

 感覚で十数分。俺の拘束は解けた。

 ルミアは乱れた髪と服装を直し、飛び付くようにして腕を組んできた。

「二人で魔王を討とうね」

「それが目的だし」

「これは別の話なんだけど、子供は何人、欲しい?」

 ルミアの問いも死亡フラグで立ち眩みを覚えた。

 森を抜けると荒廃した土地の先に小粒な居城が見える。尖塔の一本が砕けていた。門も開きっ放しで動く人影が見当たらない。誰かと一戦、交えたのだろうか。

 疑問は尽きない。歩く過程で更に謎は深まった。

 朽ち果てたような死骸は全て魔族だった。大声で叫ぶような姿や表情を歪ませた悲惨な状態が大半を占めた。

 居城に近付くに連れ、その数は増えてゆく。尋常ではない数にルミアも眉を(ひそ)めた。

「絶対におかしい。わたし達の他に勇者がいるなんて聞いたことないよ」

「そうなのか。答えは玉座にいけばわかるだろう」

 俺とルミアは黙って足を速めた。


 何の障害もなく深部に辿り着いた。玉座には足を組んだ女性が座っていた。粗末な薄茶色のワンピースは刻まれ、血の飛沫が凄惨さを物語る。覗く肌は艶やかで裂傷の類いは見られなかった。

 その手前にはマントを羽織った大柄な人物が(うつぶ)せで倒れていた。伸ばした左手は枯れ木のように細かった。

 女性は侮蔑を込めた目を俺達に向けた。

「お前達が今の勇者だね」

「勇者ハルトと勇者ルミアだ。魔王を出せ」

「目の前にいるだろ」

 伸ばした左手を組んだ足で蹴った。簡単に折れて床を滑っていく。

「……お前が新しい魔王でいいのだな」

「どうかしら。配下の者はいないし、そんなのどうでもいいじゃない」

 半笑いで口元を隠す。細めた目は、しかし、笑っていなかった。奥底で憎悪が(くすぶ)っていた。

 どういうつもりなのか。女性は人差し指と親指で輪を作り、ルミアをつぶさに見る。軽い頷きを交えて下卑た笑いを浮かべた。

「純潔をこの木偶(でく)(ぼう)に捧げたようだね。安心して()()()()()()

「させるか!」

 俺は背中に回していた左手を前へ出す。この身体の限界、五本の短剣を使って神速で間合い詰めた。

 右手の手刀は大気を穿(うが)ち、女性の額へ放つ。が、狙いが逸れた。

 耳に甘い毒のような声が忍び込む。

「どこを狙っているの?」

「ハルト、避けて!」

 咄嗟の判断でルミアは杖を掲げた。その姿で両膝を突く。呼吸が早くなっているようだ。四つん這いの姿になると(まばゆ)い金髪が白く変わる。

 玉座から喉に引っ掛かるような笑い声が起こった。

「一瞬で枯れ木にはならないようだね。呪いの耐性が少しはあるようだ」

「なぜ、なんだ。俺の攻撃は、お前を、貫いたはず……」

 全身の力が抜ける。左手に持った短剣が落ちて床に乾いた音を立てた。

「呪いで遠近感を狂わせた。私達の一族を冷遇した魔族は壊滅した。勇者も老化で朽ち果てる。次の遊び場を考えないといけないねぇ」

「声の位置なら、わかる」

 俺は瞼を閉じて最後の手刀に渾身の力を込めた。


 やはり、な。


 相手の額に指先が当たった。それ以上は進まず、身体が横に傾く。

 全身に砕けるような音が響いた。

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