42話 死亡フラグがビンビンの世界(4)
所持スキル
パッシブスキル 『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』
『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』
『投擲(必中)』『レア世界』
アクションスキル 『空中跳躍』
眠い中、今日も狩りで金稼ぎ、とはならなかった。
宿を後にするとルミアは開口一番、街を出る、と言ってきた。不満でもあるのか。アヒル口になっていた。
「どうしてだ? 実入りは悪くないし、この街は住み易いと思うが」
「……美味しい食事に釣られてお酒が進む」
「それだけで?」
「わたしのせいなんだけど! 夜のお返しが欲しいの」
鼻筋に皺まで寄せて凄んできた。その圧に俺の笑顔も強張った。
「その、あれだ。行き先は決めているんだよな」
「大体は。魔王の居城に乗り込むのは早いからエスカトレアに行こうと思う」
「選んだ理由を訊いてもいい?」
「もちろん魔王の領地に近くてぇ、美味しいお酒がないんだよ」
ルミアは杖を胸の谷間に押し付けて腰をくねらせる。俺は目頭を揉む仕草で艶めかしい姿から逃れた。
街を出た俺達は平原を突き進む。その道中、荒々しいバイソンのような猛獣の群れが横切った。長大で切れ目が見えない。
俺は無理な強行突破をやめて緩やかに足を止めた。
逆にルミアは先頭に立ち、杖を掲げる。
「燃え尽きろ!」
嵌め込まれた輝石が眩い光を放つ。瞬く間に宙へ小さな火球を無数に生み出し、機関銃の速さで打ち込んだ。火中の栗のように猛獣は燃えながら弾け、爆炎に呑まれた。
黒い大地に焼け焦げた肉塊が燻る。その中をルミアは小柄な死神となって突き進む。大量に消費した魔量を補う為、腰に取り付けたポーチから細長い薬瓶を取り出した。親指で栓を弾き飛ばすと一気に飲み干す。
「すっきりしたー」
場違いな明るい声に俺は震えた。相当、ストレスが溜まっているようだ。その原因は考えないようにした。
行き先を遮るように巨大な甲虫が大地から続々と湧き出す。人間を軽く凌駕した大きさで傍目にはカブトムシの雌に思えた。
「切り刻め!」
先程と同様にルミアは杖に命じ、光の刃で甲虫の大群を切り刻む。切り口からドロリとした体液が溢れ、鼻を摘まみたくなるような刺激臭を撒き散らした。
「なんなのよ、この臭いは!」
引き起こした本人が不平を漏らす。俺は機嫌を取る目的でルミアを横向きに抱え、瞬時に走り抜けた。長旅に備えた短剣が早々と役に立った。
「ええっ、なんで!?」
「秘めた能力が開花したんだ。女神様のおかげかな」
「そんなこと言われたら、もう、濡れちゃうよぉ」
潤んだ目で内腿を擦り合わせる。その甘えた声に思わず、唇を合わせてしまった。
「……ん、夜まで待って」
ルミアは人差し指でバツ印を作ると唇に押し当てた。愛らしい仕草に直視ができない。速やかに下して、悪かった、と素直に非を認めた。
「そんなハルトが大好きだよ」
俺を正面から抱き締めた。その柔らかさに癒される。短剣を腰のホルダーに収め、相手の好意に答えるように背中にそっと手を回した。
途中、休憩を挟みながら夕闇に包まれたエスカトレアに到着した。強固な石の防壁は見上げる高さがあった。取り囲む掘りも備え、跳ね橋の先には屈強な門番が立ち並ぶ。
「そこで止まれ。身分を証明する物を提示せよ」
ルミアはアミュレットのような物を取り出し、威厳のある声で応じた。
「我らは国王から任命された勇者である。王命に従い、門を開けられよ」
門番の一人が歩み出た。ルミアの手に握られた物体を見て態度を軟化させた。
「ようこそ、いらっしゃいました。魔族の脅威に晒された街ゆえの行動と、ご寛恕ください」
「重々承知しております」
ルミアは勇者らしく振る舞う。俺は緊張して一言も言葉が浮かんで来ない。任せっきりで街の中に通された。
前の街と比べて華やかさに欠ける。出歩く者はほとんどいない。入り組んだ石畳の道は不規則な形で先が見えなかった。攻め込まれた時を想定して作られたのだろうか。街全体が迷宮に思えた。
宿屋は簡単に見つかった。門に近いところにあった。早速、宿泊の手続きを済ませる。
部屋は二階の奥で通常と比べて二倍の広さがあるらしい。壁も厚くて音が漏れ難いそうだ。
「恋人と思われたんだよ」
ルミアは嬉しそうに腕を組み、柔らかい膨らみを押し付けてきた。愛らしくも恐ろしい。平原の苛烈さを今更ながら思い出し、背中に冷たい汗を感じた。
部屋には二台のベッドの他に、こじんまりとしたテーブルと二脚の椅子があった。用途はすぐにわかる。貫禄のある女将が夕飯を運んできた。
「治安が悪くて供給が滞りがちで。済まないね」
去り際の言葉が示す通り、質素な夕食となった。
ジャガイモに似た物が皿に転がる。他には具のない卵色のスープ。
デコボコの鉄製のコップには白い液体が入っていた。白ワインの淡い期待は裏切られ、ただの水だった。
想定よりも酷いのか。ルミアは渋い顔でポツリと呟く。
「なんか、ごめん」
「質素な料理も悪くない」
「うん、そうだね。それに今夜はこの部屋で二人っきり。お返し、期待してもいいんだよね?」
「食べてからにしよう。急がないとスープが冷める」
俺は粗末な木のスプーンで掬い、スープを口にした。味がよくわからない。ジャガイモは皮ごと齧る。口の中の水分が奪われ、急いでスープを啜った。
味気ない食事は女性の悲鳴で中断となった。男性の叫ぶ声が続き、連鎖するように広がっていった。
そこに伝令の叫ぶ声が割り込む。
「魔族の奇襲だ! 武器を携え、戦いに備えろ!」
俺とルミアは目で合図を送り、揃って勢いよく立ち上がった。




