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44話 死亡フラグがビンビンの世界(6)

所持スキル


パッシブスキル  『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』

         『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』

         『投擲(必中)』『レア世界』

アクションスキル 『空中跳躍』

 宿の部屋に二人でいると勝手に気分が盛り上がる。淫らな想像で脳内がパンク寸前。健全な男のありふれた状態と言える。

 ルミアはお世辞抜きで可愛い。豊満な胸は妖艶で子供のような甘えた声を聞くと股間が過敏に反応した。絶妙なアンバランスが堪らない。

 朝食を終えた俺とルミアはテーブル越しに見つめ合う。どちらも、ちらちらとベッドを目にした。


 死亡フラグは俺の勝手な解釈だ。ルミアの呪いの耐性が少しくらい落ちたとして、それがどうだと言うんだ。使う者がいなければ脅威にはならない。


 心の声が俺を説得しようとする。反論の余地が見出せず、固い決意がグラグラと揺れ始めた。ルミアごと、ベッドへ押し倒したい衝動に駆られた。

 突然の来訪者はノックと共にやってきた。

「勇者様、お気に召すかはわかりませんが、焼き菓子を持参しました」

「今、開ける」

 どこかほっとした気分で俺は対応に当たった。

 若い女性が素朴なカゴを抱えていた。こんがりと焼き上がった菓子よりも胸元に目がいく。大きなミルクパンと形容すればいいのか。食べられることを期待して添えられているようだった。

「ありがとう。気を使わせてしまったね」

「そんなこと、ないです。わたしが勝手にしたことなので、その、また来てもいいですか?」

「ああ、構わない」

「それでは、また」

 女性は奥に控えるルミアをちらりと見て小走りで一階へ下りていった。

「……胸、見すぎ」

「なんのことかな。それより、ほら、こんなにある」

「だから、なによ」

 盛り上がった気分は急降下した。凍てつくような視線に俺は、ごめん、と親に怒られた子供のような状態になった。

 再びテーブルで向かい合い、無言で焼き菓子を食べた。

 またしてもノックの音が。女性が戻ってきたのかと思い、急いでドアを開けた。

 髪を結い上げた新たな女性がにこやかな顔で立っていた。

「勇者様はお酒を(たしな)みますか?」

「好きですが最近は口にしていません」

「この街に立ち寄った行商の人から買い入れた品があります。どうか受け取ってください」

 女性は足元に置いていた小型の樽を持ち上げた。俺は迷いながらも受け取って、ありがとう、と控え目に言った。

「粗末な物でごめんなさい。でも、喜んでいただけたようで嬉しいです」

 勢いよく頭を下げるとはにかむような表情で走っていった。

「今度はお酒らしい。ルミアも呑む?」

「呑むに決まってるでしょ。早く注いで」

「わかった」

 樽の栓を取り、朝食用に使った無骨なコップに注いだ。

 瞬間、ルミアが掴み取り、喉を鳴らして呑んだ。テーブルに叩き付けるように置くと、おかわり、と低い声で凄んだ。

 俺は大人しく従った。二杯目が呑み終わる頃、窓の外から男性の怒鳴るような声が聞こえてきた。

「猛獣の群れが接近中! 厳重な戸締りをして備えるように!」

 真っ先にルミアが飛び出した。俺は後を追い掛ける。

 閉じられそうになった門を二人で走り抜けた。前方に土煙が上がっている。

 走り出そうとした矢先にルミアが叫んだ。

「爆炎に舞え!」

 杖に嵌め込まれた輝石が真紅に染まる。

 大地から巨大な火柱が噴き出した。燃える巨体が幾つも宙を飛び、地面に叩き付けられた。

「千切れろ!」

 何もない空間に細い竜巻が起こる。数は二十を超え、複雑に絡み合う。その中に取り込まれた猛獣は、巨大な手に捕まったかのように呆気なく捩じ切られた。巻き上げられた内臓は土砂降りの雨となって辺りに降り注ぐ。

 赤ら顔のルミアは止まらない。鬱憤を晴らすように、串刺しだ! と立て続けに叫んだ。

 空に無数の光が瞬く。猛獣を狙った神々しい矢が降り注ぎ、無慈悲に大地へ縫い付けた。

 瞬く間に凄惨な場面を作り出す。漂う悪臭に思わず、鼻を摘まんだ。

 ルミアは怒ったような声で、臭いんだけど、と非難の声を上げた。


 翌日、旅支度を終えた俺達は人々に惜しまれながらもエスカトレアの街を出た。

 俺は後ろ髪を引かれる思いで振り返る。その横でルミアは声を荒げた。

「なんなのよ。次から次に。発情した女ばかりで、もう、うんざりよ」

「もしかして俺のせいなのか?」

「そこまでは言わないけど。戦う姿が、ちょっと素敵なくらいで……」

 アヒル口で口籠る。俺の様子を窺うような視線には憧れと淡い期待が混ざっているようだった。

「ルミアがいるから俺も全力で戦えるんだ。口には出さなかったが感謝している」

「その気持ちは行動で示して欲しいなぁ。もうすぐ視界の悪い森に入るよ」

 杖の先端を前方に傾ける。その先に身悶えるような木々が待ち構えていた。暗褐色の木肌はひび割れ、茂る葉は一様に黒ずんで見える。


 不吉な予感しかしない。


 そんな俺を余所にルミアは声なく笑う。見えた白い犬歯に身震いが起こった。武者震いではなくて、肉食獣に狙われた草食獣の心境であった。

 俺は再び、死亡フラグを心に強く思い、暗い森へと踏み込んでいった。

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